ボフッ。
ポストの口がピンク色に発光し、まるで舞台のドライアイスのように白い煙が噴き出す。もくもくと部屋を満たしていき、やがてその中に人影が──。
煙が自然と晴れて、そこに現れたのは──
「はじめまして、皆さん。本日よりお世話になります。レイシアと申します。社長秘書としてやってきました!」
ミントグリーンの髪がふわりと揺れ、オレンジとピンクの入り混じった瞳がきらりと光る。
白衣にネイビーベスト、きちんとしたシャツに名札まで──見た目も話し方も、“できる秘書”そのものだった。
そして、なにより……
かわいい。
「よろしくお願いします」
にっこりと微笑みながら、彼女は右手を差し出してくる。
「こ、こちらこそよろしくお願いします!」
思わず両手でがっちり握手していた。
「事務手続きやスケジュール管理が得意ですので、何なりとお申し付けくださいね」
──うん、どう見ても私たちより優秀な人材が来ちゃった。
「実際、優秀じゃよ。社員証を見てみぃ」
リィナに言われ、胸元の名札を見ると──
レミィ=レイシア ⭐️⭐️⭐️⭐️
「星、四つ……!?」
「五つ星が最高評価じゃから、これは当たりじゃな。高待遇で迎えて、帰りたくならぬようにすべきじゃ」
「うわぁ、急に人事部っぽいこと言い出した……」
だけど、その時。
私の中で、別の好奇心が芽生えていた。
──300ジェムのガチャ、やってみたい。
「やめとけ。ぽんこつ出るぞ?」
「でも、見てみたい。どれくらいぽんこつなのか」
私は財布から300円を取り出し、ポストにそっと投入。
チャララ~ン♪
どこか哀愁ただようジングルが流れ──
ボフッ!
ポストの口から、オッサンが吐き出された。
「……あー、だりぃ」
くたびれたスーツ、割れたメガネ、3日風呂に入ってなさそうな香り。そして、態度がやたらデカい。
「これは……思ってたよりヤバいの来たな」
社員証を確認すると、そこには
山田 ☠️☠️☠️☠️
「ドクロマーク!? しかも四つって!!」
「つまり、その上──五ドクロも存在するということじゃな」
「えーと……あんたはとりあえず草むしりでもしてて」
「俺、母ちゃんの言うこと以外聞きたくないっす。あと、休憩は3時間でお願いしたいっす」
「こっわ!! これ、解雇できるよね?」
「できぬ。“求人票”による召喚は正式な雇用契約。無理に辞めさせれば、不当解雇で訴訟じゃ。信用は地に落ち、求人票も使えんくなる」
「そんなぁああああ!!」
「だから言ったのじゃ……やめておけとな……」
「こんなの絶対に使えない。というか、こんなやつと暮らすとか無理!」
「呼び出しておいてずいぶんひどい言いようじゃな」
「だってバイト先にもいたもん、こういうの!」
その時、今まで黙っていた佳苗がすっと手を上げる。
「仕方ないのです。──ヨミさん、出てきてくださいなのです」
「なんでしょう?」
スッと姿を現すヨミ。
「屋敷の裏に物置がありましたよね? この方にはそこに住んでもらいましょう。
勤務時間は朝8時から夕方5時。休憩は午前15分、昼1時間、午後15分。仕事内容は草むしり、外壁補修、その他雑務。怠けていたら──殺していいのです」
「殺していいのですか!?」
目を輝かせるヨミ。
「ついでに、食事の用意も適当にお願いします。水は井戸を使ってください。
冷蔵庫はありませんが──まあ、気合と根性でなんとかなると思うのです。努力次第で報酬は増やしますので」
「かしこまりましたっ!」
ヨミが嬉しそうに山田の足を引きずって、外へと消えていった。
……なんだろう。
うちの会社、
すでにブラックの香りしかしないんだけど。
──いや、わかってる。
ガチャ回した私が一番悪い。