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第49話 一般人になりきれない

 合同訓練を終え、後日、クロウが伝えた。

「シャム・シェパードのブレイン潜入は、ひと言で言うと、失敗した。彼のブレインに防壁が張り巡らされていた」

 アッシュは軽く目を見開き、他三人も驚いた。

「え、嘘。ガチでプロじゃない。あのオドオド君、演技なの?」

 ジェシカが言うと、キースとリバーもつぶやいた。

「……素人にしか見えねーんだけどよ? 暗殺者ってコト忘れて途中からフツーに相手しちまったぜ」

「同感だ。……洗脳の痕跡を探らせないためとかじゃないのか?」

 アッシュは意見を言わず、考え込む。

 その間にクロウが語った。

「その可能性はある。だが、防壁はそれなりに技術もいるしブレインの性能も質の良いものが求められる。捨て駒にする気ならば金をかけすぎなので、恐らく自分で構築した物と判断する」

 アッシュが顔を上げてクロウの意見に賛同した。

「……クロウの推論どおりだと俺も思う。シャム・シェパードはそうとう手練れの暗殺者で、人格すら完全に変えられるんだろうな。……正直なところ、俺はちょいちょいボロを出しているって思ってるよ」

「「「え!?」」」

 三人が驚いた。

 クロウがアッシュの言葉を引き継いだ。

「彼は、対人に特化しているのだ。アンノウンに対しての、彼の狙った箇所は人体の急所が多い。あるいは戦闘不能に陥らせる箇所だな。私たちアンノウン特化の傭兵とは攻撃箇所が全く違っていた。一緒に戦っているとわかりにくかっただろうが、私とアッシュは俯瞰で監視していたから、よく見えた」

「……そこまでわかってるのに、なんですぐ始末しねーんだよ?」

 リバーがクロウに訴えると、クロウがアッシュを見た。

「今までの暗殺者と違うから、パターン解析をしたいって思ってね。悪いけど、しばらく付き合ってよ。……必ず始末するから」

 アッシュがそう言うと、三人が諦めたようにため息をついた。この時点でクロウが時間をかけた理由とアッシュの思惑がわかったのだ。

 アッシュはどうやらこの状況を楽しんでいる、クロウはそれに乗っかって引きのばし作戦を行っている、と。


 諦めた三人はシャム・シェパードと一緒にすごした。もちろん、全員がシャム・シェパードを観察し、どういう動きをするか、いつ暗殺を仕掛けてくるかを探っていた。だが――リバーは、密かに五人で集まったときに洩らした。

「……アレ、ホントに演技なのかよ?」

 キースがリバーを見ると、肩をすくめる。

「確かに手練れだな。演技に呑まれそうだ」

 そんな二人をジェシカは冷めた目で見て、アッシュに進言した。

「二人があの子に情が移る前に、始末したほうがいいんじゃない?」

 アッシュが悩む。

「うーん……。正直、今のままだと手を出しづらいんだよ。リバーやキースの反応通り、普通の生徒すぎて、害がないのに殺したとなると厄介すぎる。捏造するにもなぁ……俺たち別に暗殺部隊じゃないし、その手の訓練はあんまり受けてないからね。あと、セントラルだと気軽に殺せない。セントラルの暗殺者でも死体処理は厄介だっていうのに、特にこんな職業じゃね」

 そう言ってアッシュは肩をすくめた。


 ジェシカはアッシュの態度に不安を感じた。

 傭兵の頃とは明らかに違うからだ。

 あの頃のアッシュなら、すでに殺していただろう。なのに……。

 ジェシカの不安を感じたクロウは、ジェシカの手をポンポンと叩いた。

「そう不安がるな。アッシュは遊んでいるのだ」

「「「はぁ?」」」

 ジェシカだけでなくキースとリバーも声をあげた。アッシュは片眉をあげる。

「遊びに命はかけないよ」

「命がけ程度でもないから遊んでいるのだろう? どんな手で襲ってくるかを測っているじゃないか」

 アッシュの言葉にクロウは即反論し、アッシュは眉根を寄せた。

「……それを遊んでいるというのなら、そうだけど。ただ、俺としてはそれを『遊んでいる』とは言わないんだよね。お前らに『俺たちはもう傭兵じゃないしここはセントラルの平和な学園なんだ』って理解してほしいと思っているだけだよ」

 それを言うと、四人はぐっと詰まった。


 アッシュは四人を見渡し、最終的にジェシカを見据えて言った。

「ここはセントラルで、俺たちは傭兵じゃない。俺は学園の教師で、簡単に人は殺さないし殺せない。たとえ相手が暗殺者であってもだ。お前たちを守ることは第一優先だけど、簡単に殺すことで解決してきたエリアの頃とは違うと理解してくれよ?」

 四人はしぶしぶうなずく。

 ジェシカは何か言いたげにしたが、最終的にうなずいた。

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