「ようこそ皆さん! 本日よりよろしくお願いしますね! 怪しい人が来たら即殺しますんで安心してください!」
引っ越し当日。
このボロ屋敷を守護する死神──ヨミは、女子中学生の姿でにこにこしながら物騒なことを言ってきた。
大鎌を握って、やる気だけは満々だ。
「いや、せめて……気絶くらいにして」
「かしこまりました! ヨミ、がんばって手加減します!」
……笑顔で言われても全然安心できない。
ちなみに、ヨミは姿を消せるらしく、引っ越し業者には気づかれることなく、作業は無事終了。
今日からここが、私たちの新居――そして、将来的には“会社”になる(かもしれない)場所。
夜。
私たちは、折りたたみの食卓テーブルを囲み、小さなカセットコンロで鍋をつついていた。
「大学卒業まではバイトでなんとかするとして……そのあとは、ここで起業するしかないよね」
「なんか作って売るのがいいと思うのです」
「でも飲食は無理かなぁ。立地が終わってるし。バス停から歩いて三十分って、もうほぼ山小屋」
「前のマンションの家賃がもったいなかったのです」
「ねえ佳苗。私、友達にこの住所教えたら、“どこそれ? 日本?”って言われたんだけど」
「……それで、会社ってどうやって作るの?」
「法人登記とか、税務署への届け出とか……色々あるのです。正直、面倒なのです」
「……あー、その時点で挫折しそう。誰か代わりにやってくれないかな~」
私がふとリィナを見ると、彼女と目が合い──その瞬間、リィナの体が輝きはじめた。
「ちょっ、なにこれ!? 光ってるんだけど!?」
「我に願ったからじゃ」
「いや願ったっていうか、“毎日ごろごろしてるから少しは働け”って思っただけで……」
「それを“願い”というのじゃ。まぁ、衣食住を与えてくれた礼と思えばよい」
その瞬間、私は思った。
あ、この人──本当に神なんだ……。
「千歳ちゃん。で、どんな能力が身についたのです?」
佳苗がワクワク顔で聞いてくる。
「さあ? なんか力が湧いてくる感じとか、特にないけど……」
と、言った瞬間。
目の前に「ぽんっ」と昭和レトロな赤ポストが現れた。
「……なんでポスト?」
「試しに、“いでよ、求人票!”と唱えてみるのじゃ」
「……えぇー……。……いでよ、きゅーじんひょー」
棒読みで唱えると、ポストから謎のメロディーが流れ出し、A4サイズの紙がふわっと出てきた。
「なにこれ……手書き? “ピコリーナカンパニーへようこそ! 人材求む!”……って、字もめちゃくちゃ汚いんだけど」
「それこそ、チート能力“求人票”じゃ。その紙をポストに入れると、異次元から今そなたらに必要な人材が転送されてくる」
「……それ、ただの誘拐では?」
「言い方が悪かったな。異次元ホールと呼ばれる空間があってな。世界各地でまれに発生し、その場にいた者を無差別に飲み込むのじゃ。神隠しのようにな」
「じゃあ……そのホールにいる人を呼び出すってこと?」
「まさにそれ。我もかつてはそこに囚われていた身じゃ。神力を使い果たして、かろうじて脱出できた。……ちなみに、魔王ですら逃げられなかったと言われておる」
「魔王!? 異世界すご……」
「さて。この求人票は、そのホールの中だけに届く。そして、千歳にとって“今いちばん必要な人材”が選ばれ、転送されてくる仕組みじゃ」
「それって要するに──ガチャじゃん」
「うむ。ガチャじゃ。説明はつけたが、仕組みそのものは我にもわからぬ。……ご都合展開ということで頼む」
「開き直ったなこの神」
「で、ちょっと気になったんだけど──この“ピコリーナ・カンパニー”って、何?」
「求人票が勝手に会社名を決めたのじゃろうな。千歳に似合う名前を異次元側が生成したのじゃ」
……まさかの会社名、AI任せ。
「とりあえず、ポストに入れてみていい?」
「うむ、構わぬ」
恐る恐る、紙を赤ポストに入れてみると──
「求人票一枚、受理しました。異次元ホール内より、現在必要とされている人材を転送いたします。なお、300ジェムで1名、3000ジェムで11名召喚も可能です」
──しゃべった。ポストがしゃべった。
「課金要素あるの!? 急に胡散臭くなった!!」
「ちなみに、300ジェムは日本円で……そのまま300円じゃ」
「安っ!? 求人票いらないじゃん!」
「求人票はレア召喚なのじゃ。つまり、有能な者が来る。課金召喚は……まあ、ぽんこつも混ざる。どこの会社にもおるじゃろ、“あぁこいつ使えねー”みたいな」
「例えがひどい神!」
「質問良いですか?」
佳苗が手を挙げては、
「危険な人来たらどうしたら良いのです?」
「求人票じゃから、働きにくるわけで自動的に雇用契約を結ばれるから、意見を言い合うことはあっても反乱みたいな起こすことはないから安心して
死ぬまでこきつかうと良かろう」
「だから言い方!」
「でも無理やり働かせるのも悪いのです。」
「10年働くか、それに見合った働きを評価されたら、本人の意思のもとじゃが、元々いた世界に帰れることができるから、むしろやる気満々で働くぞ? 例えるなら、ここはタコ部屋じゃな。三食適当に与えて雀の涙程度の給料払えば文句は言わんな」
「だから例えが悪い!」
「すまぬ。この能力の説明書をそのまま読み上げてただけじゃ。我も初めてじゃからな」
「説明書あるんかい!」
そう言いながらも求人票をポストに投函したのだった。
するとポストがピンク色に光り輝き、電気が勝手に消え、何故かオーロラが見えた。
「超レアなやつじゃ! たぶん!」