…………何が迷える子羊を見捨てたりしません、よ……散々見捨ててきたじゃないって乗り込みそうになってしまう。
いけないわ……落ち着こう。ソフィアがヤコブ司祭と共に扉の中に消えていく…………扉が閉じそうになると同時に私とロバートはすぐに教会の影から出てきて、教会の扉を叩いた。
――ドンドン――
するとさっき中に入ったばかりのヤコブ司祭が顔を覗かせる。さぁ、オリビア、対峙の時よ――――
「突然失礼いたしますわ。私はクラレンス公爵家のオリビア・クラレンスと申します。司祭様とお会いするのは初めてですわね。」
「あ……あなた様がクラレンス公爵家の……お初にお目にかかります、私は聖ジェノヴァ教会の司祭でヤコブと申します。以後お見知りおきを…………」
そんなのとっくに知っているわ。随分恭しい挨拶ね…………とにかくこのヤコブ司祭をここからマナーハウスに連れて行かなければ。
「ご挨拶が遅くなってしまって、こちらこそ申し訳ない気持ちですわ。折り入ってヤコブ司祭にお聞きしたい事がありますの。お父様からの重要なお話になりますから、一度マナーハウスの方に来ていただけません?ここではちょっと……」
「はぁ…………しかし私には本日やらねばならない務めがありまして……いつお伺い出来るか」
「そう……残念だわ。ヤコブ司祭にとっては有意義なお話になると、お父様からは聞いておりますの。明日になるとそれもどうなるか……急いで伝えてくれと言われてきましたので」
そう言ってチラリと司祭と見ると、やはり”公爵家からの有意義な話”というのが魅力的だったようで、尻尾を振ってついて行くと言い始めた。ヴィルの言う通り、本当に権力に弱い人間なのね…………なんてあっさり乗っかってくれるのかしら。
司祭はすぐに行くと言って身支度をしたら、教会から勇んで飛び出して来た。
「さぁ準備は出来ました。マナーハウスに行って公爵のお話を伺いましょう」
「今日のお勤めはよろしかったのですか?」
「あぁ、そのような事は私の勘違いだったようですな。今日はたっぷりお時間を取れそうです……」
「そう……お時間がたっぷりおありになるのね、それは楽しみだわ」
そう言って私は司祭にニッコリ笑った。ヤコブ司祭も何を考えているのか、ニタニタ笑っている。きっと儲け話だと思って笑っているのね…………そんな訳ないのに。
ロバートは司祭の隣を歩きながら、マナーハウスまで案内してくれた。私は二人の少し後ろを歩いて行く。3人ともマナーハウスに着いて、ロバートは司祭を応接間に連れて行きながら「必要な書類を用意致しますので、こちらでお待ちください」とソファへ誘う。
私は二人のやり取りを応接間の外から見届け、ロバートに目配せをしてマナーハウスを後にした。
そう、ヤコブ司祭はマナーハウスから教会に帰る事は出来ない。軟禁状態に近い形になるけど、ロバートがうまくやってくれるでしょう。マナーハウスには領民も潜んでいる事ですし…………どういった話し合いになるかが楽しみね。
ロバートには予めお父様の委任状と私の同意書を渡してある。司祭に何か言われれば、私の同意の元だと言えるように……
その間に子供たちの方を解決しなくては――――
~・~・~・~
「ヴィル、ヤコブ司祭をマナーハウスに連れて行く事が出来たわ」
「そうか……お疲れ様。大変だっただろう?」
「……全然。あまりに簡単にうまい話に飛びつくからびっくりしちゃったわ…………こちらはまだ動きはないようね……」
教会の裏側にある窓を覗き見ると、捕まっている子供たちとソフィアの姿が見える…………うまく入り込めたのね。特に何かされている感じもないし、良かった…………ソフィアは私を見つけて手を振っている。
こんな時なのになかなかの大物っぷりね……私も控えめに手を振り返した。隣にいる男の子が私に気付いて、ソフィアに何か話しかけているわ。
同じ年ごろの子供たちとも交流出来るようになったのね。そんな成長を感じている場合じゃないんだけど、成長を感じずにはいられない。
そんな事を考えていると、ソフィアや子供たちが目隠しをされ、手を縛られ始めた。これは……
「……そろそろだな」
「……そうね……」
いよいよ動きがありそうね。緊張するけど、しっかりやらなければ。
「君はマナーハウスの方に帰っていてくれ。ここからは危険だ……」
「……ダメよ、その指示は聞けないわ。ソフィアだって頑張っているんだもの、絶対に見届けなければ……あなたの邪魔にならないようにするから…………」
「………………邪魔などではないよ。心配なだけで…………分かった、君の事は私が守るから。危ないから私より前には出ないでほしい、いいね」
私はヴィルの目を見ながら頷いた。それと同時に中では子供たちも連行されていく…………教会裏の荷馬車の近くには大きなコンテナが積まれていて……そのコンテナに入れて連れて行く気?
なんて用意周到なんだろう…………ヴィルはひと言「いってくる」と言うとコンテナに子供を入れようとした人物たちに向かっていった。