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第12話 朝のひと時

 空が明るくなり目が覚めると、ソフィアは隣でスヤスヤと寝息を立てながら眠っていた。


 良かった…………昨日は展開が急過ぎて状況が呑み込めていない様子だったから大人しく寝てくれたけど……実は夜中にいなくなってしまうのでは、と度々目覚めては隣にいるかを確認してしまったのよね。

 そんな心配もなくスヤスヤ寝ていたので最後は寝落ちてしまったのだけど。


 まだぐっすり寝ているようだから、起こさないように着替えましょう。そう思ってベッドから下りようとすると、腕をガッシリ摑まれる…………そっとソフィアの方を向くと、どうやら少し寝ぼけているようだが離さないとばかりにしがみついているようだ。左腕は痛いはずなのに必死に私の腕を掴んでいる姿が、胸を締め付ける。

 頭を優しく撫でてあげると、ソフィアはパッと顔をあげた。



 「おはよう、ソフィア。」



 まずは朝の挨拶をしてみる。すると小さなか細い声で「は……よ…………ざい……ま…………」と聞こえた。


 声は出せるのね。昨日は一言も発しなかったので、もしかしたら声が出せないのではって心配していた。言葉が理解出来ないわけではないようだし、声も出せる。

 瘦せ細ってしまっているから、声を出す力が低下しているのかしら…………まずは腹ごしらえしなきゃだわ。



 「昨夜はよく寝ていたわね。着替えたらご飯を一緒に食べましょう」



 そう言うとソフィアの顔が輝いた。昨日は睡眠よりもまずは食事をさせてあげるべきだったかしら。たっぷり食べさせてあげなきゃ。



 ――――コンコン――――



 ノック音が聞こえた後「失礼します」とマリーが入ってきて、私の着替えとソフィアの着替えを持ってきてくれた。流石マリー、きっと昨夜のうちにソフィアの分も用意してくれたに違いない。

 私はマリーに手伝ってもらって自分の着替えを済ませ、いざソフィアの着替えを手伝おうと思ったらマリーがササッと着替えさせてくれたのだった。



 「お嬢様のお着替えで慣れていますからね!」



 得意げに鼻息を荒くしてそう言うと、ソフィアのミルキーベージュ色の肩まで伸びている髪の毛を綺麗にとかす。もはやプロだわ!あんなにボサボサ感満載だった髪の毛が、一瞬で整っていく。マナーハウスに着いたら髪の毛も切って整えてあげよう。


 ひざ下10cm丈のショートドレスを着て、髪を整えたソフィアは本当に可愛らしくて…………昨日は気付かなかったけど、とっても美人さん!あとはしっかり栄養を取って肉付き良くしないと。



 支度を済ませた私たちは一階の食堂に下りて、食事を取る事にした。


 ソフィアはテーブルに並ぶ沢山の食事を見て、茫然としていた…………無理もないわ。こんなに沢山の食事は見た事もないでしょうし。手を出したら怒られたりしたのかしら……もじもじして食べようとする気配がない。もしかしたら食べ方が分からないのかも。



 「一緒に食べましょう。まずはこのフィンガーボールで手を洗って……」



 これからは食事をする為のマナーなども教えてあげないといけないわね。でも教えた通りに純粋に取り組むソフィアは、とっても賢いし頑張り屋さんだわ。



 「今まであまり食べていないのに突然大量に食べるのはお腹に良くないから、ゆっくり食べましょうね」



 左腕は使えないし、私が手伝いながら時間をかけてゆっくり食べさせるてあげると、やはりあまり量が食べられなかったようで残念そうな表情のソフィアを励ます。


 「これから、まだまだ沢山食べられるわ。徐々に食べられる量も増えていくから大丈夫よ。そうだ、オヤツにこのパンを包んで持って行きましょう。」子供にはすぐにエネルギーになるオヤツも必要よね。



 「マリー、お願い出来る?」


 「もちろんです!」とマリーがせっせと包んでくれたのを見ながら「後で馬車で一緒に食べましょう」とソフィアにウィンクすると、満面の笑みがこぼれる。

 あぁ…………天使っているのね……



 そんな事を考えながら、宿屋に別れを告げ、ソフィアと手を繋ぎ馬車へと乗り込む。


 乗り方が分からないソフィアは馬車の入口で戸惑っていたのだけど、ゼフがひょいと軽々とお姫様抱っこして乗せてくれた。


 ソフィアはちょっぴり赤くなっていて…………可愛い……ゼフは相変わらず無表情だけど。男手があって良かったわ。ソフィアが私から離れたがらないので行きは私とソフィアが隣同士で、向かいにゼフとマリーが座る形となる。



 そしてゆっくりと馬車は公爵領へと走り始めた――――




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