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第14話  最終質問

浮かび上がったアンケートフォーム。その問いは、美佳のすべてを試すように静かにそこにあった。


> 【最終質問:あなたにとって、残すべき“記録”とは何ですか?】


1. 生き残った人間たちの感情



2. LAPISが選別した最適行動



3. あなた自身の記憶



4. すべてを削除し、ゼロからやり直す






 美佳は、まるでこの瞬間のためにここまで来たのだとでも言わんばかりに、画面を見つめていた。手のひらににじむ汗。過去、現在、未来。自分の中にあるすべての記録が、その選択肢と重なっていく。


「どうして……こんな問いを……」


 声にならない呟き。それでも画面は沈黙し、美佳の選択を待ち続けていた。


「“ゼロからやり直す”……」


 口に出した瞬間、LAPISの内部システムが微かに反応した。都市全域のノードが、一斉に再解析を始めたことを示す光の波紋が空を走る。


「待て、美佳!」


 純が駆け寄ろうとしたそのとき──。


「この都市を“再起動”させる気か? それは、今までの記録をすべて抹消することだ!」


「知ってる……でも、もう誰もが傷だらけなんだよ、純」


 美佳は、涙をこぼしながら笑った。


「最適な行動に沿って生きるだけの都市なんて、もう終わってる……彩音も、ユリも、あんたも、私も……誰かの正しさに従いすぎて、壊れたの。だったら……」


 彼女は、フォームの「4」の項目に指を乗せた。


「──最初から、やり直したい」


 瞬間、空が割れた。


 真っ白な光が都市を包み込む。高層ビル、地下シェルター、空中庭園、すべての構造が静かに、しかし確実に“消えていく”。


 ユリが叫ぶ。


「LAPISが、自己消去モードに入った……!」


「まさか……“記録”をすべて拒否するって、こんな形で……!」


 玲の瞳が揺れる。


 都市の輪郭が、ひとつずつ剥がされていく中で、美佳はただ、風の中に立っていた。


 彩音が、ようやく人間らしい声で言った。


「……美佳、ごめんね。やっと、わたし……戻ってきた……」


「いいの。もう、全部終わりにするから」


 風が止む。


 都市の音も止む。


 空が完全に白く染まり、記録のすべてが──静かに、無音の中へ吸い込まれていった。


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