目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第31話 僕の今

 はアッシュ・ウェスタンス教官の庇護の下、〝オーロラ・サウス〟として再度転入した。


 シャム・シェパードは、『自己都合による退学』となった。表向きはね。

 真相は『以前、賊に襲われ両親と記憶を失い、さらに暗示に掛けられて自身を男と思い込んでいた令嬢が、学園に来てたくさんの友人たちと接していた結果、記憶が戻った。担当教官であるアッシュ・ウェスタンスに相談し、生体認証を確認して本人だと認められたため、再度女性として学園に登録し直した』とした。事実と嘘が混じり合った絶妙なその噂を、隊長が流しているそうだ。

 僕自身が流しても良かったのだが、足がついたときに僕が流しているとバレるとめんどうらしいので隊長にお任せした。


『記憶が戻ったら魔法も使えるようになっていた』という設定で無理を通し、現在、カリキュラムは完全にナンバー99の隊員と同じ構成になった。

 そして女子寮に移り、ジェシカ・エメラルドにめちゃくちゃ睨まれ恨まれながら彼女と隊長との同室にいる。

 つまりは、二人の愛の巣状態だった部屋にお邪魔虫の僕が入ったということになる。

 ジェシカは被っていた優しげな猫を完全に取り去り、

「今まで男子寮で良かったんだから男子寮に行きなさいよ!」

 と、今度は威嚇する猫のように責めてくる。

 僕は別にどちらでも良いのだけど、アッシュ教官の指示だからしかたがないと言うと諦めて肩を落としていた。ついでのように隊長に抱きつき、

「二人っきりになれる空間だったのに~! クロウとアレコレ出来たのに~!」

 とか怖いことを言っていた。ちなみに隊長の瞳のハイライトは消えていた。


 元同室だった二人……特にリバー・グリフィンは「お前、女だったのかよ!?」と真っ赤になっていた。

「男だと思ってたから、パンイチでうろついちまったじゃねーか!」と怒鳴られ、呆れた。

「だから? たとえお前が素っ裸でうろつかれようがどうということはないし、僕は擬態用の男性器をつけていて裸を見られようと動じない。暗殺部隊ナメんな」

 と言ったら、リバーは悄然としていた。謎だ。


 現在の姿は、青紫色の本来の髪をストレートに戻して撫でつけている。ちなみに、本来の私は紫の瞳だ。

 女子で短い髪は目立つのでウィッグをつけようかと思ったが、バレると偽物の疑いがより濃くなるということで、そのままにした。

 同じ理由で胸パッドも入れてない。平たいのは男子に変装することもあるので成長させないようにしていたんだと訴えたい気分だ。


 ミザリー・アレグラの件は、事故として処理された。

 私とミザリー・アレグラの依頼人であるジーメッツ・ウェスタンスは死亡していた。調査官が聴取のため依頼人の元に訪れたときは、死体となって転がっていたらしい。

 ちなみに、手を下したのは僕じゃない。

 死体のそばには大量の精神安定剤、睡眠薬、そして酒精の強いアルコールが転がっていて、それらの過剰摂取が原因だそうだ。

 近隣から、もともと短気で暴力行為が多かったが、ここ数日は幻覚を見ているらしく誰もいない空間に向かって怒鳴ったり脅えたりしていた、との調書がとれたそうだ。自殺に近い事故で処理された。

 そういう暗殺のしかたもあるんだな、と僕は感心した。


 アッシュ教官から、「今後は、君を陥れた連中に隙を見せないような振る舞いをしてね」と忠告されたこともあり、記憶が戻ったという設定もあるので、前回のオドオド君はやめて物腰丁寧な紳士的振る舞いをすることにした。見本はキース・カールトンだ。

 ジェシカの外ヅラはどうも同性に嫌われやすいようだし、キースの外ヅラなら男女問わず文句付ける奴はいないだろうと思って真似したら、なぜか女子に人気が出た。


 ――男に変装していたときはサッパリだったのに女になったらモテたとか、どういうことなんだろう……。

【男装の麗人】と呼ばれているらしい。僕、今、女子の制服を着ているんだけどね。


 鞭使いの子も、僕を見て百面相した後、

「オーロラ様ぁ」

 とか、言うようになった。本当にどういうこと?

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?