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第6話

僕は今、学校生活での死を覚悟した。

なぜなら学校内で同じ制服を着ているチャトランガの幹部の1人である三叉槍トリシューラさんを、見つけてしまったからである。


(ええぇ三叉槍トリシューラさんって同じ学校だったの!?てか一緒にいる人たち完全に不良じゃん!こっわ!!)


しかも、彼の制服のネクタイの色は赤色。

それは3年生の学年カラーで、2年生である僕より先輩であることを示していた。


(……え、僕、三叉槍トリシューラさんにちゃんと敬語使ってたっけ……?)


チャトランガがただのチェスクラブだと思っていた時から僕達はお互いの年齢や本名を言わないので、勝手に三叉槍トリシューラさんとは同い年だと思っていたのだ。

何となく雰囲気が同級生という感じで、ついうっかりタメ口を使っていそうで怖い。


これで僕がもし同じ学校の後輩だとバレたのなら、「え?こいつ俺の後輩の癖してタメ使ってた?はぁ?後で校舎裏な!」という未来しか見えない。


背中に嫌な汗が流れて止まらない。


(……うぅ……ここは視界に入らないように教室に戻ろう。)


本当は三叉槍トリシューラさん達が屯している自動販売機で飲み物を買いたかったのだけれど仕方が無い。


くるりと踵を返したその時、「あ、シヴァさ……えぇっと、リーダー!」というよく知っている声が、後ろから投げられた。


うん、何故か皆僕の事様付けで呼ぶけど明らかに黒歴史になるので呼び方変えてくれてありがとう!

でもなんでリーダー!?


振り返れば何故か嬉しそうにこちらに走って近づいて来た三叉槍トリシューラさん。

後ろに置いていかれた仲間達は「え、兄貴!?」と困惑している。それもそうだろう。こんなヒョロヒョロで、目付きだけが悪い地味男を自分たちが従っている体格も良くて、顔立ちも髪色も派手な彼が「リーダー」なんて呼んでいるんだから。

これ、僕が後で彼らに「お前校舎裏な!」と言われるパターンではないのだろうか。


声を大にして言いたい。

ただの!チェス仲間なんです!!


あ、チャトランガただのチェスクラブじゃないんだった!


「リーダーも飲み物買いに来たのか?」

「……ええ、まあ。……今日は少し暑いので喉が乾いてしまいまして。」


なんとかそう言葉を返せば、ニッコリと笑った三叉槍トリシューラさんは「なにを飲むんだ?」と尋ねてきた。


「そうですね……冷たい紅茶でも飲もうかと……」


と、言葉を零した瞬間、三叉槍トリシューラさんがサッと財布を取り出した。


「待ってろ!すぐ買ってくるからな!」

(ええぇっ!?)


あまりの速さに思わず伸ばした制止の手も届かない。


しかし、僕はそこではたと気づいた。

もしかして、三叉槍トリシューラさんは不良仲間にチェスが好きなことを内緒にしているのだろうか。


(もしかしてその口止め料?)


チャトランガは誰かしら会えばチェスの試合を始める。当然幹部の三叉槍トリシューラさんもチェスが好きだ。

確かに不良にチェスは似合わないかもしれないけれど、趣味は人それぞれなのだし、それはそれでいいと思うのだが。


「ほらよリーダー!」

「……ありがとうございます。」


別に誰彼構わず嘲風し回る訳ではないのだから、こんなことしなくてもいいのに、と思いつつも、すでに買ってしまっている以上、受け取らないというのも失礼だろう。


「ト……あー……先輩は何を買いに来たんですか?」


名前を呼ぼうにも僕が知っているのは三叉槍トリシューラというプレイヤー名だけで、流石にそれをここで呼ぶのは不味いだろう。


里田さとだ大樹だいきだ。俺はコーラでも飲もうかと思って来たんだ。」


そしたらリーダーが居たんだ、とニコニコしている三叉槍トリシューラさん、もとい里田先輩の言葉に、僕は迷わず自動販売機に小銭を入れ、コーラのボタンを押した。

ガコンと音がして落ちてきたそのペットボトルを拾い上げ、里田先輩の方へと差し出す。


「え、リーダー?」

「飲みたかったんですよね?」


流石に先輩に気安すぎたか!?と思った時には既に遅く、里田先輩は下を向いてプルプルと震えていた。


あー!これは絶対怒りで震えているやつですね!!すみません!!


いつまで経っても受け取らない里田先輩に半ば押し付けるようにコーラを渡し、「すみません、授業が始まるので。」とそそくさとその場から退散した。


これは確実に後で校舎裏お呼び出しですね!

グッバイ僕の高校生活!

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