深侑の体を気遣い、エヴァルトからは『しばらく一緒に眠るのは控えましょう』と言われた深侑だが、久しぶりに自室の広いベッドに一人で寝転がると虚しさに襲われた。
「……ねむれない」
一人になると部屋の静けさが気になり、眠れなくなってしまった。深侑は音を立てないようにそっと自室を出て、隣のエヴァルトの部屋の扉を控えめにノックする。中からはすぐに「誰だ?」と返ってきたので「俺です」と呟けば、ガタンっと中から音がした後にエヴァルトが扉を開けた。
「せっ、先生!? どうしたんですか?」
「それより、すごい音がしましたが大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です。少し……足をぶつけただけで」
深侑が部屋に来ると思っていなかったので、エヴァルトは慌ててベッドを降りたらサイドテーブルに足をぶつけたのだ。足の甲が少し赤く染まっているのを見て、深侑は小さく笑った。
「そんなに急がなくてもよかったのに」
「先生に何かあったのかと思って、驚いたんですよ……」
「ふふ、すみません」
「それで、どうしたんですか? 何かありました?」
「いえ……ただ、小公爵様と一緒に眠りたかっただけです」
「えっ」
エヴァルトの大きな手をぎゅっと握り締め、深侑は上目遣いでエヴァルトを見つめる。「迷惑でしたか……?」と言いながらこてんっと首を横に倒すと、エヴァルトの眉間に皺が寄った。
「うっ。し、仕方のない人ですね……」
難しい顔をしながらエヴァルトは深侑の体を抱き上げ、すっかり寝慣れたベッドに柔らかく降ろしてくれた。
「あの、小公爵様」
「はい?」
「今日は俺のほうが元気がないので、触っていただけませんか」
「なっ……!?」
「小公爵様になら……怖くないですし、“そういうこと”に慣れたいので……」
「せ、先生……」
「ダメ、ですか?」
ごくり、エヴァルトが唾を飲み込むと喉仏が上下する。それが妙にいやらしいなと深侑が眺めていると、エヴァルトの瞳がギラリと光ったのが分かった。
「……私のマスターなのに、今日は甘やかしてほしいと?」
「んっ、はい……」
「わがままな人ですね」
ベッドに降ろされていた深侑の体がふわりと浮き、エヴァルトの膝に乗る形になる。やはりエヴァルトと肌が触れ合っていると安心するし温かい気持ちになるなと、深侑の心臓はとくんとくんと跳ねた。
「どうやって甘やかしてほしいですか?」
「んん……キスマーク……」
「ん?」
「キスマーク、たくさんつけてほしい、です……」
ちらり、深侑は自分でガウンの襟を寛げると、エヴァルトがすぐに肌に吸い付いてきた。
「……っ先生、あまり煽らないでください」
「でも、小公爵様に触られるの、気持ちいいんです……」
「だから! ああ、もう……本当に悪い人だ」
エヴァルトの鼻先が当たると、するりとガウンが肩から落ちていく。はだけて露出した深侑のピンク色に染まる肌にエヴァルトは唇を這わせ、時折強く吸い付いてはキスマークをいくつも残していった。
「ココも、キスマークをつけられたみたいに赤くなってますね」
「やっ、そこちが……んぁっ!」
ちゅ、と口付けられたのは胸の突起。空気に触れて尖ってしまった先端に柔らかく息を吹きかけるように唇で触れられ、自分の口から甘い声が出て深侑は驚いた。
咄嗟に口元を両手で塞ぐ深侑を見て「先生、声が出るのは自然なことですから」と言いながら優しく手を外され、エヴァルトの首に回される。そうすることで更にエヴァルトの顔が胸元に近づいてしまい、ねっとりと熱い舌に舐められた。
「ひゃぅ……っ」
「先生、可愛い。可愛いですね」
「かわいくな……! おれ、26歳、だもん……!」
「年齢なんて関係ないですよ。私が可愛いと思えば可愛いんです」
「やぁ、も、くすぐったい……」
時々カリッと食まれ、熱い舌の上で転がされる。胸の突起の近くをじゅっと音を立てながら吸われると、エヴァルトからの刺激を期待してピンッと反り立つのが分かった。
「……気持ちいいですか?」
「んっ、ん、きもちい……」
「怖くない?」
「こわくない……」
「いい子ですね」
エヴァルトの唇が押し当てられ、深侑が小さく口を開けると深い口付けが待っていた。まるで息を奪われそうなほど深い口付けは苦しくて、でも深侑の中にはたくさんの愛が注がれる。本当に好きな人から触れられるとこんなにも気持ちがいいものなのかと、口付けながら唾液で濡れたそこをエヴァルトの指で愛撫されると、深侑の体はぶるりと震えた。
「へんになる、もうやだ、小公爵様……っ」
「ん……変になっても愛してますよ、ミユ」
「だめ、だめ、そんなこと言わないでぇ……!」
「なぜ? 俺はたくさん言いたいよ、ミユ」
「ひぁ……っ?」
普段と違うエヴァルトの言葉に、深侑の腹部がずくりと重くなるのを感じる。よく分からないポイントで反応してしまった深侑を見たエヴァルトは満足気に笑った。
「……私の言葉遣いが先生の性癖ですか?」
「なに、ちが、ちがいます!」
「はは、可愛い。あまり乱暴な物言いはしたくないんですが……先生の好みなら、このままでいようか? その代わり先生も俺のことはエヴァルト、と」
「そんなのむり、言えません!」
「ミユ」
ダークグリーンの瞳にじっと見つめられると、いつも深侑の心臓は射抜かれてしまう。レアエルにも思ったことだが、エヴァルトもまた有無を言わせぬ圧を醸し出すのだ。ただの一般人である深侑は到底逆らう気にはなれないほど。
「え、エヴァルト、様……」
消え入りそうな声で絞り出すと、エヴァルトは嬉しそうに破顔した。
「ミユに名前を呼ばれるだけで嬉しい。愛してる……本当に大切で、愛してるよ、ミユ」
「んん……っ」
火傷しそうなほどの甘い熱が、深侑の体の中を駆け巡った。