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第26話「疑惑と脅迫」

オタク友達の岸永家族を追い詰めた厳つい男たちが暴行にあった事件が、地元のニュースになった日から数日後の休日の早朝


周防のマンションの部屋に刑事が3人来て、あの暴行事件で任意同行された


「周防辰美さんですね、少しお話を伺いたいことがありまして・・・」

刑事の1人が手帳を見せながら言った


「任意ですので、ご協力をお願いします」


周防は冷静に答えた

「分かりました、同行します」


・・・・・


次の日、摩緒は桜井たちから聞かされた魔帝ヒルガデントの経歴について考えていた


ヒルガデントの幼い頃は、何も考えず破壊行動していたが、育ての親のヒョーデルおじさん(教師、後に龍王となる、今世は周防先生)の、きつい躾で修正された


ヒルガデントが少年の頃に独り立ちし、同じ歳位のライハイル(後の獣王、今世は"お姉系格闘家"柊直虎)たちの暴力集団を叩きのめし、その配下に置いて、集落や街を襲撃強盗して生計を立てた


ヒルガデントが率いる暴力集団の悪名が『魔なる者たちの領域』に拡がり、それに怒ったヒョーデルおじさんが、殴りこみに行って、ヒルガデントの暴力集団を屈服させた


ヒョーデルおじさんは、ヒルガデントやその配下たちが、今更まともな仕事など出来ないと悟り、暴力集団でなく、傭兵集団として生計を立てる事業を起こすアドバイスをし、ヒルガデントたちはその事業に乗った


(ヒョーデルおじさん、傭兵事業の提案をした手前、ヒルガデント率いる傭兵集団の営業・会計・組織運営などの裏方を引き受けざるを得なかった・・・荒れ暮れ者たちの面倒をみる・・・その心労は計り知れない事だろう)


そこから後に、ヒルガデントが『魔なる者たちの領域』を統一し”魔帝”の座についた・・・


確かに相手を殺したり、集落や街を壊滅したり暴虐を限り尽くし己の快楽を満たしていた事には間違いないけど、決して無秩序に暴虐をしていない事を知る


摩緒はヒルガデントを別の意味で凄いと感心していた・・・


ニヤニヤと机に伏す摩緒の様子に、博輝が声をかけた


「摩緒、何ニヤニヤしてるんだ?」


「君たちから聞いたヒルガデントさんの事思い出して、ヒルガデントさんトンデモナイ人だなって」


摩緒が感想を言うと、博輝は苦笑いしながら肩をすくめた


「『魔なる者たちの領域』を統一し、魔帝となったヒルガデントが、己の暴虐の快楽を求め、『聖なる者たち領域』を侵し始め・・・最後は俺たち『勇者一行』によって封印されるのだけどね」


・・・・・


やがて授業のチャイムが鳴ると同時に、担任じゃない教師が入ってきた


「周防先生が急用で休みになりました」

その教師が告げて、朝礼を始めた


摩緒は「なんでだろう」と首を傾げていたが・・・


まさか先日のオタク友達の岸永家族を追い込みかけた厳つい男の暴行事件で、任意同行されたとは思っても見なかった


・・・・・


生徒たちが授業を受けている時に、教頭先生と見たことの無い、どこか緊迫感のある雰囲気の背広姿の男性と、その男性と同じ雰囲気のスーツ姿の女性を連れ、保健室に入っているのを、トイレから出た生徒が目撃した


その生徒が聞き耳を立てると、周防が岸永の家庭訪問で厳つい男たちと会って仲裁した関係で、警察に任意同行され、事情聴取を受け、周防のアリバイの裏を取るためだと分かった


その情報が、昼休みを境に拡散していた


「周防先生、警察に呼ばれたんだって」

「えー、何で?」

「あの暴行事件と関係があるらしいよ」


摩緒たちは、周防を心配しながら午後の授業を受けた


それでも摩緒は寝てしまうのだった・・・


次の日には、周防が学校に来て、休んだ事情を話して謝罪した


「昨日は急な用事で休んでしまい、申し訳ありませんでした」


生徒たちは安堵の表情を見せ、授業を受けていたが


相変わらず眠る摩緒に、チョーク攻撃を受ける


『コツン!』


「楠木君、授業中です」


・・・・・


放課後、摩緒は魔帝との対話の経過の報告と今後の対策で博輝と一緒に保健室に行った


そこで、桜井がげんなりしながら愚痴った


「刑事から散々、周防先生のアリバイについて聞かれて・・・『その日は、近くの居酒屋で周防先生と飲んでた』と言ったのに、それでも細かい事を聞くから、鬱陶しくなって、魔法で帰らせようとしたら、女の刑事に連絡が来て、居酒屋でも裏が取れたと言って帰っていったわよ」


「私も、何遍も同じ事聞かされて、龍王の覇気を出しそうになったわ」

周防もため息をついて愚痴った


その後、周防が苦情を言った

「泥酔した桜井先生を家に送るの大変だったのよ」


桜井は言い訳した

「移転の魔法で送ったら良かったじゃん」


「人がいる状態で出来ないし、第一、そのまま泥酔した桜井先生を置く訳にいかないでしょ、体調を悪くさせる訳にもいかないし、部屋着に着替えさせて寝かせたのよ」


周防が説明すると、桜井が、ぎょっとした顔をし、両腕で胸を隠し身体を引く様な態度で怒鳴った


「ゴツいおっさんが、可愛い女性の裸見たって事ね、変態!!!」


周防は溜息をつき反論した


「今世は女性ですよ・・・それに桜井先生の裸に興味ありません」


周防と桜井の痴話口論に、博輝はドン引きし、摩緒は眠そうになっていた


・・・・・


教師の仕事が終わり帰宅の途中で、黒ずくめの車が止まった


厳つい男たちが降りてきて周防を囲み、車に乗れと命令した


「周防辰美さんでしたっけ?ちょっとお話があります」


「お断りします」

警察の次はヤクザなのかと・・・ウンザリの周防は即答した


「岸永ところのガキと、先日一緒に来てたガキに・・・何が起こるか分かりませんよ」


男たちは脅して来たが、周防からしたら逆に、摩緒に対して事を起し、魔帝が覚醒してしまったら、この男たちの命が危ない・・・


また、何か“事の真相”を知れるかもと思い


「分かりました・・・乗ります」


脅された振りして、黒ずくめの車に乗った


黒ずくめの車は静かに走り出し・・・夕暮れの街へと消えて行ったのだった

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