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第56話 お父様への報告


 昨日は精神的にも疲れたのか、目が覚めると、いつも朝食を食べる時間はとっくに過ぎていた。



 特に用事があるわけではないし、ゆっくり起きよう…………領地から帰ってきてからもソフィアとは同じ部屋で寝ている。まだ公爵邸に慣れていないだろうし、自分から一人で寝ると宣言してくるまでは一緒に寝てあげたい。


 さすがにその日はソフィアは先に起きていて、本を読みながら私が起きるのを待っていてくれた。



 「……おはよう、ソフィア」


 「おはようございます、オリビア様」


 「遅くなってごめんね、お腹空いたでしょう?今着替えるから一緒に朝食をとりましょう」


 「うん」



 私はおもむろに起き上がり、マリーに身支度を手伝ってもらう。



 「今日は特に予定はないわよね?」


 「はい!あ、でも先ほど旦那様から、朝食を食べ終えたら執務室に来てほしいとお呼びが…………」


 「………………昨日の事ね、きっと……」


 「そう、かと思います……」



 お父様は反対していらっしゃったのに無理矢理参加したから、心配しているわよね。その時のお話もしておかなきゃいけないし、早く朝食を済ませてしまいましょう。



 「分かったわ、朝食をとったら向かいますと伝えておいてちょうだい」


 「承知致しました!」



 何を言われるかしら……ちょっと緊張するわね。私はソフィアと朝食を済ませた後、直ぐに一人で執務室に向かった。




 ~・~・~・~



 ――――コンコン――――



 「失礼します……」



 私は恐る恐るそっと扉を開けて、中を伺った。お父様は正面の机に座ってお仕事をなさっている……今日は王宮へは行かなかったのね。そして私が扉を開けた事に気付いて、優しい笑顔を向けてくれたのでホッとした。



 「ああ、オリビア。おはよう。よく来たね……さぁこちらに座って」


 「はい」



 お父様に促されるままソファに腰をかけ、お父様は私の隣に座った。珍しいわ、隣に座るなんて…………美しいお顔が近くにあるから眼福だけど。



 「……昨日は王妃殿下のお茶会に出席したようだね。何か体調が悪いとか、変化はないかい?」



 そっか…………王妃殿下が私のお茶に何かしていないかが心配だったのね……参加したら飲まなきゃいけないわけだし、凄く心配するわよね。私はてっきり無理矢理参加した事を責められるのかと思って、びくびくしていた。



 お父様の愛は深いわ。ありがたい事ね――



 「大丈夫です、お父様。私は出席しましたが、そのお茶に口はつけましたけど、飲み込んではいません」


 「え?」


 「ふふっ飲んだフリをしたのですわ。それにあまり長居していないので、王妃殿下も私が飲み込んでいない事には気付いていないと思います」



 お父様があまりに目を丸くするので、思わず笑ってしまう。



 「あ、そ、そうなんだね。それは良かった…………まさか飲んでいないとは思わなくて……」



 そうよね、さすがに王妃殿下からのお茶会に出席して、飲み物に手をつけないというのは想像つかないわよね。



 「心配をかけてごめんなさい、お父様……どうしても領地から帰ってからの王妃殿下の態度を見てみたくて」


 「……頑張ったね。かなり危ない橋だったけど……収穫はあったかい?」


 「…………相変わらずの毒親っぷりでしたわ」


 「毒親?」


 「あ、ダメな親って事ですわ!」



 しまった…………時々転生前の言葉が出て来てしまう。毒親なんて言っても伝わらないわよね。



 「…………相変わらずだったんだね……議会では王太子殿下とやり合ってるくらいだから、余計に出てしまうだろうね」


 「教会の事をまだ刑は決まってないから、決めつけた事を言うなと牽制されましたわ……やはり相当心酔していらっしゃるのですね」


 「王太子殿下の弟君が生まれてから、余計に教会に傾倒するようになったね……元々王太子殿下との仲は冷え切っていたものの……弟君を王位継承権一位にしたいのだろう。ますます殿下を疎まれるようになった。その婚約者であるオリビアの事も……ひいては我が公爵家も目の敵にしている。十分に気を付けるんだよ…………」



 「弟君と王太子殿下は仲が良いと聞いています。弟君はまだお小さいですし、親の都合で振り回されるなんて気の毒ですわ……」



 王家に生まれたからには子は政治に利用されてしまうというのはよく聞く話だけど、実際に目の当たりにすると胸が痛むわ……



 「そうだね。まだ小さいから尚更王妃殿下の影響力が大きくなってしまう。貴族派で弟君を担ぎ上げようとする動きもあるから、今回の公爵領での事件を殿下が解決したのは大きかったよ。良い牽制になったな~」


 「…………お父様も大変なお立場ですのね……勝手な事をしてしまって、ごめんなさい」


 「いいんだよ、オリビアが無事ならいいんだ。君には自由に生きてもらいたいから、自分の信じる道を生きてほしい。きっとジョセフィーヌもそう願っているよ」


 「お母様……」



 私はお会いした事はないけれど、親というものの有難みは痛いほど感じている――


 私に何かあればお父様も公爵家の皆も悲しむものね。前世では自分を疎かにしてしまったから、今は自分を大切にしよう……お父様に頭のトップをなでなでされて、子供のように扱われるのはちょっと恥ずかしいけど、心の中はじんわり温かくなって癒されたわ――




 そして翌日、執事のエリオットが一通のお手紙を私に持ってくる。



 それは王妃殿下のお茶会でご一緒した、イザベル・アングレア伯爵令嬢からだった。




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