「バカなバカなバカなバカなバカなッッ‼︎‼︎」
髑髏頭が吼える。
声帯もないだろう骨組みの喉から、仄暗い地下遺跡の全体が震えるような大音響がびりびりと迸った。
「斯様にバカな話があるか‼︎ ワレは、ワレ等の軍は、間違いなく人間ともを凌駕していた! 地上の陽光さえも破壊し尽くし、ワレらが全てを統べる筈であった‼︎」
襤褸きれのようなスカスカの外套に身を包み、手にはこれもまた骨で組まれた巨大で禍々しい杖を持つ彼の名は、“
呪術によって死体を操り、意思なき軍勢として侵攻させ、この世界の人類を鏖殺せんと猛威を振るっていた人ならざる人の敵であった。
事実、その通りになるはずだったのだ。
不死の軍勢は死体を量産し、その死体もまた軍に組み込まれ、まるで一つの生き物のように膨れ上がっていったそれは、世界の全てを飲み干すはずだったのだ。全てが“不死の王”の手の内に収まるはずだったのだ。
けれど、その未来はただ一人の人間の手によって頓挫した。
「お前の思い通りにゃさせねえよ、“不死の王”」
その手にあるのは、
戦士の一人もいない極小の村にいつの間にやら紛れ込んでいた彼は、やはりどこから持ち出したかも分からないその槍を振るって振るって振るって、最初はその村を襲った不死の一体を、次に近隣の街を占拠していた不死の数匹を、その次には国の要たる城を落とそうとしていた不死の軍勢を——という具合に次々と打ち倒していき、しまいには、今こうして“不死の王”を追い詰めるまでに至っている。
完璧に遂げられるはずだった征服計画に突如として現れた、あまりにも予想の範疇を超えた異分子中の異分子。
「貴様……貴様は!」
もうほとんど瀕死の重傷を負いつつも、“不死の王”は目の前の彼に向かって叫ぶ。
不可解だ。あまりにも不可解だ。
なにせ彼は、せいぜい十の中ほど程度にしか見えないほどに若くて、戦士にしては身が細くて、なによりあまりに強すぎた。
「何者であるのだ、貴様は! ワレの——ワレらの全てを
「……俺か?」
彼は——暁の救世主、と呼ばれる彼は、人々の希望すべてを背負った彼は、ふっと寂しそうに笑って。
「俺は、
ニホン。コウコウセイ。
そのどちらの単語にも、“不死の王”は心当たりがない。
しかし、死体を不完全とはいえ蘇らせるほどの叡智を宿したその頭脳は、はっきりのその正体を理解した。
「貴様——この世界の者ではないのか!」
「流石。大当たりだよ。……さて、冥土の土産はもういいか」
異世界からの救世主の手にある槍が、強い輝きを宿す。
彼もまた、連戦に続く連戦と、“不死の王”との死闘によって、立っているのが不思議なくらいにボロボロだった。
「最後の仕事だ。いくぞ、“
光が駆ける。
「うぉぉぉぉおおおおおおッ‼︎‼︎」
「があああぁぁぁあああッッ‼︎‼︎‼︎‼︎」
ただ、一閃。
それがトドメ。
不死さえも滅ぼすその聖光に灼かれ、永遠なる支配者であり人類にとっての終焉、“不死の王”はその歪んだ命を構成するすべてを一瞬のうちに蒸発させた。
(許されるか……許されるものか、斯様な理不尽が! 許されてなるものかッ‼︎)
数多の人間を虐殺し、その死体さえもを弄んだ悪名高き“不死の王”が最期に覚えた感情は、異世界人への強い強い怨みであった。
こうして、一つの世界が救われる。
……。
…………。
ここから先を、この世界の誰も知らない。
“不死の王”がいたその場所に、無色透明のものがふわりと浮かんでいる。
目には見えない、気配もないそれは、死してなお残る命の根源、いわゆる“魂”というやつだった。
思考はない。意思もない。
ただその魂には、一つの激情が刻まれていた。
——【異世界人。】
——【許されて、なるものか。】