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第25話「闇に消えたチンピラたち」

摩緒のオタク友達・岸永が、やたらと休みがちになっている・・・摩緒は心配になって連絡をするが、一向に返事がない


「おかしいな・・・岸永の奴、新刊のラノベの話をしたかったのに」

摩緒は机に伏せながら呟いた


周防も無断で休んでいる岸永が心配で、摩緒に声をかけた


「楠木君、岸永君のこと心配よね、一緒に様子を見に行きましょうか」


「本当ですか?ありがとうございます、周防先生」


・・・・・


摩緒と周防が岸永の家を訪問すると、丁度、如何にも厳つい男たちが岸永の家族に追い込みをかけている場面に出くわした


「いい加減にしろよ、おっさん!約束破ったんだから、きっちり払ってもらうぜ!」


奇抜なワイシャツ着た男たち、その後ろにはスーツを着こなした上司らしき男が岸永の父親を囲んでいる


「で、でも、毎月ちゃんと返済してるじゃないですか!」

岸永の父親が震え声で抗議した


「金利が変わったって言ってるだろ!一括で返せ!」

奇抜なワイシャツの男・・・チンピラの1人が怒鳴る


「そ、そんな無茶な・・・」


岸永の母親が泣きそうになっていた


周防は躊躇なくその厳つい人達との間に入って仲裁した

「ちょっと待ってください、何が起こっているのですか?」

周防の毅然とした態度に、チンピラたちは一瞬たじろいだ

「あ?何だお前、関係ねえだろ」


「この家の子の担任教師です、事情を聞かせてください」

周防の凛とした声に、背広を着こなした上司の男が説明した


「この家族が、うちの金融会社から借金してて、返す約束を破ったから取り立ててるだけだ」


チンピラの一人が周防を見て軽口を叩いた

「先生が代わりに払ってくれない?良い身体してるし、すぐに借金が終わるぜ」


その瞬間、空気が凍りついた・・・


チンピラの上司が慌てて、その軽口を叩いた男を小突いた

「馬鹿な事言うな!」


上司の男は状況を察し


「これ以上やると警察呼ばれる・・・一旦引くぞ」

チンピラたちに指示を出した


「一週間後にまた来るわ、それまでに用意しとけよ」


厳つい男たちは岸永の家から出て行った


岸永の家族から感謝され、周防は詳しく事情を聞いた


「実は、借金は毎月決まった金額で払っており、返済を滞ってないんです」

岸永の父親が説明した


「それなのに、急に高い金利を付けて一括返済を求められ、その事で抗議したら、数々の嫌がらせをされて・・・」


「息子もそのせいで学校に行けないんです」

岸永の母親が涙ながらに告白した


周防は家族を助けることはできないが、知り合いの弁護士の連絡先の紙を渡した


「すぐにこの弁護士さんに相談してください、きっと力になってくれます」


「ありがとうございます、先生」

岸永の家族は深々と頭を下げた


・・・・・


岸永の家から帰る途中、摩緒が周防を褒めた


「周防先生、毅然としてあんな厳つい人達に仲裁するなんて凄いよ」


「前世の記憶と身体能力があるから出来るのであって、普通の人間なら後退りしてたわよ」

周防は謙遜した


「その周防先生の前世の話、桜井先生が指摘するまでは、先生の事“痛い女性”と思ってたよ」


摩緒が感慨深く頷くと、周防は苦笑いしながら答えた


「誤解が解けて良かったわよ」


「それより、桜井先生のアドバイス通り、魔帝様との対話の訓練できてる?」

周防が聞いてきた


「何とか普段の生活を送りながら、他人にバレないように、脳内会話が出来るようになったけど、ヒルガデントさん余り喋る方ではないみたい」

摩緒が説明した


「たまに、格闘の映像見ると、闘争心が出て身体を乗っ取ろうとする時は、桜井先生が魔法で描いてくれた、ヒョーデルおじさんか、聖皇女さんの画像を脳内想像すると引いてくれるから助かります」

摩緒は、桜井に感謝するよう追憶していた


周防は複雑な表情で答えた

「そうなの・・・」


「ヒョーデルおじさん、まさか周防先生の前世とはね〜〜」

摩緒がからかうと


周防はムスッとした表情で返した

「もう、忘れなさい」


「ヒョーデルおじさんで、ヒルガデントさんが引くのは、小さい頃から世話してて、暴れる度に小突かれなどして敵わないというトラウマがあるのは分かるけど、聖皇女の場合は、ヒルガデントさん自身も、何故引くのか分からないと言ってたよ」


摩緒が疑問を口にした


「魔帝様が封印できたのは、聖皇女がいたからだと、緒方君、桜井先生も言ってたわね」

周防が応答した


「そう言えば」

摩緒がつぶやいたので


周防が聞いた

「何かありました?」


「岸永君の家族に紹介した知人の弁護士も、転生者なの?」

摩緒が質問すると


周防は苦笑いしながら答えた

「普通の人ですよ」


「残念」

摩緒は少しがっかりした様子だった


・・・・・


そして、その夜、事件が起こった・・・


摩緒の住む県内の繁華街の裏路地で、岸永の家族に追い込みをかけた厳つい男たちが発見された


彼らは血を流し、殴打痕を残して倒れていた


「うう・・・」

「助けて・・・」


チンピラたちは意識朦朧とした状態で発見された


現場に駆けつけた警察官が状況を確認した


「複数の男性が重傷・・・犯人の手がかりは?」

「目撃者によると、長身の女性の犯行らしいです」

「長身の女性?」

「はい、かなり手慣れた感じで、格闘技の心得がある人物かと・・・」


その目撃情報は、翌日のニュースでも流れることになった


「昨夜、県内の繁華街で起きた暴行事件について、警察は長身の女性による犯行として捜査を進めています・・・」


果たして、この事件の真相は何なのか


そして、犯人とされる「長身の女性」の正体とは・・・


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