目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第20話 覗き見


高橋慎也は藤原美咲を朝食に連れて行き、その後彼女を学校に送り届けた。車を降りる際も、美咲はべったりと慎也に抱きついて離れようとしない。慎也は優しい口調でなだめた。

「よしよし、美咲。ちゃんと授業受けてね。終わったら美味しいもの食べに行こう。」

そう言いながら、慎也はバスから降りてくる見慣れた人影をふと目にした。小林玲奈?こんな時間に学校に戻ってくる?昨夜は寮に帰ってなかったのか?美咲をなだめて校門をくぐるのを見届けるまで、詰め寄って問いただす衝動を抑えた。

玲奈の寮の方角を見ると、もう姿は消えていた。無意識に、慎也は車を玲奈の寮の下まで移動させ、彼女が住んでいる階を見上げた。しばらくすると、玲奈がベランダに出て電話をしている姿が見えた。

慎也は反射的に身をかがめ、自分が覗いているのを彼女に見られたくないと思った。玲奈が中へ戻るまでそうして、ようやく背筋を伸ばしてシートにもたれた。苛立ち混じりに息を吐くと、エンジンをかけてその場を離れた。


............


小林玲奈は寮に戻ると、田中夢子から食事に誘う電話がかかってきた。出かける際、悠斗から預かっていたマフラーを今日返すつもりで忘れずに持った。女友達同士の食事だと思っていたのに、夢子の年下の彼氏も一緒だった。

男は黒いダウンジャケットにジーンズ、青いニット帽をかぶり、背は180センチ以上はありそうで、がっしりとした体格だった。夢子が惚れるのも無理はない、理想的なタイプだ。男は口が達者で、玲奈を見るなり「お姉ちゃん」と呼んだ。

玲奈は気まずそうに笑った。夢子が彼女の腕を組んでこっそり囁く。

「年下彼氏、どう?」

玲奈はうなずいた。

「あたしの目、節穴じゃないでしょ?」

「うん。そういえば、彼の名前は?」

年下彼氏が自ら名乗った。

「お姉ちゃん、僕、千葉宏紀って言います。」

千葉宏紀。見るからにワイルドそうだ。玲奈は気まずい笑いを浮かべた。

「あの、お姉ちゃんって呼ばないで。名前で呼んで、玲奈で。」

宏紀は彼女に向けて明るい笑みを見せ、夢子の腕を親しげに組み、頭を彼女の肩にもたれかせた。玲奈は気まずさから逃げ出したくなったが、そう言い出すのも悪く、スマホで夢子にLINEを送った。

《カップルで食事なのに、私が邪魔者みたいじゃない?》

《えー、紹介したかったんだもん。》

玲奈はメッセージを見て、ちらりと宏紀を見た。作り笑いを浮かべると、宏紀が突然夢子に言った。

「お姉ちゃん、友達がもう一人いるって言ってなかった?」

玲奈は思わず固まった。この年下彼氏、誰にでもお姉ちゃんって呼ぶのか?彼女は疑問そうに尋ねた。

「まだ誰か来るの?」

その言葉が終わらないうちに、夢子の携帯が鳴った。彼女は受話器を取り、

「もしもし、着いた?わかった、迎えに行く。」そう言うと席を立って入口に向かった。「ちょっと待ってて、人を連れてくるから。」

夢子がいなくなった個室には、玲奈と宏紀だけが残された。気まずい空気が流れる。玲奈はスマホを取り出し、LINEを開いた。悠斗から昨夜届いたメッセージを見て、少し躊躇ってスタンプを送った。

メッセージを送った直後、悠斗がほぼ即座に返信してきた。

《今頃返信? Ծ‸Ծ》

玲奈はその悔しそうなスタンプを見て、思わず笑みがこぼれた。その次の瞬間、宏紀の好奇心旺盛な声が聞こえた。

「お姉ちゃん、何笑ってるの?」

宏紀に「お姉ちゃん」と呼ばれると、玲奈は余計に居心地が悪くなった。

「名前で呼んでって言ったでしょ。」

宏紀は気まずそうに笑った。

「玲奈さん、LINE交換しない?」

「......」玲奈は彼に少し距離感がないと感じた。夢子の彼氏なのに、彼女がいない間に自分のLINEを追加しようとするのか。彼女はつい悪い方向に想像してしまい、笑顔で言った。

「いいわよ。」

宏紀が嬉しそうにスマホを差し出してQRコードを読み取らせようとしたところで、玲奈が続けた。

「ゆんちゃんに私のLINEを紹介してもらえばいいんじゃない?」拒否の意思は明らかだった。

宏紀の笑みが固まり、愛想笑いでうなずいた。玲奈の視線がスマホに戻った。返信がないのを見た悠斗が、悔しそうなスタンプを何度も送ってくる。玲奈は仕方なさそうにため息をつき、メッセージを打った。

《あなたのマフラー、今日返すんだけど、時間ある?》

メッセージを送信すると同時に、位置情報が送られてきた------高橋財団ビル。悠斗は会社に来いと言っているのか?

「ゆん、誰が来たと思う?」夢子の声が入口から聞こえた。玲奈が顔を上げると、夢子と一緒にいる若原知也の姿が目に入り、固まった。夢子に仕組まれたとは思わなかった。

知也は笑いながら歩み寄った。

「玲奈、久しぶりだね。」

玲奈は気まずそうだった。前に知也に会うのを断ったばかりなのに、今日は夢子に騙された形だ。彼女は夢子を睨みつけた。夢子はごまかすように言った。

「あー、みんな暇だったからさ、旧友で集まろうって。」

知也は勝手に玲奈の隣に座り、さりげなく尋ねた。

「高橋慎也とは別れたんだって?」

玲奈は彼がいきなり核心を突いてくるとは思わず、気まずそうに答えた。

「うん、別れたよ。」

知也は笑った。

「別れて正解だよ、彼は君に合ってない。」

玲奈はこの話題を続けたくなかった。

「君はずっと海外にいるのかと思ってたよ。」

「そんなわけないよ、外国より家が一番だろ。」そう言って初めて、彼は宏紀に目を向けた。上から下まで見渡すと、眉を上げて夢子に尋ねた。

「お嬢様、これが君の彼氏?」

夢子は宏紀の手首を掴んで、甘ったるい笑みを見せた。

「そうよ。紹介するね、千葉宏紀、こっちは若原知也、私の先輩。」

宏紀はおとなしく挨拶した。

「鈴木様、こんにちは。」

夢子は突然バッと立ち上がった。

「あの、会社に取り忘れた書類があるから、本当に申し訳ないんだけど、みんなで食べててね。今度また集まろう。」そう言うと宏紀の手を引いて行こうとした。

玲奈は彼女の魂胆を見抜き、自分も立ち上がった。

「ちょうど私も用事があるから、一緒に行くわ。」

夢子は呆然とし、気まずそうに知也を見た。知也は冗談めかして言った。

「俺、そんなに怖いか?飯も食わずに逃げるなんて?」

玲奈は気まずそうに夢子を見た。夢子は彼女に座るよう合図した。二人がにらみ合っていると、突然の着信音が気まずさを破った。悠斗からの電話だ。

玲奈は慌てて出た。

「はい。」

電話の向こうから、聞き惚れるような悠斗の声が聞こえた。

「さっき送ったメッセージ、見た?」

玲奈は夢子に話しかけられて返信し忘れたことを思い出した。

「ごめん、返信忘れてた。」

「いいよ。じゃあ、今から来る?」

玲奈は夢子がもう席に戻ってしまい、自分だけ抜け出せないことを悟り、ありのままに伝えた。

「今、友達とランチしてるから、食べ終わったら行くわ。」

電話の向こうで一瞬間が空いた後、悠斗が幽かに言うのが聞こえた。

「いいよ、待ってるから。友達とゆっくり楽しんでね。まあ、僕はブランチも食べてないけどさ......」


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?