「なな、なんでしょうか?」
ビクビクと調査用の指導室に入り、すすめられるがままに椅子に腰掛ける。
「ミザリー・アレグラ副教官を知っているか?」
僕は言っている意味を計りかねた。
「え……えっと、副教官ですから、そりゃあ――」
言いかけた僕を調査官が制した。
「質問が悪かった。ミザリー・アレグラという人物を、この学園に来る前から知っていたか?」
あ、そういうこと。
「い……いえ、知りません」
即答すると、調査官は黙る。え、知ってないとまずいくらいの名家の方なの?
「……え、えっと? どちら様なんでしょうか? 僕、名家には疎くて……」
おずおずと言ったら、調査官は首を横に振った。
「彼女は、暗殺を生業としている裏稼業の者だった」
僕は、ひゅっと息を呑んだ。
「ターゲットは、アッシュ・ウェスタンス教官と……君だったようだ。彼女の隠れ家らしき場所に、君とアッシュ・ウェスタンス教官の写真があった。アッシュ・ウェスタンス教官はさらにウェスタン家のことも載っていたので、まずアッシュ・ウェスタンス教官を先に片づけようとしていたのだろう。実際、べったりとくっついていたそうだからね。暗殺の機会をうかがっていたのだろう。あるいは美人局で暗殺しようとしていたのかもしれない」
あまりのことに開いた口が塞がらなかった。
なんだって? ――暗殺者? そう言ったのか?
それに、アジトにターゲットの写真――アッシュ・ウェスタンス教官と僕の写真まであったって? ――あり得ない。
あまりのことに頭が真っ白になりそうだった。
僕が驚いて口もきけない状態になったのを憐れんだ調査官が、肩を叩いた。
「ショックだろうが、伝えたほうがいいと思ってな。――親御さんにも伝えたほうが――」
「いえ。僕がそんなことに巻き込まれたと知ったら、きっと退学にすると思います。そうなったら僕は――僕はまだ、心の整理がつかないんです。僕からきちんと報告しますから、それまで待っていただけませんか? 数日待っていただけるだけでけっこうですから」
僕が震えながら頼むと、調査官はうなずいてくれた。
「アッシュ・ウェスタンス教官は敵が多い。恐らく本命はそちらだろう。君は――もしかしてとばっちりかもしれないと思っている。彼の受け持ちの中で、君だけが彼の推薦じゃないからね。そこから崩せると思いマークしたのかもしれないという意見もあるんだ。ハッキリするまでは君の両親には問い合わせないようにしよう。だが、君にも狙われる理由があったとしたら、親御さんに話を聞かないといけなくなる。わかってくれるね?」
「…………はい。ありがとうございます」
僕は頭を深く下げ、部屋を出た。
僕がフラフラと歩いていたら、隊長たちがやってきた。
「どうした」
隊長に尋ねられて、首を振った。
「なんでも……なんでもないんです。ただ……。すみません、ちょっとショックなことを言われてしまって。…………心の整理がついたら、相談に乗ってくれますか?」
僕は、アッシュ・ウェスタンス教官を見て言った。
アッシュ・ウェスタンス教官は、なんだかすごくいい笑顔で僕を見て言った。
「もちろん。僕の受け持ちだから、いつでも、いくらでも相談に乗るよ」
僕はアッシュ・ウェスタンス教官にも深くお辞儀をし、
「……今日は、早退させてください」
そう言って、彼らの元を去った。