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数学者レオニダス・ホイターに転生した大学生、彼の功績を再現しなければ人類史が変わるので必死に再発見します
数学者レオニダス・ホイターに転生した大学生、彼の功績を再現しなければ人類史が変わるので必死に再発見します
紫 和春
異世界ファンタジー内政・領地経営
2025年07月11日
公開日
3.2万字
連載中
平凡な大学生の雨宮根治は、ふとしたことで過去の世界に転生してしまう。しかも転生した人物は有名な数学者レオニダス・ホイターだった。彼の功績を再現しなければ人類史が変わってしまう。そのことを謎の声に宣告された雨宮は、仕方なく彼の功績を再発見しようと奔走する。果たして雨宮は彼の功績を再現できるのだろうか。

第1話 序章

 魔法と科学。それは相反しながらも表裏一体の存在である。魔法と科学は共に発展し、人々の生活になじんでいた。あらゆる製品に魔法と科学が使われ、人々の暮らしを便利に、そして楽にするために使われている。

 新しい国際秩序が誕生してから150年以上経ったある日。新世界歴152年5月25日のことだった。

 極東にある高天たかま国に住んでいる一人の大学生、雨宮根治あまみやこんじという男がいた。特にパッとしない性格だが、友人がいないわけではない。この日も授業を受けるために大学へ来ていた。

 彼は理系の一つである工学部に進学し、機械工学や魔法工学を学んでいるのだ。スマホで授業の時間割を確認する。この日は魔法工学の実習が2コマ、3時間ある。


「実習用の作業着はロッカーに入れてあったよな……」


 そんなことをぼんやりと考えながら、キャンパスへと入っていった。

 1限の授業である魔法電気基礎の授業を受け、実習の時間が迫る。

 作業着に着替えた雨宮は、機械工学棟の2階にある魔法工学実習室へと向かった。


「よう、雨宮。今日もどんよりとした表情だな」

「いつもこんな表情だろうよ」

「まぁな。冴えない表情がトレードマークだし」

「あのなぁ……」


 そんな話をしていると、実習を担当している教員がやってくる。


「はい、座ってー。今日は基礎的な魔法工学の実習を行います。実習の教科書の7ページを開いてください」


 そういって簡単な説明が始まる。


「先週も話をしましたが、今日は白紙に描いた魔法陣を鋼材へ彫る作業をします。皆さんの中には、今日の実習をすでに高校でやったり、個人的にやってみた人とかいるかもしれませんが、この授業は魔法工学実習基礎なので、この辺も丁寧にやっていくつもりです。ではグループになって実際に鋼材に魔法陣を彫りこんでみてください」


 そういって学生たちは、事前に組まれたグループを作って実習を始める。雨宮は村中と高足とグループだ。


「えっと? 起動用の魔法陣をここに彫るんだよな。これは高足担当だったな」

「うん。それじゃあ彫ってくよ」


 そういって鋼材と下書きの紙の間にカーボン紙を挟み、シャーペンで鋼材に写していく。


「しかしよぉ、魔法陣解析基礎とかやってても何一つ理解出来ないんだよな」

「村中は俺と同じ普通科出身だったっけ?」

「そう。高校の時は、物理の授業で電気の計算とか魔法物理とか勉強したけど、これも初歩中の初歩なんだなぁって思い知らされるよ」


 高足が魔法陣を写している間、雨宮と村中は軽い雑談を交わす。


「今回は教科書丸写しの魔法陣だからいいけど、これが4年生になってくると自分で開発しないといけなくなると思うとゾッとするぜ……」

「いや、さすがにそこまでではないだろ……と思いたい……」


 少々先のことを考えていると、高足が魔法陣を写し終えたようだ。


「よし、次は村中の番だな」

「おうよ。湿度調整用の魔法陣を写して……」


 そういって高足がやっていたのと同じように、魔法陣を写す。

 それが終われば、今度は雨宮の番である。簡単にガリガリと、しかし丁寧に書き写していく。

 こうして三つの魔法陣が鋼材に書かれる。


「それで、この後はどうするんだっけ?」

「えーと、魔法陣に初期設定の魔力を送るんだな」


 書き写した魔法陣を消さないように、人差し指を起動用の魔法陣に触れさせる。そして魔法陣に魔力を流し込んだ。

 すると書き写した線に魔力が籠もり、一つの魔法陣として鋼材に彫り込まれた。


「おー。こんな感じなのか」

「これは簡単なやつだから、こんなもんで済んでいるのかもな」

「じゃあ次は村中の番だな」


 そういって三人はそれぞれ担当した魔法陣を鋼材に彫り込み、今日の課題を終了させる。


「はい、今日の課題が終わった人から帰ってもらって大丈夫です。提出する際に、鋼材に名前を書いたシールを貼るのを忘れないでください」


 教員がそのように注意する。1時間程度で終わった雨宮たちは完成した鋼材を提出し、昼食を食べるために、一度着替えて食堂へと向かう。


「しかしよぉ、これからの授業とか考えるとちょいと憂鬱じゃねぇか?」


 村中はラーメンを啜りながらそんなことを言う。


「確かに。難しいことが多そうで怖いな」

「実習もかなりあるらしいし、覚悟はしないといけないよな」


 スマホで授業のシラバスを確認する雨宮。理系なので授業はぎっちぎちにある。


「あーあ、何かすんごい発明でもして、特許料で一生暮らしていきてぇなぁ……」

「んな夢物語、あり得ないだろうよ」


 雨宮はそんなことを言う。


(でも可能なら、そういう生活したいんだよな。それこそ、過去に戻って、今使われている生活の基盤となる発見をして、楽して食っていきたい……)


 そんな願望を心の内に秘めるのだった。

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