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『忍んで潜って潰します。〜土地神にスカウトされた私、情報と毒でダンジョン攻略中〜』
『忍んで潜って潰します。〜土地神にスカウトされた私、情報と毒でダンジョン攻略中〜』
牧野りせ
現代ファンタジー現代ダンジョン
2025年07月10日
公開日
1.3万字
連載中
2025年7月5日ネットでは大災害が起きるとか自身による津波で日本が沈むとかオカルト的なうわさ話が飛び交い、しまいにはテレビのニュースでも報道がなされていた。そんな情報たちを横目に一斉に死ねるならまだよくね?一人生き残るとか詰みでしょ。なんて思っていた土曜の午後。事件は起こった。なんと国会議事堂と財務省庁がダンジョンと化したのだ。当初肉眼ではそれが何かわからなかったもののテレビカメラ越しに映るダンジョンSSS級未踏破の文字に心躍ったのは世のオタクたちだけではないだろう。自分には関係ないと思っていた野元陽葵25歳独身ちょいオタ陰キャと自負していたのに自称土地神様にスカウトされて忍者としてダンジョン攻略に駆り出される羽目になりました!そんなの知らねぇ~家に帰してぇ~!!

第1話 オカルトの噂じゃ終わらない

2025年7月5日。

その日、日本列島には朝から不穏な空気が流れていた。


異変は静かに、しかし確実に広がっていた。


起点は“情報”だった。

SNS、動画配信、匿名掲示板、ニュースアプリ──人々が日常的に触れるあらゆる場所に、「今日、何かが起きる」という言葉が散りばめられていた。


「7月5日、日本沈没」

「本日、大規模地震が発生予定」

「とある霊能者の予言、最後の日が今日だってさ」

「南海トラフと富士山噴火が連動するらしい」


信じる者は少なかった。だが、無視できるほどの小さな火種でもなかった。


ネットの海は“噂”と“笑い”と“恐怖”が入り混じり、誰もが一度は目にする程度には拡散していた。


興味本位で検索し、読み飛ばし、忘れていく人もいれば、真に受けて備蓄を始める者もいた。

一方で、そんな騒ぎを傍観しながら──ある者はこう呟いた。


「みんなで一斉に死ねるなら、まだいいよな。一人だけ生き残るとか、詰みすぎでしょ」


この国の人々は、時に過剰なまでに冷静で、時に驚くほど軽やかに絶望を口にする。

そんな国民性が、この“現実と虚構の境目が崩れる日”を、より一層奇妙なものにしていった。


事件が起こったのは、土曜の午後。

ほんの少し、気温が下がりかけたタイミングだった。


最初の異変は、テレビの速報だった。


ニュース番組が突然の特報を告げた。

画面には、国会議事堂と財務省庁が交互に映し出されていた。


建物そのものは、確かに見慣れた姿のままだった。

しかし、その空間は、どこかおかしかった。


黒い靄が立ちこめ、屋根の上には淡く揺れる異様な影。

そしてなにより、画面の片隅に、くっきりとした文字列が浮かんでいた。


「ダンジョン:難易度SSS級 未踏破」


現実のニュース映像にしては、あまりに唐突で、あまりに作り込まれた“表記”だった。

人々は目を疑い、スタジオのキャスターも口を濁した。


「これは……何かの悪戯でしょうか?テロップの不具合……?」


だが、直後に現場リポーターとの中継が繋がり、状況は一変する。


「こちらのスタッフによれば、この表示は、肉眼では確認できません。

しかし、カメラ越しの映像には、確かにこの“ダンジョン”の表記が映るとのことです」


スタジオが、静まり返った。


観ている者たちも、息を呑んだ。

つまりこの異常は、物理的な現象ではなく、何か“視えない力”による干渉だというのか。


──それが「ダンジョン」だと?


もはや、冗談では済まされなかった。


各局が緊急報道体制へと移行し、専門家や自衛隊OB、宗教家まで呼ばれて討論が始まった。

しかし、誰一人として明確な答えを出すことはできなかった。


やがて、政府が非常事態を宣言し、自衛隊が現場に展開する。

建物の周囲には戦車、ドローン、無人偵察機が配備され、現代兵器による対応が開始された。


だが──


何も、通じなかった。


ドローンが空中から接近しようとすると、突如として映像が乱れ、次のフレームでは機体が“消えて”いた。

建物に踏み入った特殊部隊は、通信を残す間もなく沈黙。

中にいた国会議員、官僚、職員たちの安否は、今もなお不明である。


外観に変化はない。ただし、内部は完全に隔絶された空間。

誰も、何も、戻ってこなかった。


これを「ダンジョン」と呼ばずして、なんと呼べばよいのか。


ネットは、すぐさま反応した。

正気と狂気、現実とネタが入り混じる空間──それが現代の情報網である。


「国会、ガチで異世界化」

「SSS級ってどこのなろうだよ」

「ついにラノベのターンきたか」

「これもうハンター待つしかないやつやん」


書き込みは冗談半分、期待半分。

動画投稿サイトには、現場周辺の映像や考察動画、VTuberの反応切り抜きが大量にアップされ、視聴回数は爆発的に伸びた。


街頭では、テレビに映る「ダンジョン:SSS級未踏破」の文字に目を奪われる通行人が立ち止まり、スマホをかざして撮影を始める。


専門家は口をそろえて言った。

「これは、これまでの常識では説明できない」


その言葉が、本当に意味するもの──


それは、この世界が“変わってしまった”という現実である。


もはや、この現象をただのバグや妄言として笑い飛ばす者はいなかった。

人々は知った。これは夢ではなく、終わりでもない。

始まりだ、と。


やがて、最初の「都市ダンジョン」は東京だけではなく、各地へと拡がっていくことになる。

鹿児島、札幌、大阪、名古屋──そして世界中で。

だが、それはまた別の話である。


この日を境に、人類の歴史は、未知との“攻略戦”に突入することになる。

鍵を握るのは、誰か。

選ばれるのは、どこにでもいる、ただの一人の市民かもしれない。


まだ、誰も知らない。

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