…………あぁ。本当に…………なんてことだ。
期限は決まってなかったとはいえ、もともと時間はそれほどなかったのは理解していた。
だが、いくらなんでもこれはないだろう。
イレギュラーには慣れていたけれど、今までこれほどひどい裏切りはなかった!
……あの、暗殺者の風上にも置けない素人が、これほどに私の足を引っ張るなんて計算外だった。
まさか、
それだけじゃない、同じターゲットを狙っている
信じられない……。そんな奴が暗殺者を名乗るのも、そんな奴に依頼を出すのもだ!
――依頼人も、よくも私を売る真似をしたな。
恐らく、『確実に仕留められるのならいくら時間がかかってもいい』と言ったのは、本人の感覚でなんだろう。
依頼人としては、せいぜい数週間、下手をしたら数日でしとめられるだろうと気楽に考えていたのだ。
だから、本当に時間をかけて内部に潜入し暗殺しようとしていた私のやり口にしびれを切らせて、他の美人局の素人暗殺者を雇ったのだろう。
ご丁寧に、私も狙っていると暴露して!
いつもなら、この手のやりとりでドジを踏むボスじゃない。
恐らく、セントラルのイイトコのヤツだから恩を売って搾り取ろう……なんて企んで、あり得ないようなドジを踏んだんだろうが、潜入している私にとっては致命傷だ。
ボスだって、もし私に関して事件が起きて、シャム・シェパードの両親に連絡を取られたら一発で終わりなのをわかっているだろうに。
だって、シャム・シェパードなんて人物は
それを辿れば、その戸籍を用意した依頼人まで到達してしまう。そして、依頼人は簡単に口を割って、暗殺部隊に依頼したことを暴露するだろう。エリアにいるのならともかく、セントラルのような逃げ場のない都市で手配されるのは御免だ。
……無事ターゲットを始末したら、その依頼人も始末する。ついでに欲をかいてこんな目に遭わせたボスも、処分してやる。
私はイライラとそう誓うと、瞑想し気を落ち着けてざっと計画を立てた。
雑でもいい。とっとと始末してすぐに依頼人の元に行けばいいのだから。まだ誰も疑っていない時点で始末して姿を消せばいいのだ。
だから、時間が勝負だ。
ブレイン内で計画を何度かシミュレーションし、地図をいくつか出してルートを確認、ルート先の情報をおさえ最適な逃走経路をマークする。
そして、目を閉じ、再び目を開けると通話をオンにした。
「……ぼ、僕です。シャム・シェパードです。あの……今日、調査官から言われたことでご相談したいことがあって。出来れば内密に、二人きりでお話ししたいんですけど……」
*
僕は、人気の無い空きの部隊室にいる。すっかり日が落ちて暗くなった。僕はぼんやりと外を眺めていると、アッシュ・ウェスタンス教官が呑気にやってきた。
「どうしたの? たそがれてるけど」
「ぼ、僕…………。実は、今回のことがあって……もうすぐ学園を去らないといけないんです」
そう言うと、アッシュ・ウェスタンス教官に向き直った。
そのタイミングでブレインを使って全監視カメラを停止する。管理パスワードを上書きしたのでそう簡単には突破されないだろう。
これで、心おきなく始末できる。
「……なんとなく、それはわかっていたよ」
アッシュ・ウェスタンス教官が微笑んだ。
その答えは意外だったが、僕はアッシュ・ウェスタンス教官に歩み寄りながら震える声で言った。
「ただ、心残りがあって。僕……まだやらなきゃいけないことがあるんです。それが……」
――あなたの暗殺です。