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第29話「楽しい日常生活に迫りくる影」

ある休日、摩緒と岸永、オタク仲間と共に、オタクの聖地・秋葉原に出かけていた


「うわあ、新作フィギュア出てる!」

「この限定版、予約できなかったんだよな〜」

「アニメイトに新刊入ってるかな?」


オタク仲間たちは目を輝かせながら、色んなオタクの店を回っては楽しんでいた

摩緒も満面の笑みで友達との時間を満喫していた


(こういう時間が一番幸せだな・・・)

摩緒は心の中で呟いた


魔帝のことも、前世のことも、すべて忘れて純粋にオタク話に花を咲かせていた


その帰りに、摩緒たちと逆の方向から2人のチンピラが歩いていた

オタク仲間の一人がチンピラの一人にぶつかってしまった


「おい、テメエ!どこ見て歩いてんだ!」

チンピラが因縁をつけてきた


「す、すみません・・・」

オタク仲間は震え声で謝った


摩緒はすかさずオタク仲間を庇った


「ちょっと待ってください!!ぶつかったのは事故です!!!彼も謝ってるじゃないですか」

摩緒は冷静に反論した


「あ?ガキが生意気な口きくんじゃねえ!」

苛立ったチンピラが摩緒を殴ろうとした時・・・


「やめなさい」

30代の背広姿のインテリ風の男性・・・雉方昴きじかた・すばるが止めた


「何だテメエ、関係ねえだろ!」

止められたチンピラは、雉方に絡もうとした


しかし、もう一人のチンピラが慌てて止めた


「おい、やめろ!」


もう一人のチンピラが摩緒たちに聞こえない声で耳打ちすると、最初のチンピラの顔が青ざめた


「ひ、ひえ・・・すみませんでした」

二人はそそくさと立ち去って行った


「大丈夫でしたか?」

雉方が摩緒たちに声をかけた


「はい、ありがとうございました!」

摩緒たちはお礼を言った


「いえいえ、たいしたことはしていません」

雉方は、爽やかな笑みを浮かべ謙遜しながら、摩緒たちから立ち去った


その時、摩緒の脳内に魔帝ヒルガデントのシルエットが現れた


『あの男とまた会うだろうな』


魔帝が予言めいたことを言った


(何故?)

摩緒は脳内で問うた


『さぁな』

魔帝は言葉を濁し、シルエットが消えた


(答えになってないよ!)

摩緒が脳内で叫んだ時・・・


「摩緒、どうしたんだい?・・・急に立ち停まって」

岸永が心配そうに声をかけた


「あ、ちょっと考え事・・・」

摩緒は慌てて誤魔化した


(ヒルガデントさん、一体何だったんだよ)

摩緒は不安な気持ちを抱いてしまった


・・・・・


摩緒たちが住んでる地方の大きなショッピングモールにて、桜井が無理やり周防を連れて服選びをしていた


「周防先生、普段男性っぽい服装ばかりだから、女の子っぽい服装に変えましょう!」


桜井は目を輝かせながら、周防が合いそうな服を選んでいた


「そんな必要ありません・・・」

周防は最初嫌がっていた


(なんで私がこんなことを・・・)

と、内心嘆いた


しかし、普通の女性らしい服装を試着してみると・・・


(あら、案外悪くないかも・・・たまにはこういうのも・・・)

周防は鏡の中の自分を見て満更でもなく、心が少し軽やかになっていた


「あら、最初はいやいやだったのに、何処か嬉しそうじゃん」


そんな周防の様子に、桜井は無理やりでも連れて来て良かったとほっと胸を撫でおろし


「周防先生せっかく、顔もスタイルも抜群な姿に産まれ変わったのだからね~~~」


桜井のコーディネート魂の炎が舞い上がり


「これ、チャイナドレスね、うん、よく映えるね~~~」

「次はこれ!ホステスばりの妖艶な服装!」

「今度はゴスロリ!オタク受けしそう!」


まるで“着せ替え人形”のように周防に試着させ、しまいには“セクシーな水着”まで試着させようとした処で


「桜井先生、いい加減にしてください!」

周防はついにキレて、桜井を置いて帰ろうとした


「あ、周防先生、待って!ごめんなさい!」

桜井は、涙目になって慌てて謝った


周防は、桜井がコーディネートした“普通の服”を買った後、桜井への御礼も兼ねて、ショッピングモール内のフードコートで周防の奢りで食事していた


「ありがとう桜井先生・・・やっぱり普通が一番ね」

周防がほっと息をついた


だが、桜井は少し不満だったのか


「もうちょっと、周防先生のコーディネートしたかったわ」


と、漏らし、周防は、深いため息をつき


「流石に“あの水着”はないでしょ・・・私は、貴女の“着せ替え人形”ではないのですよ」

と、反論した


「あたしは、前世も今世も、自他ともに『抜群センスのコーディネーター』と謂われてるじゃん」

と、桜井、決まり笑顔で自慢げに自己自賛し


「はいはい、そうだったんですね・・・」

と、素の顔の周防、何事も無かったかの様に、ストローでジュースを飲んでいた


「あ~~~信じてくれないんだ~~~」

と、膨れ顔で拗ねる桜井


そんな、周防と桜井の女子トークの中に


「こんにちは・・・周防先生」


自分の娘と孫を連れた普通の60代が着る服装の鷹野が挨拶してきたのだ


「こ、これは、鷹野さん・・・」


周防は、極道の貫禄のある鷹野と、優しそうな娘と可愛い孫を連れた、普段のお爺さんとのギャップに驚き戸惑った


(こんなところで・・・まるで普通のおじいちゃんみたい)


鷹野は、申し訳なさそうに懇願した


「ここで会ったのは何かの縁、場所を変えて、先日の事でお話ししたいのですが」


周防は、自分の担当する生徒家族を追い込んだ厳つい男たちが暴行を受けた件について、何か判明したのだろう事を推測し


「分かりました」


周防は承諾した


「あの・・・この方は?」


桜井が周防に怪訝そうに聞いた


(このお爺さんも、魔物の転生者だ・・・確か『魔なる者たちの領域』で“稀代の大魔術師”と謳われていた・・・)


桜井は、鷹野が“翼大侯爵ホーシャル”の転生者と見抜き、ただ事ではないと警戒していた


・・・・・


夕刻時、博輝は部活の試合を終え、部活仲間と別れて一人で帰宅していた


(今日も良い試合だったな)


博輝は満足感に浸っていた


しかし、何を思ったのか人気ひとけの無い所にたどり着くと、立ち止まった


「いい加減に姿を現したらどうだい?」


博輝が叫ぶと、錫杖を持った山伏の姿をした男3人が現れた


「翼大帝様と魔帝の対決の邪魔はさせない」

山伏たちが宣告した


「翼大帝?・・・前翼王スザックスの事か」


警戒を露わにした博輝は、山伏たちに聞くと


「前翼王ではない!!!翼大帝様だ!!!!」


山伏たちは“カラスの鳥人形態”に変態し、博輝と対峙した


「周防先生がヤクザに暴行した疑惑で警察に連行されてから、俺らの状況がおかしいと思ったら・・・」


博輝は冷静に状況を分析し


「兎に角、摩緒が危ない!!!早く、この者たちを退散させなければ」


博輝は、光の剣を顕現し、山伏たちに臨戦態勢をとった


・・・・・


一方、摩緒はオタク仲間と別れ、一人で歩いていた


(今日は楽しかったな・・・でもヒルデガントさんの言葉が気になる)


摩緒は魔帝の『またあの男と会うだろう』と言う台詞を思い出していた


その時・・・


「また会いましたね」


さっきチンピラから救ってくれた雉方が現れた


「あ・・・」

(本当にまた会った・・・ヒルガデントさんの言った通りだ)


摩緒は驚き、心臓が激しく鼓動した


「偶然ですね」

雉方が微笑みかけた


しかし、その微笑みには何か含むものがあった


(この人、本当に偶然なのかな・・・)


摩緒は不安と好奇心が入り混じった気持ちになっていた

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