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第30話 私の過去

「――で、君の過去に起きた事件だが、犯人はわかっている」

 アッシュ・ウェスタンスの突然の発言に、私の瞳孔が広がった。

「…………なに? どういう……ことだ?」

 戸惑う私を銀色の瞳で見下ろしながらアッシュ・ウェスタンスがサラリと言った。

「君の情報をクロウがさらった。それでわかったことだ。君はセントラルの四大名家の令嬢だった。生体認証も取れたので間違いない。死亡したことになっているな。前の俺と同じだね」

 私は聞いた瞬間、息を止めてしまった。

 冗談だろ?


 アッシュ・ウェスタンスはさらに続ける。

「犯人は現当主である君の叔父。よくある話だね。襲われて、半死半生でエリアに捨てられた。死体をエリアに運び出すのは間違いなくとがめられるけど、生きているならどうとでもごまかしが利く、ってのはセントラルの暗殺者の共通認識なんだろうな。俺のときも同じ手口だったよ」

 そう言うと、アッシュ・ウェスタンスはニコリと笑った。


 呼吸が苦しくなった。

 私……私は、倒すべき敵を間違えていたのか。そんな……。セントラルに、私がこうなった原因がのうのうと生きていたなんて……。

 どうりで、暗殺部隊にいても私の両親を殺した連中が浮かび上がらなかったわけだ。セントラルの人間にやられていたのか。


 呆然としながらぐるぐる考えていると、アッシュ・ウェスタンスが通告してきた。

「俺の話を聞いたら、復讐したいって考えるんじゃないかなと思うけど、正直、今の君の実力だと良くて相討ちだね。特に、クロウにブレインを制御されている状況下じゃ、君の望む結果が出ないだろう。完勝するにはせめて俺やナンバー99のメンバーくらいの実力は必要で、さらには君一人じゃ無理もいいとこ、よほど運に恵まれてない限りは敗色濃厚ってヤツかな」

 アッシュ・ウェスタンスの言葉に、ギリッと奥歯を噛み締めた。

 くやしい……。よけいな寄り道をした気分だ。

 そんな私の様子を、アッシュ・ウェスタンスが面白そうに見た。

「ま、しばらくは学園で鍛えるしかないね。身体能力も魔術もいいものを持っているけど、制限下で今の体たらくじゃ、ちょっとね。リミッターを外したアイツらが本気で殺そうとしたら、君、瞬殺だったから」


 ぐっと詰まった。

 ……遊ばれていたのはわかっている。全員が全員、本気じゃなかった。生け捕りにしたかったからだろうけど、それだってもっといい方法があったのに、コイツを含めた連中全員が遊んでいたんだ。

 私は息を吐くと、己に言い聞かせるように言った。

「……もう一度鍛え直す。そして、復讐し、私のものだったものを取り戻す」

 アッシュ・ウェスタンスが私を見て微笑む。

「なら取り引きだ。俺たちについてこれるレベルの実力になったら、君が本来のサウス家当主としての権利を取り戻すための手助けと、この俺、アッシュ・ウェスタンスがウェスタン家当主として君の後見人を務めよう。その代わり、君が当主になったらサウス家はウェスタン家の傘下となる。そして君は、クロウ・レッドフラワーの保護を命を懸けてやってもらう。もしもクロウ・レッドフラワーに不利な状況をもたらしたら、その命で償ってもらう」

 アッシュ・ウェスタンスの言葉は想定内だった。まったく意外に思わないほどに。

 私は肩をすくめて了承した。

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