目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第27話「翼大侯爵の機転と陰謀の影」

ヤクザの事務所に連れて行かれた周防・・・何かと卑猥な目で見てくる組員に囲まれ、ソファに座っていた


若頭らしき者が、ノートパソコンの画面を周防に見せた


その画面には、周防そっくりの女性が厳つい男たちを一方的に暴行している映像が映っていた


「!」

(これは私・・・一体、どうなってるの?)


周防は、その自身そっくりの女性に驚愕した


「言い訳の出来ない証拠が出てるんだ!!!警察では上手く誤魔化せても、俺らでは誤魔化せんぞ!!!!どう落とし前を付ける?」

若頭は周防を追い込んだ


周防は肩に着く髪を後ろに手押し冷静に答えた


「これはAIによって作られた映像では?私はその男達に暴行した憶えはないわ」


「は?・・・おんどりゃ何言っとるんじゃ、どう見たって手前だろうが」


若頭は声を張り上げて怒鳴ってるが、周防にとってはどうでも良く


むしろ『何者かによって嵌められている』と憶測していた


これ以上情報は得られないと見た周防は、ソファから立ち上がった


「これ以上追求しても時間の無駄よ、帰らせて貰うわよ」


そばにいた組員たちが、拳銃やナイフ、警棒を持って周防の行く手を阻んだ


「女、こんな状態で良く冷静にいられるな・・・少しばかり強いからといい気になるなよ」


若頭が周防に言い放ち、部下に向かって命令した


「この女を死なない程度に痛めつけてやれ」


(やれやれ・・・最近は何かと厄災ね)


暗澹した周防が移転の魔法でヤクザ事務所から消えようとした時


「どうした・・・怒鳴り声をあげて」


ドアが開き、このヤクザ事務所の組長と、その後ろには・・・


60代前半で白髪のオールバックをした袴姿の威厳に満ちた男性・・・関東広域暴力団・鷹野会会長の鷹野峰清たかの・ほうせいとその部下2人が入ってきた


「お、親っさん・・・それに鷹野会長・・・」

若頭がつぶやいた後、組員全員が一斉に頭を下げた


「おつかれ様です」


周防と鷹野と2人の部下は、お互いに魔物の転生者と分かった


鷹野は一瞬血の気を引いたが、すぐに貫禄のある態度に戻った


周防も鷹野から悪意は感じず、これ以上何もしなかった


組長が若頭に聞いた

「この女はもしかして・・・」


「へい、わてらの組員たちを暴行した女です」

若頭が答えると


組長は、自分の組の上の組織のトップとの付き合いの時にと困惑しながら、鷹野に恐る恐る断りを入れた


「鷹野会長、こんな事になってしまってすみません・・・この女にケジメをつけさせたいので」


鷹野は周防に向かって聞いた

「あんたの名前は?」


「周防辰美です」

周防が答えると


鷹野は組長に向かって懇願した

「この周防辰美を、こちらで預けてくれないか」


組長は反論した

「我々の組員がやられたのですよ、そのケジメは自分の組が」


「もし、違ってたらどうする?素人さんに手を出した事になって組の存続が出来なくなるぞ」

鷹野が返すと・・・


組長は食い下がった

「だけど、この女が暴行した映像が」


鷹野は恐ろしく冷酷な目で言い返した

「今では、映像もAIで作れるだろ・・・」


鷹野の冷酷な目に恐れをなした組長は


「わ・・・分かりました」

と、震えながら承諾するしかなかった


「周防さん、悪いようにはせん、儂らに付いて来てくれんか」

鷹野が周防を手招きすると


「分かりました」

周防は答え、鷹野たちと一緒にヤクザの事務所を出て行った


しばらくすると、鷹野のやり方に、組員たちは怒り


「いくら何でも、うちの組の問題を、上部の組織だからと言って横槍を入れるなんて」


若頭が、組員たちの怒りの言葉を代弁すると、組長はガタガタ震えながら告白した


「あれ以上反抗したら、組が潰れる処か、俺らの命も失う・・・あれ以上反抗し、幾つもの組が、組織の人間の命ごと消滅したのを見て来た・・・」


「それに、鷹野会長の睨んだ目を見たか・・・あれは、人間の目ではない、化け物か魔物の目だ」


組長は何時までも震えが止まらなかった


・・・・・


一方、鷹野の車に乗った周防が質問した


「鷹野会長さん・・・いえ、翼大公爵ホーシャル殿、どういった風の吹き回しですか?」


「いえ、自分の下部組織を守るためですよ、龍王ヒョーデル様」

鷹野が苦笑いした


「あの・・・前世の世界ではありませんし、移転の魔法で逃げるつもりでした」

周防が困惑し答えると、鷹野は笑いながら言った


「今世の世界の常識の持っている龍王様で良かったですよ、もしも魔帝ヒルガデント様や、獣王ライハイル様だったら手に負えない処でした」


その後、鷹野は真剣な表情になった


「龍王様、本当にあの組員たちに暴行はしてないですね・・・もし本当なら、いくら龍王様でもケジメは付けてもらいます」


「あの時は、同僚と居酒屋で飲んでたのですよ、ちゃんとアリバイもありますし・・・今世で、前世の常識持ち出して身を滅ぼす真似は出来ません」


周防が正直に答えると、鷹野はニコッと笑みを浮かべた


「分かりました」


鷹野は頭を下げて謝った

「わしらの組織の者が迷惑をかけて申し訳ない」


「いえ、分かって頂けたら」

周防は、恐縮し承諾した


周防は、一息をつき、つぶやいた

「私が何故こんな目に、ただ自分の生徒を庇っただけなのに」


「真相は此方で調べますので・・・貴女はもう関わらない方が良いし、その生徒さん家族とも関わらせないようにします」


鷹野は、周防の呟きに同情しながら忠告し、周防を、関係者が見つからない適当な駅に降ろした


・・・・・


周防を降ろした後、鷹野は口ずさんだ


「儂らの組織を、魔帝の能力で壊滅させようと、龍王を嵌めたのだろう」


配下の一人が質問した

「まさか翼王フェニブルでしょうか?」


「もう一人いるだろう」

鷹野が返すと、もう一人の配下が答えた


「爬王ゲンブロイト・・・」


「そうだ・・・奴の部隊に、ターゲットそっくりに変身できる爬人はじんの転生者が数人配属してるからな」

鷹野は、爬王の部隊の一部を解説し


「関西広域暴力団・元端組3代目組長・鰐和有利わにわ・ありとし・・・爬副王アリゲルトの鰐和組の幹部が、"お姉系格闘家"柊直虎・・・獣王ライハイルの格闘ジムとトラブって、大阪に支店の格闘ジムを設立した“クラッシャー大岩”・・・獣王軍総司令ゴテリアを銃撃して重傷を負わす事件が起こった」


もう一つの事件の話をした


「原因は、その幹部が酔っ払って、その所属の格闘家を一方的に暴行したと抗議してきたが、その幹部は暴行も、ゴテリアを銃撃した憶えもないと言っている・・・怒り心頭になって、獣王にカチコミに行こうとした気の短いアリゲルトを止めるのに苦労したよ」


事件の原因と、気の短いアリゲルトを思い出して気の滅入った鷹野は、その話を締めくくった


「後は、全国の暴力団組織をまとめている、翼雀連合よくざくれんごう・5代目総帥・雉方昴きじかた・すばる・・・翼大帝スザックス様の指示を仰ぐとしよう」


鷹野の車は夜の街を静かに走り続けていた


そして、前世の因縁と、現世の陰謀が複雑に絡み合い始めてきたのだった・・・

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?