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第12話 最悪の道


「やああぁぁぁぁっっ!!」

「こっのおーーーーっ!!」

「これでも食らえーっ!!」


「グギャアアアアァァッッ」


 二フロア下まで降りきって、双剣の女が追いかけてこないことを確認した俺たちは、やっと一息吐くことが出来た。

 ちなみにこのフロアのモンスターは復活していたが、双剣の女に比べれば脅威でも何でもない。

 三人で一斉に殴りかかって、速攻で討伐をした。


「これからどうするの?」


「あの大型パーティーが別の階層に行くまで待機するしかないだろうな。俺たちの姿が見えた瞬間、双剣の女が殺しに来そうだから」


 うっかりその様子を想像してしまい、身体が震えた。

 震える身体を両手で抱きしめながら前を見ると、タカユキとモモカも身体を震わせていた。


「ですが……いつかはあのパーティーを追い越さないと、一番先にダンジョンをクリアすることは出来ないですよね」


「それでも今は無理だ。チャンスを待った方が良い。あの女は自分の所属するパーティーのメンバーも殺してるから、あの大型パーティーはそのうち瓦解するだろう」


 双剣の女がパーティーメンバーを殺している犯人だと発覚してパーティー内で戦闘になるか、もしくは双剣の女がパーティーメンバーを殺しきるか。

 さすがに自身の犯行だと分からないようにしつつあれだけの人数を殺すことが出来るとは考え辛いから、パーティー内戦闘になるとは思うが。

 どちらにしても、あのパーティーには終わりが見えている。


「パーティーの中にあんな人がいたら、一瞬たりとも気が抜けないものね。あの人の犯行が発覚したら、パーティー内で喧嘩になるでしょうね。喧嘩になると言うか……喧嘩で済めばいいけれど」


「あの人はパーティーを追い出されそうになったら、餞別とばかりに数人は殺しそうですよね」


 双剣の女が、愉しそうに笑いながら次々とパーティーメンバーを殺す様子が簡単に想像できる。

 そしてたぶん、その想像は間違っていない。


「もう双剣の女のことは大型パーティーに任せよう。俺たちの手に負える相手じゃない」


「それはそう。あの人を見た後だと、どんなモンスターにも勝てそうな気がしてくるもの」


「実際、このフロアのモンスターを素手でぶん殴っていましたもんね、モモカさん。ダンサーなのに、一撃一撃の拳が重そうでしたよ」


「タカユキの杖も棍棒すぎて笑ったわよ。ヒーラーよりも棍棒使いの方が向いてるんじゃない?」


 やっと双剣の女の恐怖感が薄れてきたようだ。

 二人とも冗談を言う余裕が出てきたみたいで安心した。


「実際、あたしたちのレベルってどのくらいまで上がったのかしら」


「どうだろう。ステータスオープン」


 久しぶりにステータスを確認すると、俺のレベルは28まで上がっていた。

 階層から考えて、順当なレベルの上がり方だ。

 強いて言うなら、パーティーメンバーが三人だけのため、経験値が多めに分配されているのだろう。

 通常よりも少しレベルアップが早いかもしれない。


「このダンジョンの最上階のボスモンスターって、何レベルくらいあれば倒せるんだっけ?」


「パーティーの編成にもよりますね。このパーティーだと……レベル50は必要かもしれません。あまりにもバランスが悪いですから」


「うげえ、先が長いなー」


 確かに俺たちがボスモンスターを倒せるようになるまでには、まだまだかかる。

 しかし、しっかりした編成のパーティーの場合は、話が変わってくる。


「バランスの良い6人編成のパーティーだったら、レベル40でもダンジョンをクリア出来るはずだ」


「そうですね。ですが、僕たちの前を行く大型パーティーは、瓦解しそうなんですよね? それならあまり気にしなくてもいいんじゃないでしょうか」


「まだいるだろう、あの大型パーティー以外の有力パーティーが」


 俺たちはまだ見たことがないが、今のところ一番優勝に近いパーティー。


「あっ。クイズであたしたちとは違う道を進んだパーティーね?」


「そう。何人編成なのかは知らないが、ゲームマスターがあっちの道は階層をショートカット出来ると言ってたからな」


「それなんですけど……実はそのパーティー、あまり得をしていないのではないかと思うんです」


 タカユキが意外なことを言い出した。

 どういうことだと話の先を促すと、タカユキが眼鏡をくいっと上げる仕草をしてから語り始めた。

 タカユキの本体は眼鏡を掛けているのかもしれない。


「単純な話です。通常『シャインワールド』でダンジョンに潜るときは、推奨レベル以上のパーティーで潜りますよね。複数人で、きちんとパーティーの編成を考えた上で、装備も食糧も揃えて。だから僕もその感覚で考えていたんですが、今回は条件が違います」


「条件?」


「はい。今回は全員レベル10で、所持品は武器一つしか持たされず、ダンジョンに挑むことになったんです。レベル10は、このダンジョンでギリギリ死なない程度のレベルです」


 この時点で、タカユキが何を言おうとしているのか理解が出来た。

 思い返してみると、ゲームマスターは別のパーティーが進んだ道のことを、俺たちの進んだ道よりも良い道だとは一言も言っていなかったのだ。


「レベルが上がっていない状態で、いきなり高い階層のモンスターに挑んだら、どうなりますか?」


「そりゃあ全滅……あっ」


「そうです。そして下の階層で鍛え直そうにも、階層をショートカットした道を進んだパーティーは、あのクイズの部屋よりも下の階層のフロアでしかモンスターと戦えないんです」


「なにそれ。あたしたちよりも悪い条件じゃない!」


「そのパーティーがどんな答えを言ったのかは分かりませんが、あの三つの道は『ダンジョンをクリア出来る最高の道』『僕たちの進んでいる普通の道』『レベルが足りずモンスターに苦戦して、かなり下まで降りて鍛え直さないといけない最悪の道』の三つだったんだと思います」


 もしもあの道がショートカットの道だと分かった時点で引き返して、自分たちのレベルを上げてから道を進んだ場合は、まだマシかもしれない。

 しかし低層階はモンスターが弱い代わりにもらえる経験値が少ないため、高層階で通用するレベルにレベルアップするまでに、大量のモンスターを討伐する必要がある。

 そしてモンスターは一度討伐されると、すぐには復活しない。

 階段を上り下りして、いろんなフロアのモンスターを倒すしかないのだ。


「早めにあの道がショートカットの道だと気付けば良いですが、あの意地悪なゲームマスターはわざわざ教えてはくれないでしょうね。自分で気付くしかありません」


「うわあ。あたしなら何も考えずに進んじゃうわ……それで、進んだ後に真実を知って絶望する。なんかデスゲームらしい演出でムカつく。参加者の心を折るのもデスゲームの醍醐味だものね」


 モモカが疲れたように溜息を吐いた。


「そのパーティーはどんな解答をしたんでしょうね。きっと、かなり主催者を怒らせる内容だったに違いありません」


「うーん。案外、答えとは関係なくランダムで道を割り振ってただけかも。そういう理不尽系イベントも見てて面白いから。それにどうせどんな答えを言っても、ダンジョンクリア出来る道には行かせてくれなかっただろうし」


「それは俺も思ってた。階段を上るだけでクリア出来るようなゲームをするために、参加者を拉致までしたとは考え辛いからな」


 俺たちは今一度、このデスゲームの目的と、デスゲームを仕組んだ人物が誰なのかを考えなければならない。




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