思春期とは、煩悩である。
晴れ渡る空の下、学園の巨大な校舎が異様な存在感を放っていた。その白く高い壁面に描かれた古代文字のような模様は、異能「シジル」を扱う者たちが集うこの学園の象徴だ。
「血が昇らねぇ……」
こめかみに手を抑えながら、気分が悪そうな声で呟くのは、
「あの一年生アンデスルールに挑むだって!?」
「一カウントにつき一枚、服を剥奪されるいにしえのあれか!」
嶺がフィールド中央に無言で立つ様子を囲むように、観客アバターがざわざわと動き回る。だが、嶺の冷徹な瞳はその喧騒を一切気に留めず、ただ目の前の相手――生徒会長
「アンデスルールを発動させた理由は知らないが、ここは未来型を操る者にふさわしい場だ。君には少し荷が重いんじゃないか?」
嶺は肩を軽くすくめ、観客たちが息を呑む中、静かに答えた。
「未来か……。そいつは俺がこの場でつかむだけさ」
観客たちが沸き上がる。
「なにこいつ、言葉だけはでかいぞ!」
「でも、見ろよあのカード! 黒いオーラがえげつない……!」
日向は無表情を崩さず、淡々とカードを掲げた。
「君の過去も現在も、すべてここで踏み台になる。それが未来型の力だ」
彼がシジルカードを置くと、無数のデジタル粒子がフィールドを包み込み、壮大な仮想都市が現れた。その光景は、空を覆う無数のリングと、瞬く未来の建築物たちに彩られている。
嶺はその光景を一瞥し、静かにカードを引いた。
「過去も現在も……そうか。でもな」
彼のカードが光を放ち、フィールドに黒い線が次々と走り出す。
「俺がつかむのは、そんな安いものじゃない」
『オープン・ザ・ワールド!』
電子的なアナウンスが鳴り響き、試合の火蓋が切られる――その瞬間、嶺のカードが弾けるように光を放った。嶺のカードが作り出した黒いシジル模様がフィールド全体に広がり、未来型の支配を侵食し始める。
「なに?」
日向が軽く眉をひそめた。観客たちが口々に叫ぶ。
「フィールドが、未来型の領域を食ってるぞ!」
「やべぇ普通じゃねえ!」
嶺が静かにカードをもう一枚フィールドに投じると、今度はデジタル粒子が逆流するように光を飲み込み始めた――彼のカードに込められた力が、ただの反抗ではないことを示唆していた。