博輝・・・勇者エルダを封印してしまって、自失呆然の、神秘な杖を持ち、幼児体型のエルフの大賢者のランファン
「何て事を・・・間違って、エルダを封印しちゃったよ・・・あたしの日常が・・・」
ランファンは独りでブツブツと嘆いていた
だが、目の前に“植物人間の博輝”がいないことに気づいた
「あれ、エルダが・・・」
ランファンが言いかけた時、後ろから肩を叩かれた
「ひぃ」
小さな声で悲鳴を上げ、ゆっくりと後ろを振り向くと・・・
「大賢者・ランファンさん・・・少し説明してくれませんか?」
博輝が笑みを見せていたが、目は笑っていなかった
「ひぇ〜〜」
ランファンは涙目で大きな声の悲鳴を上げた
・・・・・
桜井の部屋に戻り、いつもビールとつまみを飲食している居間で
人間に戻って木の枝を膝の上に乗せて正座する桜井
桜井と対峙して、博輝、周防、そして摩緒が正座をしている
「流石は大賢者ですね、巧妙な魔法で俺たちに正体がバレず、しかも俺が転生を隠す魔法を掛けたにも関わらず見破るなんて」
博輝が評価すると、桜井は頭を掻きデレ笑いしながら
「それほどでも・・・」
と、答えた
「何故いきなり、摩緒を“封印”しようとしたのですか?」
博輝が怒り気味に桜井を責めると、桜井は涙目で言い訳した
「だって~~~緒方くんと周防先生・・・楠木くんの事、魔帝ヒルガデントの転生者って事知らないと思って」
「もう既に知ってますよ」
周防がむすっとした表情で返すと、桜井はさらに言い訳を重ねた
「普通、あの危険な魔帝と知ったら警戒する素振りするじゃん、でも君らは全然、教師、生徒、幼馴染してるじゃん」
博輝は頭を抱えた
「あちゃ〜〜前世の早とちりの癖出ちゃいましたね、桜井先生」
「俺たちの正体知ってるんだったら、行動起こす前に、魔帝ヒルガデントについての相談はしてほしかった」
博輝は半分呆れ半分怒りの状態で咎めた
「だって、誰にもあたしの前世を知られたく無かったもん、前世の因縁なんて真っ平御免だわ〜〜」
桜井が反論した後、摩緒に掴みかかった
「第一、ヒルガデントが転生してきたのが悪いのよ〜〜あたしの平穏な日常を返せ〜〜」
桜井が悲壮そうな涙目で怒鳴り
「何も好きで、この世界に産まれたわけないでしょう」
周防が呆れ薄眼で桜井を見つめ摩緒を庇うと
「何で、あんたはゴツゴツしたおっさんから、超絶美女に産まれ変わるのよ〜〜」
今度は桜井が眉を八の字にして睨みつけながら周防に絡み出した
「もうやめなよ、桜井先生」
博輝が止めようとしたら・・・
「前世は勇者で偉かっただろうけど、今世は、君は高校生で、あたしは保健室の先生よ〜〜」
桜井が偉ぶるような上目遣いで、博輝にも絡んで収拾がつかなくなった
終いには隣の人に怒鳴られた
「夜中に煩いぞ、静かにしろ!」
これにて、やっと桜井の絡みは終了した
「博輝、知っていたんだね・・・僕の中に魔帝という存在がいることを・・・通りで、柊直虎さんとの戦いの場所に来てた訳だ」
摩緒は唇を噛みしめ言葉を始めた
「隠し通すなんて酷いよ・・・幼馴染なのに」
摩緒が少し涙ぐみ悲しむと、博輝は何も言えず黙り込み
桜井は、同情の目で摩緒を見ていた
周防が頭を下げて謝罪をした
「私が余計な事をしなければ、魔帝を目覚めさせる事も無かったのに・・・謝って済む問題じゃないわね」
摩緒は首を振った
「そんなんじゃないです、魔帝ヒルガデントというもう1人の人格と、仲良くなりたいのです、だから、ヒルガデントについてどんな人か知りたいんだ」
と、懇願すると
「相当な覚悟はいるけど、大丈夫?」
と、博輝が真剣な眼で聞くと
「君の幼馴染を信じられないの・・・もう、周防先生がこの学校にきてから、信じられない出来事に遭ってしまってるんだよ」
摩緒は笑みを見せ
博輝も笑みで返し
「分かった、魔帝ヒルガデントについて話すよ・・・今日は遅いから、明日にしよう」
「ありがとう、博輝」
摩緒は喜んで礼を言った
桜井が頭を掻きながら提案した
「しょうがないわね・・・話すなら、保健室で話したら良いよ、もう1人の人格との対処法も少なからず教えるから」
「桜井先生、前世の因縁に関わりたく無かったのでは?」
周防が不思議そうに聞くと、桜井がため息をつき返事をした
「仕方ないじゃん・・・もう関わってしまったんだから」
今度は、摩緒の方を向き
「楠木君、絶対に、ヒルガデントに負けないでね・・・でないと、この世界が破滅して、あたしの日常も失うんだから」
と、励ましとプレッシャーをかけると、摩緒は力強く誓った
「桜井先生ありがとうございます、さらりと、怖い事言ってましたけど、必ずヒルガデントさんと仲良くなるよ」
「ありがとう、桜井先生」
博輝も礼を言った
「ごめんなさい、前世の因縁に巻き込んでしまって」
周防が謝ると、桜井は口角を上げ
「これも、あたしの平穏な日常を守るためよ」
と、満更でもなかった
また、隣の人から注意された
「いい加減に静かにして下さい!」
「あ、すみません!」
4人は慌てて声を小さくした
桜井が溜息交じりの小声で呟いた
「明日から、またあの仮病男子軍団の相手をしなきゃいけないのね・・・」
「それは桜井先生の人徳ですよ」
博輝が笑みを浮かべ慰め
「人徳じゃなくて、お色気よ」
桜井が自虐的に答えた
摩緒も小声で言った
「でも、明日からヒルガデントさんのことを知れるんだ・・・ちょっと怖いけど、楽しみでもある」
周防が心配そうに言った
「無理は禁物よ、楠木君」
「大丈夫です。みんながついてくれてるから」
摩緒は安心した表情を見せた
こうして、深夜の騒動は一応の決着を見たのでした・・・・