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私が死んだ11年目
私が死んだ11年目
甘党
恋愛現代恋愛
2025年07月07日
公開日
3.2万字
連載中
【太陽のような明るいご令嬢x一見清らかだが実はむっつりな投資家】 藤原家の長女、藤原美香は目を覚ますと、死後十一年目の世界に転生していた。 死の間際に知ったことは、この世界が一冊の小説であり、三人の弟たちはすべて悪役だということ。 一番目の弟は、凄腕で星輝財閥の社長としてビジネス界に君臨し、ヒロインに恋し、ヒーローと対立する。 二番目の弟は、誰にも頭を下げることのない、よく炎上される芸能人で、バラエティ番組ではいつも男優賞受賞のヒーローと喧嘩する。 三番目の弟は不良たちのリーダーで、勉強せず毎日喧嘩ばかりして、ヒーローの秀才弟を怪我させて入院させる。 三人の弟はすべて悲惨な結末を迎える。 そして、彼女自身は、ヒーローが高校時代に死んだ「初恋」として存在して、その役目は男主人公たちのすれ違いを成立させることだった。 美香は苦笑いを浮かべ、悪役になりかけた弟たち一人一人をしつけ始める――!

第1話 死後十一年目


藤原美香は十八歳の時に死んだ。


道路でブレーキが突然効かなくなり、通行人を避けようとハンドルを大きく切った。

車はガードレールを突き破り、最後は川に転落した。

川の水が車を覆い尽くす。死に瀕した瞬間、彼女はある夢を見た。


夢の中で、自分の世界が一冊の小説であることを知る。そして、自分の弟たちは全員悪役。


長男・藤原直樹、数珠を常に肌身離さず腕につけている冷徹社長。ヒロインに執着し、ヒーローと対立し、最後は破産。

次男・藤原俊哉、バラエティ番組で有名な映画賞俳優をいじめ。ファンのネット中傷で鬱になり自殺。

三男・藤原純也、学校中の不良の番長。喧嘩の中、ヒーローの成績優秀な弟を怪我させ、刑務所行き。


そして自分、藤原美香。ヒーローの高校時代に早死にした初恋相手。

存在する意味は、ヒーローとヒロインのすれ違いを成立させるためだけ。


これを知った美香は、怒りでそのまま夢から目を覚ました。


目を開けると、彼女は三越デパートの前に立っていた。


ショッピングモールの巨大広告に「令和七年」と書かれている。令和って何?新しい年号かしら?

とっさに通りかかった一人に尋ねた。

答えは今が2025年だった!


なんと、自分は生き返ったのだ。しかも、死後十一年目へと飛んだ?!ちょうどこの小説の物語がクライマックスに向かっている時だった。


彼女は足早にモールに入り、化粧室を見つけて入り鏡に映る自分を見た。


鏡の中の少女は、あの日デートのために用意した黒いワンピースを着た、相変わらず精巧で美しい顔。


美香の心は複雑だった。


十一年経っても、彼女はまだ十八歳のまま!


お金もなく、携帯もどこにもない。


やっぱり厄年だ。転生したばかりで、すでに息苦しいほどの現実による圧迫感!


水道の蛇口を開け、冷たい水が指先を流れるのを感じながら、美香は徐々に現実を受け入れた。


彼女は元々、メンタルが強いタイプだ。


あの頃、両親が事故で亡くなり、三人の幼い弟と彼女だけが残された。一番下の純也はまだ二歳、彼女はすぐに全てを背負った。


ティッシュで手を拭く。


その時、白いシャツに黒いスカートのスタッフ二人が手を組んでサボりに入ってきた。


「ねえ、知ってる?モール、あと三十分で閉まるって。もうお客さん払っているらしいよ!」

「そうそう、社長が来るんだって。貸し切りだって!」


美香は耳をそばだてた。


普通のモールが、突然お客さんを追い出すなんて。


さすが小説の世界、社長はやっぱり「わがまま」だ。


「きっと、早乙女遥がショッピングに来るんだからよ。社長は彼女とのデートが一般人に邪魔されるの嫌なんだ!TikTokでも話題、”藤原社長が彼女のために出演映画に出資”って!」

「最高!瀬戸さん、今ごろ後悔してるだろうね!自分と早乙女のカップリング、昔人気だったのに!」


その後の話題で、美香の笑顔は消えた。


早乙女遥?たしか小説のヒロインだったはず。

瀬戸さん?多分、ヒーローの瀬戸達也。


じゃあ、この「バカ」社長、まさか自分の弟・直樹?


ちょうど会いたいと思っていたところだ。


まさにいいタイミングと場所だ。


でも今は、もっと急ぎの用事がある。


美香は、まだ噂話しているスタッフたちに向き直った。


「すみません、モールにオニツカタイガーの専門店はありますか?」


二人は、化粧室に若い少女がいることにようやく気づいた。顔立ちが驚くほど美しく、芸能人より目立つほど。


一人のスタッフは見とれてしまい、もう一人は親切に答えた。

「ありますよ、二階です。お客様は自分用ですか、それともプレゼントですか?」


美香は微笑んだ。

「正しくは、買ってバカ弟を殴るためです。」


二人のスタッフ:「……」


通常、モールは、お昼の時こそ客足がピークだ。

すべてのお客さんを追い出せば、午後の損失も大きいし、顧客の評価も下がる。

もしちょうど食事中に追い出されたら、もう二度と来たくなくなるだろう。


どうりで直樹が最後は破産する羽目だ。こんな経営じゃ、破産しない方が不思議!


彼女が十八歳のとき、直樹は十五歳で、中三だった。

成績優秀で商才もあり、ゲーム機を転売して数万円稼ぎ、有名ブランドのバッグを自分の彼女に買ってあげた。

両親が生前経営していた不動産の一つ、このモールが今彼のものでもおかしくない。


でも、どうして頭がおかしくなったのだろう!


スタッフの驚いた視線の中、美香は化粧室を出て、ちょうど警備員と鉢合わせた。


「申し訳ありませんが、モールはこれから休業です。お早めにご退店ください。」


美香は丁寧に尋ねた。

「ここの管理者に用があるのですが、ご連絡いただけますか?」


社長がここにいるなら、管理者もその社長の傍に付き添っているはずだ。


警備員は日常的に色々な顧客の要望を処理しているので、うなずいた。「分かりました、ちょっと聞いてみます。」


彼はマネージャーの田中に電話をかけた。


「何の用?」田中が聞く。


警備員:「一階に女性のお客様がお呼びです。」


田中:「今日は忙しい、また明日にしてもらって。」


警備員は美香を見て、「今日は無理だそうです。」


美香は微笑んだ。

「携帯、貸してください。私が直接話します。」


田中はまだ、椅子に座り数珠をつけた直樹と雑談していた途中だった。

そろそろ電話を切ろうとしたとき、受話器からさっぱりしたが、怒気を含んだ声が響いた。


「管理者さん、今、直樹と一緒にいるでしょう?代わって!」


田中は心臓が跳ねた。


誰だ?社長を狙った追っかけ女か?


藤原社長は若くてイケメン、資産もあって、ファンも多い。社長のことなので勝手に判断はできない。


彼はミュートにして、恭しく伺った。

「藤原様、一階の女性が電話をおつなぎしたいそうですが……?」


社長は断るだろうと思っていたが、意外にもほとんどためらわずに手を差し出した。


田中はミュートを解除し、携帯をそっと差し出す。


直樹の声は冷たかった。「どなたですか?ご用件は?」


美香:「私だよ、美香。あんたに……」


直樹の目が一気に冷たくなった。即座に遮る。

「黙れ。」


オフィスの空気が一気に冷える。


田中は頭皮がゾワっとし、すぐに警備員にメッセージを送る。

【早くその女を追い出せ!】


椅子の男は端正な顔立ち、スーツ姿、ぞっとさせるオーラを放つ。


田中は汗をかきながら、「藤原様、警備員がすぐ対応いたしますので……」


相手の声はよく聞き取れなかったが、社長に付きまとう女に違いない。今の社長の心は早乙女遥にしかない。身の程知らずめ!


直樹は、自分のお姉さんを騙る人間が現れるとは思わなかった。数珠を強く捻り、怒りを抑えつつ、自分のスマホを手に取る。


ピン止めしてあるチャットを開き、メッセージを送った。

【今、人払いしている。着いたら教えて。迎えに行く。】


前に送ったメッセージは「もう出発した?」というものだったが、まだ返信はない。最近映画のプロモーションで忙しいのだろう。


藤原社長の冷たい瞳に、珍しく柔らかい光が宿るのを見て、田中は「あ、これは早乙女遥とLINEしてるな」と悟った。


「藤原様、早乙女様の新作映画、すごく良かったです!家族で三回も四回も観ました!」


直樹は顔を上げ、顔にごくうっすらと微笑みを浮かべた。「そうか?」


田中はうなずく。「はい!デパートの従業員全員で応援するよう手配します!」


直樹はさらに表情を和らげ、茶を口にした。「よし、費用は会社持ちだ。」


田中は満面の笑みで、急いでお茶を継ぐ。


星輝ほしきプラザは星輝財閥の系列企業で、桜川市だけで八店舗、全国で百以上もある。社長にアピールするチャンス、絶対に好感度を稼がなくては。昇進のチャンスだ。


隣の補佐・竹内葵は、社長の恋に目のない様子を見て眉をひそめた。


早乙女がショッピングに来るからって、大事な会議を中断してまで、モールで前乗りで待機。客の追い出しが終わってから来ればいいのに、社長はなぜか先に来てしまう!


携帯には会議関連の仕事メッセージが山ほど溜まっている。しかもおべっか使いまで同席中、仕事の相談もできない。


このまま働き続ければ、自分の表情筋のコントロールが崩れそうだった。


田中がまた笑顔で言った。

「藤原様、早乙女様がイメージキャラクターを務めるブランドは……」


「田中さん、先にモールの状況を確認してください!」竹内補佐が堪らず口を挟んだ。


田中は補佐を冷たく一瞥。「竹内さん、心配ご無用、手配は完璧です!」


直樹は数珠を指で弄びながら、冷たい目で補佐をにらみ、田中に向き直った。「続けて。」


竹内はぐっと言葉を飲み込んだ。


「早乙女」という名前が出るたび、社長がバカになり下がるみたいだ!


田中は心の中でため息。こんな補佐、どうやってなれたのやら、しかも女だし!


だが顔には出さず、続けた。「早乙女様のブランドは当店で……」


言い終わる前に。


キィィィィィィ……


マネージャー室のドアが開いた。


三人は顔を上げた。


18歳くらいの少女が扉の前に立っていた。背後には息を切らした警備員。


田中は顔色を変えた。「誰だ?出ていけ!警備員、早く排除しろ!」


竹内は黙っていたが、少女の顔を見て、どこか見覚えがあると感じた。


直樹も黙っていた。彼はその場で固まり、頭が真っ白になった。


少女が怒りを露わにして駆け寄り、彼の耳をつまみ上げた。


「直樹!お前、姉の電話を先に切るなんて、随分と生意気になったな!」


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