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ダンジョン・マンション ~地方公務員の隠れたお仕事?現代陰陽師はスマートグラスで無双する!
ダンジョン・マンション ~地方公務員の隠れたお仕事?現代陰陽師はスマートグラスで無双する!
cyber_tuna
現代ファンタジー現代ダンジョン
2025年07月07日
公開日
1.4万字
連載中
ダンジョン化したマンションで、戦う地方公務員! スマートグラスを起動させ、"にわか陰陽師"へと早変わり! ダンジョン主の"本霊"相手に、七転八倒の大立ち回り! 地方公務員として東京近郊のxx県に務める當間裕希(とうまひろき)21歳。 所属するのは、都市整備部 特別住宅課。そこで起きてる問題、それは、人口減少により限界建物や廃墟となった団地やマンションが、大規模なポルターガイスト――悪霊によって建物ごとダンジョン化する現象。 今日も同僚の剣崎と車で現場のマンションへ。エレベーターで呪を唱えドアが開くと現れたのは城型ダンジョン。 現われた骸骨の武士を前にして、スマートグラスのアプリを起動し、陰陽師のスキルをオン!陰陽師の力を得て、白虎や鬼切丸を顕現させる。 敵をかたずけながら天守閣を目指し先へ進むも、城から吐き出される大量の敵に襲われピンチに。絶体絶命の危機に現れた意外な助っ人、その正体とは、さらに彼の目的とは何か── そして、再び城を登り進める當間と剣崎の前に待ち受けていたのは……

第1話 地方公務員のお仕事

 20xx年、人口減少が止まらない日本。限界地域は、地方や集落にとどまらずマンションや団地など、よりミクロで身近なレベルにまで進行。そして近年、こうした空洞化に新たにオカルティックな問題が発生していた……


 * * *


 六月下旬。梅雨真っ只中のはずなのに、連日の晴天。今日も真っ青な空に、もくもくと白い入道雲が立ち上っている。


 混み合った国道をノロノロと進む旧式のワゴン車の中で、襟の付いたベージュの作業着を着た僕は、ハンドルを握っていた。冷房の効きは弱く、額にはじっとりと汗が滲む。

 所々に汚れが目立つ車体には、「xx県 都市整備部 特別住宅課」と、かすれた文字で書かれていた。


 〈都市整備部 特別住宅課〉それが、僕──當間裕希とうまひろきの勤め先だ。いわゆる地方公務員。勤め始めて3年目の21歳。仕事には慣れてきたが、特にやりがいを感じているわけでもない。ただとどこおりなく、淡々とこなすだけの毎日。


「しっかし、給料って上がらねぇなー」


 助手席に座る同じ作業着を着た坊主頭の男がぼやいた。同い年の同僚、剣崎保けんざきたもつ君だ。


「そりゃーまあ、なかなかねぇ……」


 軽く返事を返す僕。


 今日は二十一日、僕ら県職員の給料日(世のサラリーマンより一足早い)。朝に支給されたその給料明細を眺めながら、剣崎君の愚痴は続く。


「先月だって結構活躍したろ、俺もトウマも」


「でもまあ、一応特別手当がついてるし」


「手当って言ったって、封印手当ふういんてあてが月二万だろ。もう少しどうにかならないかって話だよ」


「ははは……」


 午前中の交通量の多い国道、運転に集中したい僕は軽く笑って流す。


「ちぇっ」


 給料への不満か、それとも話に乗ってこない僕へのあてつけか。剣崎君は舌打ちして頭の後ろで手を組むと、シートにもたれかかった。


 (ふぅ……)


 心の中でため息をつく。実を言うと、当たり前のように「トウマ」と呼び捨てにする剣崎君が、僕は少し苦手だった。歳こそ一緒だが、仕事は僕の方が一年以上も先輩なのに、いつもどこか上から目線……


 それに見た目がいかついのもちょっと引く。坊主頭(五分刈り)と言っても高校球児のような爽やかさはなく、どこかオラついた雰囲気。そして極めつけが、「俺、昔二年ほど引きこもってたんだ」という謎のマウントを取ってくるところ。


 実は剣崎君は正式な職員ではない。県の「引きこもり就労支援」の一環で臨時職員として採用されているのだ。つまり、どこにも僕へのマウント要素はないはずなのだが……


 車は、混み合う国道を離れ、住宅街へと入る。しばらく進むと、大きな古いマンションが見えてきた。建物のシルエットが霞んで滲んだように見える。夏の暑さによる陽炎かげろうなどとは違う、そこだけスモッグが発生したような不自然に霧がかった建物。


──間違いない、あれが今回の現場だ


 そう確信した僕は、はやる気持ちを抑え慎重に車を進めていく。


 建物の前に車をつけ降りる。じりじりと照りつける真夏の陽射しに、アスファルトからの照り返し。周囲に響くセミの声……そして、鼻をつく異様な臭い。詰まった排水口や食べ物の腐敗などとは違う、しかし何かが腐ったようなすえた匂い……現場特有の“あの匂い”だ。


「くっさ!」


 剣崎君が顔をしかめて言った。


 これまでも何度も嗅いだこの匂いだが、未だに慣れることはなかった。


 マンションの前に立つと、入口には立て看板が掲げられていた。


 《住居者および関係者以外の立ち入りを禁ず》


 だが、その「住居者」はすでに5世帯しか残っていない。今朝見た居住者リストには、一人世帯の高齢者ばかりが並んでいた。都会に取り残された独居老人の居住地──今では珍しくない光景だ。


 ひびの入ったコンクリートの階段を上がり、建物の中へ。古いポストが整然と並ぶエントランス、さらにその先の薄暗い廊下には、人の気配が全くなく、不気味なほど静かだ。

 ただ、霧は確実に濃くなり、すえた匂いはますます強くなっていった。


「さっさと終わらそうぜ」


 古びたエレベーターの前で剣崎君が鼻をつまんで言った。


「そうだね」


 僕はそう答えて、エレベーターのボタンを押す。実際、あっちへ行ってしまったほうが匂いは気にならなくなるし……


 エレベーターを待つ間に、僕はポケットから取り出したスマートグラスをかけた。剣崎君も取り出したスマートゴーグルを装着する。


 エレベーターの扉が静かに開いた。中に入り、5階を押す。特に意味はない。何階でもいいのだ。まあ気分的に4階は選びたくないが……


 ゴトッと一度大きく揺れてエレベーターが上昇を始める。上部で順番に光っていく階数表示を見ながら、僕は懐から短冊のような一枚の紙を取り出す。毛筆で文字が書かれた護符。同じものを手にした剣崎君、顔を見合わせると、声を揃えて唱えた。


かいっ!」


 白く光って護符が消える。しかし、特に何も起こらない。ただエレベーターが止まっただけ……だが、扉が開くと──景色は一変する。


 現われたのは、重く、そして暗く垂れこめた雲の下、どんよりとそびえる一城の古城。城全体から瘴気のような、闇色の霧が広がり、空気までも淀ませている。


 苔むした巨岩を無骨に積み上げた石垣に、黒い染みが浮かぶ朽ちた漆喰しっくい壁、所々瓦がはげ落ちた瓦葺かわらぶきの屋根──そして天を突くようにそびえ立つ黒い天守閣が、僕らを威圧するかのように見下ろしていた。


「ちくしょうが、今回のダンジョンは城かよ──つか、でけえなぁ……」


 そびえ立つその城を睨みつけながら剣崎君が言った。




 近年、日本のあちこちで発生している新たな空洞化問題、それがこの「ダンジョン化」だった。人口減少により限界建物や廃墟となった団地やマンションが、大規模なポルターガイスト──悪霊によって建物ごとダンジョン化する現象。


 ダンジョン化した建物は、内部から異臭を伴う霧が発生し、放置すれば霧に飲み込まれ、その地域全体が消失するという。

 そして、ダンジョン化を解くには、内部に巣くうダンジョンマスター──"本霊"を退治する必要があるのだ。


 対応を迫られた政府はこの問題の対策案を講じると、その執行を各都道府県へ委託(丸投げ?)。そして、ここxx県では都市整備部特別住宅課がその任を命じられていた。


 その結果、今僕らは、こうしてここに立っていると言うわけだ。


 担当する職員は、市民への口外を禁じる秘密保持契約を結ぶ代わりに、”封印手当”として月2万円(たった2万!)が支給される。霊の封印と口外禁止、二重の意味での「封印」手当というわけだ。


 そして、専門知識のない地方公務員による除霊という、この荒唐無稽こうとうむけいな計画を実現させるため、僕たちにはある特別なツールが支給されていた……




「相変わらず気色悪い所だな……」


 城から放たれれる禍々しいオーラを感じながら剣崎君がつぶやく。その言葉に反応するように


 ギィ……ギィ……


 城正面の木戸から、軋むような音が響きわたる。ゆっくりと開かれた扉の中から、ゆらりと影が姿を見せる。


 現われた人影。いや、正確には"かつて人だった"残骸。薄汚れた骨と、所々が朽ちた鎧をまとった骸骨の武士が、ゆらゆらと不安定に身体を揺らしながら現れた。

 彼らの正体は「彷霊ぼうれい」、悪霊の親玉である"本霊"に吸い寄せられた霊たちのことだ。


「出てきやがったな……」


 そう言うと剣崎君がスマートゴーグルのスイッチを押す。その隣でつられたように、僕もスマートグラスのスイッチを入れた。


 悪霊に対抗するため、僕たちが頼る唯一の手段、そのツールがこの中にあるからだ。



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