人通りの多い交差点で、オタク仲間と別れ1人になった摩緒は、あの男性・・・雉方と再び出会った
摩緒の脳内では、魔帝が
『あの男、魔物の転生者だ・・・しかも“只の魔物”ではない、余に代わらないと命が危ないぞ』
と、警告と提案をするが、摩緒は
「でも、ヒルガデントさんに代わるとどうなるのか分からないから」
と、魔帝の危険性の方が勝って警戒し、魔帝の提案を退けた
だが、チンピラに絡まれた時、颯爽と現れて助けてくれた雉方
偶然にしては出来すぎていると感じていた摩緒は
「これって偶然ですか?」
と、雉方に直球で問いかけた
雉方はにこやかに笑みを浮かべ
「勘が鋭いね」
と、その瞬間、雑踏の中にいるにも関わらず、彼の手が青白く光り
移転の魔法・・・摩緒の視界が歪み、気がつくと2人は岩が所々に露出した荒涼とした平原にいた
そこに、身長が2メートルはあろうかという20代中盤の黒い肌の男性が立っていた
筋骨隆々とした体格に、どこか威圧的な雰囲気を纏っている
「この少年が魔帝ヒルガデントの転生者なのか」
黒い肌の男性が、雉方に問いかける
「そうだ・・・思ってたのと違うか?」
「いや、どうでも良い」
2人の会話を聞いて、摩緒は理解した・・・この2人は魔帝と何らかの関係がある者たちなのだ
「何故、僕をここに連れて来た!」
摩緒は大声で問いただした
雉方は冷たい笑みを浮かべながら答える
「君の中のヒルガデントに用があるのだ・・・奴を引き出して貰おう」
争いなどしたくない、摩緒は必死に首を振る
「僕は楠木摩緒だ!!! ヒルガデントなんて知らない!」
しかし、雉方の表情に一切の慈悲はなく、一瞬で摩緒との間合いを詰め、容赦なく腹部にパンチを叩き込む
「がっ・・・!」
摩緒の身体が宙に舞った、無意識に異能力を発動させ、身体への衝撃を和らげながら転がる
腹を抱えながら何とか立ち上がると、既に雉方が目の前にいた
「ヒルガデントの覇気が漏れているのだ・・・何時までも代わらないと君は死んでしまうぞ」
摩緒を蹴り上げ、摩緒の身体が遠くへ飛ばされる
地面に叩き付けられ、血反吐を吐きながら立ち上がろうとする摩緒に向かって、雉方はゆっくりと歩を進める
摩緒は痛みに歪んだ顔で雉方を睨みつけた
雉方は見下した目で冷酷に告げる
「これでも、ヒルガデントを引き出さないか」
今度は、冷気と闇の覇気を滾らせ、周囲は渦巻き
その圧倒的な威圧感に、摩緒は本能的な恐怖を覚えた
それでも彼は拒絶する
「僕は楠木摩緒だ!!! 闘いたくない!」
雉方は無言で裏拳を振るった
摩緒の頬を打ち、再び彼の身体が宙を舞う
朦朧状態に陥る摩緒
「なかなか強情な奴だ・・・」
雉方が朦朧とする摩緒に近づく中、摩緒の脳内で魔帝が焦燥していた
『早く代われ!!! さもないと余もお前も死ぬぞ!!!』
「嫌だ・・・暴虐なヒルガデントさんに代わりたくない」
摩緒は必死に拒否する
しかし魔帝は言いたくはなかったが、ついに切り札を出した
『こらガキ!!! 死んじまったら、お前の妹や父母、メスの龍人や、ヒューマンの勇者、お前にやたらと絡むメスガキ、アホエルフらはどうなるんだ!!!!』
魔帝の気恥ずかしそうな叫びに、摩緒ははっと気づく
「そ、そうだった・・・僕には、悲しませてはならない人たちがいたんだ・・・」
呟きながら、摩緒は決意を固めた
「あ、ありがとうヒルガデントさん・・・そうだね、そう簡単に命を失う訳にはいかないね」
摩緒は魔帝に代わることに合意した
「暴虐なヒルガデントさんも他人の気遣い出来るんだ」
摩緒が皮肉ると、魔帝は怒鳴り返す
『やかましい!!! あんな“上等な獲物”を見逃すか!!!!』
その時、雉方は朦朧とする摩緒の首を掴み上げていた
「もう良い・・・ここで楽にしてやる」
手刀で胸を貫こうとするその瞬間・・・
「本当に・・・邪魔くさい奴だ」
雉方を蔑んだ目で笑う魔帝化した摩緒が口ずさみ、一気に闇の覇気を滾らせる
「これでも喰らえ!!! ニワトリ!!!」
瞬時に、雉方の顔面に拳がヒットした
雉方の身体が遠くへ飛ばされるが、彼は転ばずに立ち尽くす
血反吐を吐きながらも、ニヤリと笑った
「やっと、ヒルガデントに代ったか・・・前世ぶりだな」
魔帝は不敵な笑みを浮かべる
「そうだな、余の前にやたら強い“ニワトリ”がいたのを覚えておるぞ」
“ニワトリ”という言葉にカチンときた雉方は、手に氷と闇が混ざった魔法の珠を作り出す
「私・・・いや、朕の名は、翼大帝スザックスだ!!! そこらへんの
魔帝に向けて、氷と闇の魔法の珠が投げつける
魔帝はニタリと顔を歪め、闇の波動を纏った拳でその珠を跳ね返すと同時に、雉方に向かって駆け出した
・・・・・
一方、博輝はカラス天狗の姿をした鳥人3人に囲まれていた
「翼王スザックスと言えば『魔なる者たちの領域』統一半ばにして、魔帝ヒルガデントに倒された、鳥人王国の王族・フェザント族で“朱雀神格属性”を持った強力な魔物」
博輝が呟くと、カラス天狗の1人が喜んだ
「勇者エルダにも、我が翼大帝の名が知れ渡っていたとは光栄な事だ」
3人のカラス天狗が錫杖を立て、移転の魔法をかける
次の瞬間、博輝は広大な木々が伐採された森の上空にいた
「カカカ・・・この日本に、カラス天狗といった妖怪が存在していることを知って、我々、鳥人クロウ族にぴったりだと感心したものだ」
カラス天狗の格好を気に入った3人は名乗りを上げる
「我々は、大魔術師・翼大侯爵ホーシャル様の弟子、カラエン・カラカゼ・カラスナ3兄弟だ」
カラエンが最初に動いた!!!錫杖を高く掲げ、炎の魔法を唱える
「炎獄陣!」
上空から火の玉が雨のように降り注ぐ
博輝は光の剣を構え、一つ一つを斬り払いながら回避する
しかし、カラカゼが既に次の攻撃を仕掛けていた
「風刃乱舞!」
黒い翼から風の刃が無数に放たれる
博輝は背中に光の羽を具現化させ、波動による防御バリアを展開した
風刃がバリアに当たって散っていく
だが、カラスナが地上から砂塵を巻き上げる
「砂嵐牢獄!」
博輝の視界が完全に遮られる中、3人は連携攻撃を開始した
カラエンが錫杖を振り回しながら接近戦を挑み、博輝は光の剣でこれを受ける
金属音が響く中、カラカゼが上空から爪による急降下攻撃を仕掛けてきた
「くっ!」
博輝は光の羽を盾代わりにして攻撃を防ぐが、今度はカラスナが足の爪で、切り株を引き抜き、それを投げ飛ばしながら側面から攻撃してくる
三方向からの同時攻撃に、博輝は完全に劣勢に追い込まれていた
「光線剣舞!」
博輝は光の剣を回転させながら周囲に光の軌跡を描く
一時的に3人を牽制することに成功したが、彼らの連携は完璧だった
カラエンが錫杖で地面を叩くと“炎の柱”が博輝の足元から噴き上がる
博輝が跳躍して回避すると、そこにカラカゼが“風の竜巻”で包囲する
さらにカラスナが“砂の触手”で博輝の動きを封じようとしてきた
「このままでは・・・」
博輝は3人の息の合った攻撃に戸惑いを隠せずにいたのだった