「しばらくはここで、双剣の女のいる大型パーティーが上の階層に進むのを待つしかない。この間に、あらためて俺たちの共通点を探りたい」
俺がそう提案をすると、タカユキもモモカも困惑した表情になった。
「前に共通点は無いって結論になったじゃない。お互いに名前を知らずに知り合ってる可能性はあるけれど、今ここで元の顔なんか分かりようがないし」
これに、首を横に振る。
俺たちはまだ、すべてを伝え合ったわけではない。
「俺たちには、お互いに伝えてない名前があるだろ?」
「なにそれ。今は亡き王国の王族名とか?」
「僕は王族ではなく一般庶民ですけど……」
「俺だって一般人だよ。そうじゃなくて、『シャインワールド』でのキャラクター名だ」
俺の言葉を聞いたタカユキがあごに手を当てた。
どうやらこれはタカユキの癖らしい。
この癖を、前にも『シャインワールド』内で見たことがある気がするが、誰だっただろう。
「ショウタ君が言っているのは、今のランダムに割り振られたキャラクターではなく、もともと『シャインワールド』で遊ぶときに使っていたキャラクターの名前……ということですか?」
「そうだ。俺たち全員の共通点は、『シャインワールド』をプレイしたことがある点だ。それはゲームマスターの最初の説明で発覚してる。パーティー契約の方法について、ゲームマスターは『みなさんはご存知でしょうが』と言っていたからな」
「そんなことを言ってたような、言ってなかったような?」
モモカは記憶が曖昧なようだったが、タカユキはうんうんと頷いた。
「言っていましたね。つまり僕たちは『シャインワールド』のプレイヤーだからデスゲームに選ばれた、と翔太君は言いたいんですね?」
「俺はそうだと思ってる」
「ふーん。で、ショウタは『シャインワールド』では、なんてキャラクター名でプレイしてたの?」
これを隠しては話が進まないため、正直に答える。
「アレキサンダーだ」
「えっ!? アレキサンダーって、もしかして『漆黒の翼』に所属してるアレキサンダー!?」
俺の名前を聞いたモモカが、驚きで裏返った声を出した。
どうやらモモカは俺のことを知っているみたいだ。
なお『漆黒の翼』というのは、『シャインワールド』内で、俺が所属しているパーティーの名称だ。
「俺のことを知ってるのか?」
「知ってるも何も、あたしは同じパーティーのピーチよ」
「お前、ピーチなのか!?」
まさかモモカが『漆黒の翼』のメンバーだったとは。
よく『シャインワールド』で一緒にダンジョンに潜っていたプレイヤーと、今も一緒にダンジョンに潜っていたなんて。
さすがにこれは想像していなかった。
「ショウタが同じパーティーのメンバーだとは思わなかったわ。それともアレキサンダーって呼んだ方が良い?」
「ショウタで良いよ。みんな本名なのに、俺だけアレキサンダーって呼ばれるのはなんか恥ずかしいから」
「じゃああたしもモモカのままで呼んで……って、ごめん。二人だけで盛り上がっちゃって」
モモカが、俺たちのことを見てぽかんとしているタカユキに話しかけた。
するとタカユキがぽつりと自身のキャラクター名を口にした。
「あの、僕はパウルです」
「パウル!? うそ、あんたも『漆黒の翼』だったの!?」
「はい。僕は『漆黒の翼』のパウルです」
「まさか全員が同じパーティーだったなんて」
大勢の参加者の中からパーティーを組んだ三人が、たまたま同じ『漆黒の翼』のメンバーだった。
……こんな偶然があり得るか?
あの何十人もの参加者の中から、偶然『漆黒の翼』の三人がパーティーを組んだ?
百歩譲って、『漆黒の翼』で一緒なこともあって気が合った三人が組んだならまだしも、俺たちはそういう経緯でパーティーを組んだわけではない。
お互いの性格を知らずに、打算で組んだパーティーだ。
その三人がもともと同じパーティーだったなんて、あまりにも偶然が過ぎる。
「これは偶然……だと思いますか?」
タカユキも同じことを思ったのか、怪訝そうな顔をしている。
「確率的に考えて、偶然じゃないだろうな。急ごしらえで組んだパーティーの三人全員が、もともと同じパーティー所属の人間だったなんて、出来過ぎてる。あまりにも不自然だ」
しかしこの現象が不自然にならない場合がある。
それは……。
「偶然じゃないとなると……もしかして参加者は全員『漆黒の翼』のパーティーメンバーってこと!?」
そうだ。
その場合は、俺たち三人が『漆黒の翼』のメンバーでも、まったく不自然ではない。
たくさんの参加者の中にいる、たった三人の『漆黒の翼』メンバーが集まる確率は限りなく低いが、参加者が全員『漆黒の翼』のメンバーなら、その中で組んだパーティーの全員が『漆黒の翼』である確率は100パーセントだ。
「じゃああの大型パーティーも全員が『漆黒の翼』のメンバーなの!?」
「たぶんな。『漆黒の翼』は、あのパーティーよりもさらに大きい超大型パーティーだからな。あのパーティーの全員が『漆黒の翼』所属だったとしても、人数的におかしくはない」
「ちょ、ちょっと待ってください! それって、あの双剣の女の人も『漆黒の翼』所属ってことですか!? あの人の正体は誰なんですか!?」
双剣の女の正体として、思い当たる人物はいない。
『漆黒の翼』には、あそこまで攻撃的なプレイヤーはいなかったはずだ。
「双剣の女に関してだけは、運営が用意した人間の可能性がある。たとえばデスゲームを盛り上げるためのエッセンスとして、な」
「あり得る話ね。デスゲームは予想外の殺人が起こった方が盛り上がるもの」
デスゲームに詳しいモモカに肯定されたということは、今の俺の意見は、的外れなものでもないらしい。
実際は本当にそう思っているというよりは、あのイカレた双剣の女が『漆黒の翼』の誰かだとは考えたくなかったゆえの意見だ。
友人が嬉々として他人を殺す狂人だったなんて、そんなことは想像もしたくないのだ。
「双剣の女が、『漆黒の翼』内で本性を隠してただけかもしれないけれどね」
双剣の女は運営の用意した人間だったということで納得をしようとしたところで、モモカが嫌な一言を付け足した。