俺は警戒心が人一倍強い。
それは物心ついた頃からそうだったのかもしれない。
内気な性格をしていた自分は、怒られるような遊びを避け、一人で大人しく本を読んでいるような子供だった。
年を重ねるにつれ、その警戒心は顕著になっていった。
変に学業や芸事に秀でていた俺は、衆目を集めることが多かった。それが嫉妬につながることも多く辟易した。
そんなこともあり、俺は世の中を生きる上で舐められていた方が相手が油断するので勝ちやすく生きやすい、と思うようになった。さらには透明人間になれれば人目を集めることもなく、もっと生きやすくなるのに。などと考えていた。
国立大学で博士号を取得後、順調に一流企業に就職した俺は、給料を種銭に投資で1億円以上稼いだ後、30代で会社をやめた。夢と理想のFIRE生活といえば聞こえはいいが、実態はたまにスマホの証券口座で株価をチェックするだけの完全なる独身引きこもりニート。唯一の趣味はMMOをひたすらに廃人プレーすること。
こんな俺が誰に姿を見せるわけでもないので、髪は伸びっぱなし。深夜MMOのやりすぎでカチコチになった体をシャワーを浴びてほぐし、ついでに散歩でもするかとマンションから出た俺は世闇に紛れて誰もいない夜道を歩く。
そんなことをしていれば透明人間になったみたいだと妄想を抱くのも無理からぬこと。
着ているダークブルーのコートはミッドナイトシャドウとでも名付けるか。これを着ていると、気配を完全に遮断できるという特殊効果つき。なんてな。
そんなことを考えながら歩いていると、急に目の前の景色が歪んだ。そして俺はその歪みに引き込まれた。
そして景色の歪みがなくなり辺りを見渡してみると、そこは先ほどまでの散歩道とは似ても似つかない、石造りの道や建物が乱雑に並んでいる街並みが広がっていたのだった。