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第2話 与えられた能力

 目の前に現われたダンジョン──不気味な古城の前で、スマートグラスの電源を入れた僕たち。青白い光が瞬き、OSが起動する。


 悪霊に対抗するため僕らに与えられたツール──それが、スマートグラス一体型のアプリ、そして、使える能力は──陰陽師の力!


 スマートグラス越しにAR(拡張現実)で視覚内に情報が浮かび上がる。キラリと五芒星ごぼうせいが煌めき、続いてかわいらしいキツネのイラスト、そして表示されるアプリ名──「陰陽師でGO!」


 このふざけた名前を見ても、今ではもう何も感じなくなっていた。


 その後に表示される「監修:東日本陰陽師保全会」の文字、今さらツッコむ気にもならない。


 アプリが完全に起動し、目の端に霊力カウンターが表示される。ダンジョンに侵入した時点から霊力は減り始めるため、カウンターも既に減少を始めていた。


 だが構っている暇はない。黒い城の門から、湧き出るように現れた骸骨の武士たちの集団は、既に10体ほどに膨れ上がっていた。


紙魔顕現こまけんげん──白虎!」


 僕の発した声に反応するスマートグラス、アプリにより術式ガイドが投影され、視界に結ぶべき印が次々と現れる。僕は素早く、表示にならって両手を動かし、空中に浮かぶ印をなぞるように結んでいく。


 すぐに、僕の近くで黒い靄が壁のように立ち上がり、波紋を描いた。


──ゆらっ……


 波打つ波紋を突き破り、巨大な白い虎が飛び出してくる。地面に着地すると、鋭く低い唸り声を響かせた。


「行け!」


 白虎は即座に駆け出した。流れるような白い残像を残し、骸骨の武士たちに向かって襲いかかっていく。



 スマートグラスと連動したこのアプリ「陰陽師でGO!」(通称:インゴウ)を使うことで、誰でも"にわか陰陽師"として活躍することが可能になるのだ。

 そして、僕の陰陽師スキルは「式紙使い」、一方の剣崎君は……


武具顕現ぶぐけんげん──鬼切丸おにきりまる!」


 僕のすぐ横で、剣崎君が呪を唱え、印を結び始める。彼の足元で自身の影が不気味に揺れた。その中に浮かび上がる刀の柄。


──ずぶりっ


 闇から剥がすように引き抜く。現われたのは、刃渡りの長い太刀。大きく反った刀身が流れるような流線型を描いていた。


「おりゃっー!」


 叫びながら、剣崎君が骸骨たちに斬り込んでいく。白虎が跳躍しながら敵を喰いちぎり、剣崎君の太刀が骸骨を切り伏せる。倒された彼らは、黒い霞となって霧散していった。


「よしゃ!」


 刀を握った拳をさらに強めて剣崎君が声を上げた。


「霊力は?」


 僕が訊くと、彼は目の端のカウンターを確認して答えた。


「87%ってところか。まだまだ余裕」


 霊力は、式神や武具の具現化でも減少し、さらに敵からの攻撃を受けても消耗する。油断は禁物だ。


 僕は改めて、前方にそびえる妖城に目をやる。城ってことは、ダンジョン主である本霊はおそらく……


「親玉は一番上、だな」


 隣で城を見上げながら、剣崎君が言った。


「よし、行こう」


 僕の掛け声で、二人は城の一番上、天守閣を目指して走り出した。



 木戸門をくぐり、砂利道を進んでいく。両脇には大木が並び、風に揺られてざわざわと葉を鳴らしている。


──?


 感じる違和感……この木立の揺れ、ただの風の揺れだけではない?


 突然、枝の一部がしなり、鞭のように僕らに襲いかかってきた。横っ飛びで躱す僕と白虎。その場で踏ん張った剣崎君が刀で切り迎える。


「うりゃ!」


 大刃一閃、枝は見事に真っ二つに斬れた……かと思いきや、切断面からすぐに再生を始めた。


「ちくしょうが」


 刀を構え直した剣崎君が吐き出すように言った。


 気がつけば、並木道の木々すべてがうごめき始め、枝を伸ばしてこちらに襲いかかってくる。体に巻きつこうとしなる蔓、槍のように突きを繰り出す枝。

 僕と白虎は跳躍しながら回避を繰り返し、剣崎君が手当たり次第に切り伏せるが、次々に再生してキリがない。


「……白虎、戻れ」


 僕がつぶやくと同時に虎の姿が霧散する。そして続けて呪を唱える。


「紙魔顕現──炎狐えんこ!」


 スマートグラス越し、視界に映るガイドに従い印を結ぶ。黒い靄の中から姿を現す一匹の狐、その尾に紅蓮の炎をまとっている。


「燃やせ!」


 狐が口から勢いよく火を放つ。瞬く間に目の前の木が燃え上がる。悲鳴のような音を立て、苦しげにもだえている。

 次々と炎を吐き出す炎狐。周囲の木々に延焼が広がり、焦げ臭い匂いが辺りに立ち込める。

 やがて静寂が戻り、焼け焦げた残骸だけが残った。


「ふぅ……」


 眼鏡に手をやり、安堵の息をもらす僕。


「やるじゃねーか」


 横に立つ剣崎君がくすぶる瓦礫を見ながら言った。


 (だからなんで上から目線なんだよ……)


 彼に一瞥をくれると、僕は炎弧に戻れと命じ、そのまま目の前に迫る城に向かって走り出す。


「おいっ、トウマ待てよ!」


 背中から、剣崎君の声が追いかけてきた。


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