リバーは、別のチームに移すのが無理なのも、同じチームに入れる理由があることも、頭では理解している。
だが、感情が納得していなかった。
幼少期に拾われてから約十年。家族であり仲間であるこの【ナンバー99】に、よりにもよって兄貴分であるアッシュの命を狙う暗殺者を迎え入れるなど、耐えられなかった。
ジェシカとキースにはそこまで思い入れがないのかもしれない。だがアッシュは、そしてクロウは、なぜ平気なのか。……クロウは、まぁ、いろいろと特殊だからそこまで思い詰めないのかもしれないが、アッシュは誰よりも【ナンバー99】を大切にしていたと思っていたのに。
小隊訓練の時間になった。
今日、初めてシャム・シェパードと会話し、ともに行動する。
リバーの機嫌は最悪で、キースはリバーにバレないようにさせることをそうそうに諦め、ジェシカはリバーを何度も叱った。
「まだ何もかもハッキリわからないのに、短絡的に物事を進める気!?」
「なら、こっちから仕掛けて出方を見りゃ解決するだろうが!」
「だから、それが短絡的だっての! クロウが探るまで待ちなさいよ!」
言いくるめられ、リバーが舌打ちを何度もする。
ジェシカがリバーを叱りなだめるのに疲れていると、とうとうシャム・シェパードが小隊室に入ってきた。
ジェシカは、あのおどおどした態度が演技ならそうとうだな、と感心した。
ジェシカの目からはどう見ても、『気弱な男子生徒』以外の何物でもない。
シャム・シェパードを見たリバーが殺気を出し始めたので、ジェシカは慌ててリバーをひっぱたいた。
シャム・シェパードが本物の暗殺者なら、リバーの出す殺気に気付いてアッシュの仲間だとバレてしまう。
クロウがいつになく慎重なので、ジェシカも正体が知れないようにと慎重になっていた。
「リバー!」
小声で叱り、さらには専用回線で説教した。
『私だってアンタの気持ちはわかるわよ! この小隊に入れたくないのは一緒! でも、クロウがいつになく慎重になっているってことは、アンタの短慮で下手をすると此処を追われる可能性があるってコトなのよ! 私たちは、レベッカの遺志どおりにクロウを守るって決めたんでしょ!?』
それでリバーも気を落ち着けたようだ。
「…………わかってるよ」
リバーの声を拾ったのか、シャム・シェパードはポカンとしてリバーを見ている。
ジェシカは再度、演技だったらホントにすごいなと思った。ハッキリ言って、全身隙間なく『ちょっと抜けてるおどおど君』だ。
……と、クロウが動いた。
シャム・シェパードの前に立ち、挨拶と握手をしている。
ジェシカ、キース、リバーが一瞬だけ視線を交わした。アッシュは誰とも視線を合わさず、ニコニコと愛想良く二人を見ている。
握手を終えたクロウは、こう言った。
「なかなかの手練れと見た」
――つまり彼は、洗脳された捨て駒ではなく、手練れの暗殺者ということだった。
これに大きく反応したのはアッシュではなくリバーだった。
今此処で始末しようとする勢いだ。
だが、さすがにそれはまずいとわかっているので、追い出そうとし始めた。
ジェシカが専用回線で叱っても止まらず身バレ確実の暴言を吐きそうになるので、ジェシカがクロウに救いを求める。
『クロウ……』
『ジェシカ、私が変わろう』
その言葉を聞いたリバーがビクッとする。
『……べ、……っつに、本気で殺ろうとはしてないぜ? ただ……やっぱ入れたくねぇんだよ』
クロウはリバーの目の前に立つ。
『現時点での私の意見は「様子見」だ。理由は追って話す。だから、今のところは彼の態度に合わせてこちらも普通の生徒として対応してほしい』
クロウがじっと見つめながら専用回線で話すと、リバーが叫んだ。
「わーった。わーったから! 態度を改めっから!」
「どうしても無理ならば、それなりの対策を考えてあるが」
その続きを専用回線で伝えた。
『リバーのブレインを制御し、私がリバーを操作しよう。そうすればリバーの意思と態度は切り離され、万事うまくいく』
「わーったから! マジで! 気をつけっから!」
クロウがとんでもないことを言いだしたのでリバーが顔を青くして必死で叫ぶ。
ジェシカとキースとアッシュは笑いをこらえるのが大変だった。