宿屋に戻って眠り、翌朝。
もう一泊分の宿泊料金をタバコをふかしてチルタイム中のソバージュ女に支払い、昨晩適当に露店で買ったもので朝食を済ませた後、約束通りルベン議長の邸宅に向かうことにした。
ルベン議長の邸宅の門に近づくと、赤髪の女警備兵が立っていた。
「ルベン議長から来るように言われました」と伝えると「聞いております、どうぞお入りください!」と通してくれた。
ルチアお嬢様の番犬が門柱につながれながら、俺を見上げへっへっと下を出して撫でてほしそうにしていたので撫でてやると気持ちよさそうに喉を鳴らした。うむ、犬は実に良い。いつかこの世界でも庭付き一戸建ての家で犬を飼いたいものだ。
そのまま玄関で執事さんに取り次いでもらうと、応接室に通された。それにしてもデカい家だ。飾ってある調度品も家具も良さそうなものばかり。
しばらくソファーに座って待つと、ルベン議長とルチアお嬢様が入ってきたので立ち上がる。
「いや、待たせてすまない。改めて、私はこのオーエンの市議会議長をやっているルベンです。昨晩は娘を救っていただき、本当にありがとうございました。ルチア、命の恩人に御礼を言いなさい」
「昨晩はありがとうございました……」
そう言いいながらルチアお嬢様は淑女の礼。見た目はまだまだ幼ないものの、きちんと淑女教育が施されているようだった。
「いえ、とんでもないです。たまたま見かけてほっとけなかっただけですから。自分のことはハイドと及びください」
流石に名乗らないのは失礼にあたると思い、アルカナ・オンラインで使っていたキャラ名をステータス表示そのままに名乗ることにした。
「それではハイド殿、さっそく今回の御礼のお話ですが。私はこのルチアをハイド殿に嫁がせたいと考えております。あなたのような悪事を許さない正義感ある青年にこそ我が娘婿にふさわしい。もちろん全面的に経済的な支援もさせていただきますぞ! ゆくゆくは私の後継者になっていただければと!!!」
「……へっ?」
一瞬何を言われているのかわからずフリーズした。娘を嫁がせたい、と聞こえたのだが。俺はアラサーのオッサン。相手はどう頑張ったって中学生くらいにしか見えない少女だ。
「あなたのような方ならば、このオーエンを改革派の連中から守ってくれるはず、と私は確信したのでございます!!」
恍惚とした表情で右拳を握り締めるルベン議長の言葉が段々と熱を帯びる。
「お待ちください、ルベン議長!! それはいくらなんでも……。俺の年齢を考えれば流石におかしいのではないかと思いますが……」
「いやいや何を仰いますか!! ハイド殿だって十分お若く見えますぞ? 当方の見立てでは……、そうですな20代になるかならないか、そんなところでしょう? それに昨晩のこともあって娘もまんざらではないようですし! 是非ここはひとつ!! 何卒っ! 何卒っ!! こうしてあなた様を慕ってございますのでっ! 何卒~~~~!!!」
「ぽっ……」
口角泡を飛ばすルベン議長に、頬を染めうつむきモジモジするルチアお嬢様。
そんなバカな……。俺は立ち上がり調度品と一緒に並んでいた大きな鏡があったので全身を確認してみると、確かに大学生からサラリーマンになったばかりくらいの頃の自分の姿がそこにはあった。
神様……。
「とにかくダメです。御礼なら別のものでお願いします!」
「そうですか……、残念ですが仕方ありませんね……。今のところは……ね……」
ルベン議長はその後もしきりに残念そうにしていた。