「……丸焼きって、難しい料理だよね。結構奥深いっていうか、生焼けとかも気になるし。そういえば私も某ゲームでも序盤で丸焼きを焦がし続けて心折れた事あったよ。難しいよね」
「……ミツキ、その湾曲な表現は嫌味なのか」
「いや、ただ……」
「なんだ」
ディプロスは眉を寄せて険しい顔をしている。
厳しい表情のはずなのに、何故か彼女が凄く困っていることが伝わってくる。
「……火事かな、と思って」
私は、なるべく重く聞こえないように軽く言った。
話している間にも、ごおおおお、と響くような低音と熱風が私達を襲ってきている。
私とディプロスの目の前に居たウラウラとかいう大型の鳥を置いた場所には、大きな火柱がたっている。
そう、火柱だ。
もはやウラウラの姿が見えないどころか、家の前広域が燃えている。
森の中に突然現れた感じの家だったのに、今はしっかりとした広い庭がある。
庭は燃えているが。
「……ただの、魔法だ」
美少女は気まずそうに目をそらした。
「威力おかしくない?」
「……制御は下手だといっただろう」
制御が下手とかそういうレベルじゃない気がする。
パチパチとさっきまで青々とした葉を茂らせていた木が燃えている。
開けた視界に呆然としながら、生えてる木もそのまま燃えるんだな、という場違いな感想が頭に浮かぶ。
「美少女と楽しい異世界クッキングだと思っていたら、これじゃ山火事待ったなし」
「失礼だな。僕は大きい水を出すこともできる。山火事などすぐに消せる」
「あーっ、山火事だって認めた。火事に洪水じゃもはや天災だよ。天才じゃなくて天災、聖女に成敗されちゃう!」
「ミツキはうるさいな。聖女はもっと大きな力があった。僕のは制御が下手なだけだ。まあ魔力はあるから制御できない分強力ではあるが」
「威張って言ってるけど、魔力があって制御上手くないって危険すぎじゃない……?」
……私の異世界生活は、なかなかパンチがきいてる。
「あれ? 魔法の炎ってすぐ消えたりしないんだっけ?」
「魔法の炎はもう消えているはずだ。今燃えているのは、魔力由来ではなくて、ただの自然現象だろう」
「だいぶ燃えているね……」
そろそろ山火事になるのかな、という感じで燃え広がってきている。大きな火がゆらゆらと揺れているのは幻想的ではあるけれど、恐ろしくもある。
私が呟くと、おもむろにディプロスは手を伸ばした。
「消すしかないな。『水よ』」
さっきの私の懸念は当たりだったようで、大量の水が私たちの上まで落ちてきた。
ゲリラ豪雨に襲われたかのような感じだ。
上からの水の圧が凄くて、しばらく目を瞑って耐える。
あっという間に私はずぶぬれになった。ディプロスが出した水は、ほぼ短い嵐だった。
天災だ。
「さ……さむい……濡れたら急にすごい寒い」
寒い。肌寒い森の中って感じだったけれど、濡れたら一気に冷え込んだ。
ちょっとの時間だけど大量の雨に当たり続けたせいかもしれない。
ガタガタと震える身体を止めることができない。歯もカタカタいっている。手もかじかんでうまく動かない。
のままでは風邪をひくのは間違いないだろう。
ディプロスを見ると同じだけ水をかぶったはずなのに、こちらは平然と立っていて寒そうなそぶりも見せない。
「なんでそんな元気なの……さむい……。ディプロス、よく見たら濡れていなくない……?」
「人徳だな」
「もう! 人じゃないって言ったくせに! ううう、ずるすぎる……」
思わず寒さも忘れて大きい声が出る。
「冗談だ」
「ううう。むしろ人じゃないからか……」
「ほら、拗ねてないでこっちにこい」
ディプロスが濡れないんだったら、消している間私だけでも家の中に居ればよかった。
悔しい。
あの水の量に耐えた凄い火に、拾った薪をくべて焚火を作る。
今度はちゃんとパチパチと大人しい音が鳴る。
小さい火はゆらゆらと揺れても安心感があって、心が落ち着く。
「でも寒い」
「乾かしてやろうか?」
「えっ。そんな事できるの?」
「……制御は下手だが」
「私燃えちゃうやつだ!!」
「まあ、何とかなる可能性もある。やるか」
「やるはずないよ!」
どうして無駄にチャレンジャーなのディプロス。
恐ろしい。
「なんだ残念。……そのうち上手くなる気がするんだが」
そのうちでは私が燃えてしまう。