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2章 なれ初め

第32話 アッシュ・ウェスタンスの独白 前編

 俺はアッシュ・ウェスタンス。現ウェスタンス家の当主ね。

 元はエリアのトップ傭兵部隊【ナンバー99】の副隊長【ナンバー54】だ。

 そもそもの経緯は、ウェスタンス家のクズ兄貴たちが俺を嵌めやがったことから始まる。


 俺は幼少期から頭が良くて、ついでに運動神経も良かったらしい。

 なので、学園の初等部では天才と言われていた。

 さらに容姿も良かったらしい。

 学園の中等部でも常に成績は一番で、モテていた。

 跡取りや女性は家同士の政略的な見合い結婚が当然だが、家を出ることが決定の男にそんなものなどない。自由恋愛だ。女性に不自由していない俺は、特に恋愛にも女にも興味を示さず、ただ、成績を上げることだけを考えていた。

 成績優秀のほうが、家族親戚のウケが良いと、その頃は考えていたんだ。


 実際、下の兄はパッとしない成績で、俺は常に褒められていた。それが当たり前だった。

 その頃の俺は傲慢で、ひそかに他人を見下していた。周りから「学園始まって以来の秀才」とおだてられていたからかもしれない。いや、世間を知らないガキだったからだな。


 そうして、俺は――野外演習で、行方不明となった。

『未知のアンノウンと遭遇し、戦闘になったせい』というのが表向きの理由で、長男に雇われた裏家業の連中がアンノウンをおびき寄せ、戦闘のどさくさに紛れて俺を闇討ちしたのが真相だ。

 長男である上の兄に雇われた連中から聞いた。

 裏家業の連中はともかく、アンノウンはあまりに強かった。呼びよせた裏稼業の連中もほぼアンノウンに壊滅させられ、残った連中はなんとか俺にアンノウンをなすりつけて逃げていった。俺も勝てず、ボロボロに嬲られた。


 ――優秀であるほうが良いと思っていた。

 だが、上の兄は、目立つ俺を目障りだと思っていたのだ。そして、そんな長男を知っていたから次男はわざと目立たないようにして長男にこびへつらっていたのだ。

 今さら気付いた。

 だが、絶対に、俺には無理だ。そんなつまらない生き方をするくらいなら、長男と戦う。

 ……だから、長男の謀略に負けて、アンノウンに負けて、俺は死ぬのか。


「――――たいか?」

 …………どこからか微かに声が聞こえた。

 朦朧としながら俺は、微かにうなずく。

 生きたいに決まっている。今まで負けたことのない俺が、長男の思惑に気付けず、やられっぱなしで、このまま終わりなんてくやしすぎる。生きて復讐したいに決まってるだお。

 だが何も言えず、そのまま意識が暗転した。


 意識が戻ったとき、いったい何が起きたのかわからなかった。

「目を覚ましたか?」

 緋色の髪の精悍な女性が声をかけてきた。

「――お前は、死にかけていて、私が救った。大金をかけてね。だからお前は、助けた礼とお前に施したバイオマシンのサイバネティックスの金、ついでにブレインも最新のに入れ替えたその金を支払い終えるまで、私にこき使われるんだ。わかったな」

 ――本当に、何が起こったのかわからなかった。


 しばらくして、事態を理解した。

 俺は確かに死にかけていて、あちこち欠損までしていた。それら全てを最新の有機機械化手術により救ってもらったのだった。

 ブレインが最新になったのは、今まで入っていたのじゃ処理能力が遅すぎて動けないそうだ。


 セントラルに戻って長男に復讐する…………前に、借金を払わなければならない。

 ウェスタンス家を乗っ取って財産の一部を処分すれば払える金額だが、そう言っても彼女に鼻で笑われるだけだった。だよな。空手形にもほどがある。


 そうして、俺はこの母娘の付き人のようなものになった。主な役割は、子守。

 彼女の娘は身体の大部分がサイボーグ化しているという。

 だからなのか、幼児なんて喚くか泣くかしかしない生き物だと思っていた俺には、彼女の娘クロウがあまりにもおとなしくて、まるで人形のように見えた。

 正直、バイオロイドだって言われたって納得するってなくらいに感情を出さない。


 内心の俺の考えを見通した母親――レベッカが、苦笑した。

「検査結果、異常なしなんだけどね。特殊なナノマシンを入れているせいなのか、おとなしくなっちまってる。アンタがこの子をもうちょい人間味あふれる子にしてくれたら、借金をなしにしてあげるよ」

「よし乗った!」


 つーわけで、俺はクロウの兄貴分となり、世話をして甘やかして子守した。

 勉強に関しても教えようとしたけど、これはレベッカが教えた。……俺も教わった。

 今まで伸びきっていた鼻っ柱を根元から折られた、くらいにレベッカはあらゆる意味ですごかった。

 ブレインのVRで、猛勉強させられながら無意識下で戦場で戦わせる、なんて普通にあったからな。

 そんなんやらせるからクロウの情緒が出なくなるんだろうが! って思ったほどの命懸けのスパルタ教育。

 おかげさまで、俺は傭兵として一流には及ばずとも二流くらいにはたたき上げられた。


 レベッカはときどき少年少女を拾ってきた。

 そいつらもどこか欠損していて、レベッカが金を払って有機機械化して、その借金でクロウの相手をさせられていた。そいつらの子守も俺がすることになった。

 たぶんレベッカはクロウに友達を作らせたかったんじゃないかと思う。だけど、少年少女たちは俺を見習った。つまり、『クロウを守る』という使命を持ってしまっていた。

 俺も過保護だと思うが、連中も大概だった。


 姫のような扱いを受けているクロウだったが、それに甘えることも自惚れることもなく淡々と接する。その人形のような硬質な雰囲気が不安で、みんな姫扱いをするんだけどな……。

 いつか感情をなくした機械になってしまいそうで、あるいはそのまま人形になってしまいそうで。クロウに感情を持ってほしくていろいろ構ってしまう俺たちに、レベッカは苦笑していた。


          *


 それから数年経ち、俺たちは何度も危ない目に遭いながらも無事生き延びた。

 ちっこかったクロウは、どうにか少女ほどに成長した。

 同じくちっこかった子どもたちは、俺に並ぶほどに成長した。

 俺は確実に大人といえる年齢になった。


 ――俺は、充実していた。

 伝説と呼ばれるほどの超一流の女傭兵の率いる傭兵部隊に入隊し鍛え上げられた俺は、ここに来るまでのガキだった自分とは比べものにならない実力を手に入れ、副隊長にのし上がった。

 子供たちも何度か死にそうな目に遭っていたがなんとか生き残り、それぞれが部隊の中でもトップランクの腕前になっていた。

 俺たちは無敵だった。どんな強力なアンノウンさえも倒せるし、紛争も俺たちが乗り込めば簡単に押さえ込める。

 もしも現状に退屈したなら、皆を誘ってセントラルに乗り込んで暴れて、金をさらってまたエリアに戻ってきて退屈を吹き飛ばすような戦場を探せばいい、そんなふうに思っていた。


 それが、俺が此処に来ることになった【慢心という油断】だと、後になって気付く。

 ……いや、あの頃はみんなそんな感じに浮かれていたんだ。

 俺たちが一番強く輝いていた時期だった。

 そして、そんなのはこのエリアじゃ簡単に消え失せるってのがわかってなかったんだ。

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