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第28話「日常の平穏と裏社会の野望」

学校に復帰した摩緒のオタク友達の岸永が、周防に感謝していた


「周防先生、本当にありがとうございました。先生の知り合いの弁護士さんのお陰で借金の目処がついて・・・」

岸永は深々と頭を下げた


「良かったですね岸永君、これからは安心して学校生活を送れますね」

周防は優しく微笑んだ


その後、岸永は学校に復帰したことをクラスの皆から祝福された


「岸永、おかえり!」

「心配してたんだぞ」

「これでまた一緒にアニメの話ができるね」


摩緒とその他のオタク仲間は、岸永を囲んでオタク話に花を咲かせていた


「そう言えば、新刊のラノベ読んだ?」

「まだだよ、でも今度の休みに絶対読む!」

「アニメの続編も来月から始まるらしいよ」

「マジで!?楽しみすぎる!」


博輝は、摩緒と岸永たちとの交流を優しい目で見守っていた


(こういう平穏な日常が一番だな・・・)

博輝は、そう心の中で呟いた


・・・・・


舞台が変わって、名古屋の郊外にある広大な敷地


武家屋敷や荘厳な建物たちが並び、人々を寄せ付けない威圧のある翼雀連合の本部


その武家屋敷の大広間にて、3人の男が座していた


関東広域暴力団・鷹野会会長の鷹野峰清たかの・ほうせいこと翼大公爵ホーシャル


ボディービル並みの筋肉質に角刈りの厳つい顔に傷を負った50代中盤の関西広域暴力団・元端組3代目組長の鰐和有利わにわ・ありとしこと、爬副王アリゲルト


そして、30代と若く、程よく筋肉質な体型に、如何にもインテリ風の髪型に、目が鋭く端正な顔立ちの男こそが・・・


全国の暴力団組織を束ねる翼雀連合・5代目総帥の雉方昴きじかた・すばること翼大帝スザックスである


魔物の転生者3人による、重要な談話が始まっていた


「あやつら、散々、代議士や起業家が出来ない汚い仕事や、外国人の裏組織の壊滅に利用しといて、利用価値がなくなったら我々を壊滅させる・・・しかも魔帝の能力を利用してだと」


鷹野が悔しさ滲む言葉で語った


一方、鰐和は顔の傷を指しながら言った


「俺にとっちゃ〜〜獣王らの方から難癖付けてくれたお陰で、大義名分が出来て良かったで」


「獣王に付けられた前世の傷が、今世でも再現しおってのぅ、そのせいで若い時はホンマに碌なことなかったわ」


鰐和は遠い目で過去の事を呟き


「やっと、獣王をぶっ殺すチャンスが訪れたわけや……ホンマに今世のルールってのは邪魔くさいわ」


気の逸る気持ちを抑え、喜びに満ちた笑みで事の経緯を話し終えた


2人の話を黙って聞いていた雉方に、鷹野が指示を仰いだ


「で、どうします?雉方総帥」


雉方は笑みを浮かべて囁いた


皇亀一郎すめらぎ・きいちろう小鳥遊飛鳥たかなし・あすかよ・・・面白いことするではないか」


「どちらにしろ、爬王・翼王を叩くつもりでいたからな」


雉方は、2人の策略に一切の動揺を見せなかった


「但し、龍王と獣王は、爬王、翼王に向けるようにする」

逆に、爬王・翼王の策略を利用しようとしていた


「では、どのように?」

鷹野が具体案を聞くと、雉方は口角を上げた


「何、簡単な事だ・・・私が直接出向いて、事情を話せば良い・・・2人は、爬王、翼王に嵌められている、阻止するには、この世界の常識は通用しないぞって感じでな」


雉方が自身で具体案を実行すると言うと、鷹野が推薦した


「ちょっと待って下さい、その交渉なら、この私が行いましょう」


「ほう・・・この私が、龍王と獣王に後れをとると?」

雉方が鷹野を睨んだ


鷹野は真剣な目で雉方を見て答えた

「いえ、魔帝との対戦に万全を期して欲しいと」


その意気を飲み込んだ雉方は指名した

「分かったホーシャル、その交渉はお前に任せたぞ」


「ありがたき幸せです」

鷹野は雉方が自身の意気を飲んでくれたことに感謝した


その2人のやり取りに面白くない鰐和が不満を漏らした


「おい、俺は獣王をぶっ殺したいんやが」


雉方は笑みを浮かべて答えた


「あ〜〜それは構わん、存分にやってくれても良いぞ」


鰐和は喜んで感謝した


「お〜〜それはありがたい」


何を思いついたのか呟いた

「ですがの〜」


「なんだ?」

雉方が聞き返すと、鰐和が提案した


「龍王だけでなく、魔帝も勇者も、全部その2人爬王・翼王にやって良いんやないですか」


「私も貴様と同じ、魔帝とは因縁があるんでな」

雉方が返すと、鰐和は納得しながらも一言加えた


「そうでっか・・・勇者だけでも」


「勇者には『切り札』に任せる」


雉方が何か含みのある応答をすると、鰐和は問答を終わらせた


「承知しやした・・・俺は、獣王との戦争に準備するんで、先に失礼しまっせ」


逸る気持ちが抑えきれない鰐和が断りを入れると、雉方は承諾と励ましを入れた


「おう、御苦労だったな、期待してるぞ」


「へい、任せて下さいや、雉方総帥」


鰐和は喜び勇んで大広間から出て行った


鰐和が騒々しく音を立てて出て行き、獅子威しの音が静かに聞こえた


「何が任せて下さいやだ・・・密かに翼雀連合の総帥の座を狙ってるくせに」


鷹野が愚痴ったので、雉方が宥めた


「いいじゃないか、丁度、爬副王の始末も出来るし」


鷹野が雉方の言葉にキョトンとした


「と・・・言いますと?」


「爬副王が、獣王に勝てる訳無いだろ」


雉方がそう返事すると、鷹野が世間の反応を気にした


「そうは言っても、派手にドンパチされると世間様がなんて」


「そこは、お前の腕の見せ処で、仲裁して関西広域の縄張りを吸収すれば良い」


雉方が安堵させると、鷹野は笑みが溢れた


「それでは・・・」


「翼雀連合・総帥の席は、ホーシャルになるな」

雉方が答えた


鷹野は喜びを隠さず感謝した

「それは嬉しい限りです」


「ですが、スザックス様は、どうなさるのですか?」

鷹野が怪訝に質問すると、雉方は不敵な笑みを浮かべた


「決まってるではないか、日本の政財界と軍事治安を裏で支配し、最終的には全世界の統治者となるのだ、今世の世界は、前世より脆弱な世界だ・・・容易に可能だ」


雉方は野心を隠さなかった


その後、怒りに満ちた表情になり拳を握り締めた


「その前には、魔帝ヒルガデントを討たなければ何も始まらない」


雉方は魔帝を討つ決意を新たにした


大広間に重い沈黙が流れた


前世の因縁と現世の野望が交錯する中、新たな戦いの火種が静かに燃え上がろうとしていたのだった

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