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第22話 逆転の反撃

藤原美穂の胸騒ぎは、残酷な現実となって突きつけられた。顔面は真っ青になり、背中には冷たい汗が滲む。周囲から向けられる軽蔑や嘲笑の視線が、まるで針のように突き刺さり、その場から消えてしまいたいほどだった。


なぜこうなったのか、藤原美穂にはまったく理解できなかった。呼ばれた理由は星野澪からの連絡だったはずなのに、どうしてこんな事態に?


藤原敏子や他のデザイナーたちも困惑していた。星野澪が藤原美穂を指名したと聞いていたのに、なぜ水原千雪が選ばれたのか?


そのとき、鋭い記者の一人が水原千雪の首元のネックレスに気づき、声を上げた。「あれ?それ、昨日星野さんが買っていたネックレスじゃない?どうして水原さんが着けてるの?」


「そうよ」と星野澪は明るく認め、笑顔を浮かべた。「昨日、思いがけず臨時収入があったから、長年の友人である雪ちゃんにプレゼントしたの。」


親しい友人関係が明かされ、周囲は一気に納得した。だから星野澪は水原千雪を指名したのか、と。


では、今ここにいるこの人たちは……嘘をついていたのか?


疑念の声が会場中に広がった。


「やっぱり売名目的で来たんじゃないの?」

「本物のスタイリストはちゃんとした服装なのに、こっちは主役より目立ってるじゃない」

「偽物のジュエリーでそんなにアピールして……」

「大勢のボディーガードまで連れて、まるで大物気取りね」

「恥知らずにもほどがある!」


藤原敏子たちも顔を真っ赤にし、居心地悪そうにうつむく。自分たちこそが滑稽だった――誰もが藤原美穂に冷たい視線を向ける。ディレクターとして、肝心の協力相手すら把握できていなかったせいで、全員が恥をかく羽目になったのだ。


藤原敏子は目配せで「早くここから出よう」と促す。


だが、藤原美穂は水原千雪のネックレスをじっと見つめ、頭の中には星野澪の「臨時収入」という言葉が何度もこだまする。


500万円――それは自分が星野澪のアシスタントに渡した賄賂の額。星野澪はその金で水原千雪にネックレスを買ったのだ!


怒りが理性を焼き尽くし、すべてを悟った。――水原千雪と星野澪が組んで、罠を仕掛けていたのだ!


屈辱と怨みがこみあげる。藤原美穂は顔を上げ、目に涙を浮かべながら、震える声で言った。


「星野さん……私、どこであなたに嫌われたんでしょうか。こんな仕打ちを受けるなんて……」胸に手を当て、傷ついたファンを見事に演じる。


「私はあなたのファンです……デザイナーとして一番の夢は、あなたのために衣装を作ることでした……医者には余命半年と言われています……あなたからのご指名が来たとき、嬉しくて一晩中眠れませんでした……それが全部、嘘だったなんて……」


藤原美穂は涙をためて星野澪を見つめる。「雪ちゃんと私の間には確かに誤解がありました……でも、親友のためとはいえ、なぜ私にここまでひどいことを? 余命わずかな患者を弄ぶなんて……そんなに楽しいですか?」


その見事な演技は、会場の多くを欺いたほどだった。


星野澪はその言いがかりに思わず笑い出した。「藤原さん、ずいぶんと芝居がうまいですね? 私が仕組んだって、証拠でもあるんですか?」


藤原美穂は一瞬、冷たい笑みを浮かべた。それを水原千雪だけが見逃さなかった。千雪の胸に不安が広がる。


藤原美穂はスマートフォンを取り出し、裏切られた悲しみを顔に浮かべる。「憧れの人のアシスタントから電話が来て、嬉しくて……録音してしまったんです。」そして、再生ボタンを押し、音量を最大にした。


星野小百合の声が会場に響き渡る。


「藤原さん、こんにちは。星野澪のアシスタント、星野小百合です。星野はあなたのデザインをとても気に入っていて、衣装デザイナーとして起用したいと言っています。明日の記者会見にご参加いただき、契約をお願いします。」


録音が終わると、会場は静まり返った。


「間違いなく、星野さんのアシスタントの声だ!」と記者が叫ぶ。


これ以上ない証拠――会場は一気に騒然となった。誠実で知られる星野澪が、親友のために「余命わずかの患者」を罠にかけたのか?


イメージ崩壊――まさに大スクープだ!


記者たちのカメラが一斉に星野澪と水原千雪を狙い、鋭い質問が飛び交う。


「星野さん! この録音は事実ですか? 藤原さんを陥れたのですか?」

「水原さん、あなたも共謀していたのですか? 病人をいじめるのはやりすぎでは?」

「藤原さんが重い病気を抱えていることについて、どう説明しますか?」


会場は完全に混乱し、フラッシュが星野澪の驚きの表情を次々と捉える。


マネージャーとアシスタントが慌ててカメラの前に立ちふさがる。「申し訳ありませんが、星野は休憩が必要です!」


監督の田中明遠が険しい表情で立ち上がった。「会見は中断します。記者の皆さん、いったんご退席ください!」

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