1710年8月18日。
「よし、完成したぞ……」
雨宮は微積分に関する基礎的体系、通称「ホイター積分」の論文を完成させた。
すでにヌルベーイとイリナにも査読をして貰っており、このままカラーニン科学学院とブリニッシュ王立科学協会に送る。
「うーん、なんとかここまで終わったぞ……」
しかし、仕事はまだ残っている。ホイターの出力方程式を定義化して論文にしたり、以前提出したホイターの和公式と円陣倍数定理に関する質問に答えるというものだ。
「さて、とりあえず出力方程式から順番に論文にしていくか……」
出力方程式は以前計算したように、対水比熱を元にエネルギーの出力を決定する。そのための実験道具がそろそろ届くはずだ。
「この頃バタバタしてたからすっかり忘れてたなぁ」
研究ノートをさかのぼり、計算していたページで内容を思い出していると、研究室の扉が開く。
「ホイター君、前に注文していた実験道具が一式揃ったよ」
「了解です」
そういって木箱に入った実験道具を受け取る。
想定していた物品が全て入っていた。
「よし、実験するか」
そういって雨宮は実験を開始する。
まず大きめのビーカーに水を入れ、それを魔法陣で沸騰するまで加熱する。
その間に、水、銅の容器と攪拌棒、分銅の質量を計測する。分銅には扱いやすいように、細い糸を取り付ける。
「銅の容器は97グラム、水の質量は109グラム、分銅は100グラムか……」
少し計算しずらいが、計算できないわけではないので、このまま進める。
湯煎用の水が沸騰してきたら、そこに分銅を投入する。数十分も加熱すれば、水の沸騰温度である100℃に達するだろう。
分銅を暖めている間に、銅の容器が収まる程度の小さな木箱を組み立て、そこに容器を入れる。そして容器と木箱の間にウールをありったけ詰め込む。これで温度が逃げにくくなるはずだ。
この状態で温度を測定する。30.9℃くらいだ。
これで準備は整った。
「実験を始めよう」
分銅を吊り上げ、水の入った容器に投入する。そして攪拌棒で軽くかき混ぜ、温度の変化を見守る。
温度はぐんぐん上がっていき、数分後には上昇が緩やかになる。そして熱が平衡状態に入った。この時の温度は35.9℃になった。
これを研究ノートに記載し、早速計算を行う。
「えーと……。109、Cw、97、C……。35.9引く30.9で5か。んで100引く35.9を100で掛けて……、割る」
一度分かりやすい式の形にする。割と面倒な分数になった。
「……これ、電卓欲しいな……」
しかしそんな便利な道具は存在しない。仕方なく暗算で計算する。すると、すんなりと計算結果が脳裏に思い浮かんだ。
「結構分かるじゃん」
こうして計算結果が出た。Cw=10.87Cである。つまり水の比熱は、銅の10.87倍ということである。
「よし。またしばらくしたら、実験をしよう。合計で5回くらいすれば、近似値も求まるだろう」
こうして数日に渡って実験を繰り返し、その結果が算出された。最終的にCw=10.872Cという数値に収束した。
「よぅし、これで論文の下書き書くぞー」
こうして雨宮は論文の執筆を始める。