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第6話

「あの、あれ? 妖術師っての、今日学校に来てた……白樫さん?」

「然り。あれもその一派ですにゃ」


 ハルは多少だぶついた顎を引いて見せた。


「あの、あの子が朝の時間、何かした時猫の声が聞こえたんだけど、あれってもしかして」

「然り、然り。あやつの術を邪魔してやりみゃしたわ。急なことで夏雄殿のことしか守れませんでしたがにゃあ」


 カカカッと嬉しそうに喉を鳴らす。


「そりゃまあ、ありがとう……え? っていうかハルって学校の中に入ってきてるの?」

「今ちょうど色々ざわついておりますので……まあ、基本我らの手の者はどこにでも入りこみみゃすよ」


 何か不安になるようなことを言っているが、猫だと考えればわりと自然なことか。


「そこでですにゃ、私が朝助けた礼を求めるというわけでもにゃいんですが、夏雄どのに手助けして欲しいことがありみゃして……」


 ほらきた。


「あの邪悪なクサレ妖術師どもの調査にご協力願いたいんですにゃあ」

「やだよ」


「にゃんと?!」


 ハルは威嚇するような鳴き声を上げ、一つ塀の段差を飛び降りた。


「平穏にゃ日常が脅かされそうとしているのですよ?! 我らの飴子を守らねば、とかそ

ういう使命感は夏雄どのにはにゃいのですか?」


「まあ、なくはないけど……そんなに悪いことしそうな子には見えなかったんだよね」


「自分さえよければ、自分さえよければそれでいいんですか?! そういう今だけ、自分だけ、というにゃげかわしい精神が今のこの現状を作り出しておるのではにゃいんですか?」


 ハルが熱弁を振るっている。どうにも怪しい。


「だから今、僕はこの現状に特に不満はないんだってば。いや、そりゃ大きな意味ではね? 世界的に色々大変だなあ、とは思ってるけどハルの言ってることってもっと局地的な話なんでしょ?」


 カーッ、と僕に喝を入れるように大口を開ける。


「全てはつにゃがっておるのですぞ!」

「とにかく今回はパスね。協力はしない」


「しかし……実際のところ気にはにゃらんのですか? ああいう胡乱な者が飴子をうろついておるのを」


 ハルの鳴き声にあわれっぽい調子が入り混じる。僕は少し戻って古びた階段から墓地跡の側に侵入した。ほとんど人通りもないのだが、さすがにあまり道端で猫を話続けたくはない。


「まあ気にならなくはないんだけどさ……」

「でしょう? 何かあやつらが奇妙な妖術を使ったのは間違いのにゃいところで」


 そこは確かにそうなのだ。


「でもほっときゃ一カ月もしないでどこか他所に行っちゃうんだよ」

「そうにゃんですか?」


 ハルは意外そうにヒゲを震わせる。


「自分でそう言ってたけど。今日」


 ふむう、と唸ってハルは考え込んでしまった。


「あみゃり大きな声では言えんのですが……実を申しますと、今飴子の猫どもの間でもおかしな動きがございみゃしてな。きゃつらめの滞在はそれと連動しておるのかもしれみゃせん」


「ええ……猫もまた何かやってるの?」

「みゃたとは失礼な」


 カッと口を開くハルを見ながら僕は朽ちた段差に腰を下ろした。道側から見えないように腰を屈めていたのだが、さすがに辛くなってきたのだ。


「飴子の猫の動きの方に、ハルは関わってないの?」

「関わってはおるのですが、少々合点のいかにゃいことも多く……」


 ハルの声が尻すぼみになっていく。


「じゃあさ、その猫のほうの事情も教えてよ。教えてくれたら手伝ってもいい」

「いや~、アレは人間にはあんみゃり関わりのないこと……と言いみゃすか……」


 怪しい。謎の転校生も怪しいが、僕にしてみたらこっちも充分に気になった。


「教えてくれないなら手伝わない。教えてくれるなら手伝う」

「では……みゃあ……」


 渋々ながら、ハルは承知してくれた。


「で、調べるって僕は何すりゃいいのさ?」

「ああ、それはですにゃ。まずはあの一派の……」


 ハルは偉そうにヒゲをピンと立て、作戦説明といった態で語り始めた。



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