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離婚したら人気配信者になりました!~元夫が泣いてすがってきたけど、遅いから~
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ブルーベリーチーズ
恋愛現代恋愛
2025年07月10日
公開日
2.9万字
連載中
愛する男のそばで、地獄から這い上がるのを支え続けた。 陽葵がそのために費やしたのは、四年。 でも、彼のもとを去る決意をしたのは、たった一日だった。

第一話


「おめでとうございます。ご懐妊です。」


妊娠……だって?


灰崎陽葵(はいざき・ひまり)は信じられない思いで検査結果を見つめ、小さな胎芽に目を潤ませた。

四年——。ついに彼との子どもを授かったのだ。


一刻も早く夫・灰崎蒼空(はいざき・そら)にこの知らせを伝えたくて、家へと急いだ。

しかし、邸宅のドアを開けた瞬間、陽葵は立ち尽くした。


真っ赤なハイヒールが派手に玄関に転がっている。それは、この家に“侵入者”がいることを物語っていた。

靴、バッグ、服、アクセサリー……玄関から二階へと続く道に、無遠慮に広げられている。

一歩進むごとに、胸が締め付けられる。


二階の寝室のドアは半開き。

高ぶった女性の吐息と、男のあからさまな甘い囁きが、陽葵の耳を打つ。


「ねぇ、奥さんに見つかっても平気なの?」


男は嘲笑するように言った。


「見つかったって構わないさ。もともと君の“代わり”だったんだから」


陽葵はよろめき、手に持っていたバッグを落とした。

その音に反応し、二人は同時に振り返る。

長年連れ添った夫婦のような息の合い方で、まるで自分こそがこの家の“部外者”のようだった。


そして、その女の顔は陽葵にとってよく知ったものだった。


宮崎華恋(みやざき・かれん)——

灰崎蒼空の初恋の人。


四年前、灰崎家が海外の資本に狙われ、一夜にして破産した。

初恋の華恋は、すぐさま裏社会の権力者と結婚。

その男は蒼空を襲い、蒼空は命を危険に晒すほどの重傷を負った。


あの日、通りすがりだった陽葵が彼を助け、献身的に看病した。

酔った勢いで、彼は陽葵の初めてを奪い、その夜、指輪代わりのプルタブでプロポーズした。

「必ず家を再興し、君を幸せにする」と誓ったのだ。


結婚式も指輪もない。ただ一枚の婚姻届だけで、陽葵は彼の妻になった。


家業再建は想像を絶する苦労だった。

資金を集めるため、真夏の炎天下で着ぐるみ姿でチラシを配り、冷たい水も我慢した。

露店を出せば管理人に追い回され、食べるのは割引の見切り品、着るのは人からもらった古着。

そんな苦しい日々を二人で乗り越えた。


会社が軌道に乗ると、蒼空の付き合いも増え、陽葵は彼に付き添い、世話を焼いた。

二人きりの時間は少なかったが、まだ先は長いと信じていた。


半年前、蒼空はついに灰崎家を再興し、名門財閥の若き当主として東京で名を轟かせた。

ようやく二人で光の中に出られたと思ったのに、陽葵が掴んだ幸せは、彼によって一瞬で壊されたのだった。


ドアのわずかな隙間から真実が漏れ出し、もう自分を騙す余地もない。


二人は何の恥じらいもなくベッドに座り、互いに抱き合っていた。


「蒼空、説明して」

陽葵は震える声で問い詰めた。


華恋が蒼空に煙草を差し出す。

彼は低い声で、まるで他人事のように言った。

「見ての通りだよ。俺たちは元に戻ったんだ」


何を言っているの?相手は既婚者なのに。


「彼女は結婚してるでしょ!」


蒼空は勝ち誇ったように微笑んだ。

「修羅門の組織は俺が潰した」


修羅門——華恋の夫が率いていた組織。

つまり、華恋のために組織を潰し、彼女を取り戻したのだ。


ずっと華恋が忘れられなかったの?

あの時、何もかも失った彼を華恋が捨てたのに、それでも愛し続けていたの?


「じゃあ、私は……?」

陽葵は震えながら問いかけた。


蒼空は何も言わず、冷笑を浮かべた。

陽葵は悟った。自分はただの“代わり”だったのだと。


四年間の支えも、共にした苦労も、全てが彼にとっては意味のないことだった。

ただ一人で感動し、ただ一人で尽くしてきただけ——。


陽葵の心は崩壊した。


こんな仕打ちは許せない。

二人の間に割って入ろうとしたが、蒼空は容赦なく陽葵を突き飛ばした。


壁にぶつかって床に崩れ落ち、瞬間、下腹部に激しい痛みが走る。

華恋は蒼空の胸元をなぞりながら、わざとらしく声を上げる。


「冷たい人ね。ほら、奥さん、血を流してるわよ」


腿を伝って、真っ赤な血が床に広がっていく。


だめ、子ども……!


陽葵は震える体で必死に訴えた。

「お願い、病院に連れて行って。私、お腹に子どもがいるの……」


「子ども?」

蒼空は興味なさそうに陽葵を見下ろす。


「ちょうどよかった。どうせ役に立たない子どもなんて、いらないし」


その言葉に、陽葵の心は凍りついた。


蒼空はベッドにもたれ、裸の胸元には華恋の爪痕が残る。

影を落とす眉の下、冷たい目が陽葵を突き刺す。

かつて愛した人の姿なのに、もうまるで別人だった。


病院に運ばれた時、白いワンピースは血で染まり、陽葵は医師の白衣を掴んで必死に頼んだ。


「お願いします、どうか私の子どもを助けて……」


だが、その願いも空しく、子どもは帰らぬものとなった。


蒼空は、何もせず、我が子が消えていくのをただ見ていた。

これほどまでに冷酷な人だったとは。


さらに彼は、東京タワーで華恋に向けて一晩中花火を打ち上げ、愛を誓った。

誰もが二人を祝福する中、陽葵は病室のベッドで、涙を流し続けていた。


四年間の全てが、この瞬間、終わりを迎えた。


「離婚しょう」

翌朝、陽葵は用意していた離婚届を蒼空の前に置いた。


蒼空は眉をひそめ、苛立ちを隠せない。


陽葵が自分に離婚を突きつけるなんて、あり得ない——そう思っている。

自分を深く愛し、どこまでも従順だった女が、たった一度の裏切りと子どもを失ったくらいで、離婚を言い出すなんて。


自分は今や灰崎グループの当主。愛人がいても不思議じゃない。

子どもだって、また作ればいい。離婚の一言で自分を動かせると思っているのか?


彼はソファにふんぞり返り、軽蔑の色を隠さない。


「いいだろう。財産分与なしで出て行け」


「分かったわ。」

陽葵は即座に答え、蒼空はさらに不快そうに顔をしかめた。


「後悔するなよ」


陽葵はもう彼を見上げたりしない。

そこにあるのは、かつての愛ではなく、静かな決意だけだった。


「後悔なんて、しないよ」


その態度に、蒼空は苛立ちを隠せなかった。

まるでゴミでも捨てるかのような、あっさりとした別れ方だった。


その日のうちに二人は離婚届を提出し、裁判所で正式に婚姻関係を解消した。


外に出ると、空には雲ひとつない青空が広がっていた。

長年背負ってきた重荷が一気に消え去り、体が宙に浮くような解放感に包まれる。


陽葵は離婚届を大切にしまい、四年愛し続けた男を振り返って、微笑んだ。


「さようなら、灰崎さん」


これからはもう、灰崎陽葵ではない。ただの陽葵、一条陽葵として、新しい一歩を踏み出すのだった。



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