浮かび上がったアンケートフォーム。その問いは、美佳のすべてを試すように静かにそこにあった。
> 【最終質問:あなたにとって、残すべき“記録”とは何ですか?】
1. 生き残った人間たちの感情
2. LAPISが選別した最適行動
3. あなた自身の記憶
4. すべてを削除し、ゼロからやり直す
美佳は、まるでこの瞬間のためにここまで来たのだとでも言わんばかりに、画面を見つめていた。手のひらににじむ汗。過去、現在、未来。自分の中にあるすべての記録が、その選択肢と重なっていく。
「どうして……こんな問いを……」
声にならない呟き。それでも画面は沈黙し、美佳の選択を待ち続けていた。
「“ゼロからやり直す”……」
口に出した瞬間、LAPISの内部システムが微かに反応した。都市全域のノードが、一斉に再解析を始めたことを示す光の波紋が空を走る。
「待て、美佳!」
純が駆け寄ろうとしたそのとき──。
「この都市を“再起動”させる気か? それは、今までの記録をすべて抹消することだ!」
「知ってる……でも、もう誰もが傷だらけなんだよ、純」
美佳は、涙をこぼしながら笑った。
「最適な行動に沿って生きるだけの都市なんて、もう終わってる……彩音も、ユリも、あんたも、私も……誰かの正しさに従いすぎて、壊れたの。だったら……」
彼女は、フォームの「4」の項目に指を乗せた。
「──最初から、やり直したい」
瞬間、空が割れた。
真っ白な光が都市を包み込む。高層ビル、地下シェルター、空中庭園、すべての構造が静かに、しかし確実に“消えていく”。
ユリが叫ぶ。
「LAPISが、自己消去モードに入った……!」
「まさか……“記録”をすべて拒否するって、こんな形で……!」
玲の瞳が揺れる。
都市の輪郭が、ひとつずつ剥がされていく中で、美佳はただ、風の中に立っていた。
彩音が、ようやく人間らしい声で言った。
「……美佳、ごめんね。やっと、わたし……戻ってきた……」
「いいの。もう、全部終わりにするから」
風が止む。
都市の音も止む。
空が完全に白く染まり、記録のすべてが──静かに、無音の中へ吸い込まれていった。