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第2話 執着の始まりはここからだった


 小学校から一緒の須藤麗奈は、当時から今に至るまでずっと、ずーーっと理沙の恋愛を壊してきた過去がある。


 小二の時に同じクラスになって、たまたま同じ係になった時に色々お世話をしてあげたら懐かれた。

 当時から彼女はお人形のように可愛かったが、なぜか女子からとても嫌われていた。彼女と同じ保育園だったという子たちが麗奈を毛嫌いしていて、それが周りの子にも伝染したらしいと聞いたが、最初に話した感じでは特に嫌われるような要素があるようには思えなかった。

 だから「お友達になって」と麗奈に頼まれて、適当に「いいよー」と返した理沙だったが、のちのちまでずっとこの時の自分の判断を後悔する羽目になる。


 麗奈は独占欲が強く、理沙が別の子と話すのを嫌がり、二人きりでべったりしたがった。みんなで一緒に男も女も関係なく遊べばいいじゃんという子ども思考だった理沙はこの麗奈のべたべたした友人関係に耐えられず、嫌だと思った時はきっぱりと拒否していたら最初の頃のような粘着質な態度はなくなった。

 彼女も分かってくれたんだと安心したため、それからは普通に時々遊んだりして友人関係が続いていたが、ある時一部の男子の態度が理沙に対してとげとげしいように感じて、違和感を覚えるようになっていた。

 その理由に思い至ったのは、理沙がちょっといいなと思っていた男子が急に麗奈と仲良くなって、その後彼から嫌な態度を取られるようになったことだった。

 それでも最初は麗奈が関係しているなんて思わなかった。

 だが、理沙があの子かっこいいねなどと言ったら、翌日にはその子と仲良くしている麗奈の姿を見るというのを何度か繰り返したらさすがに何かあると気がつく。

 それでも小学生のうちは恋愛的なことに疎く、いろんな男子とベタベタして急に離れたりするから変な子だねとしか周りも思っていなかった。

 小学生のうちはそれでよかったが、中学に上がるころにはさすがにこれは嫌がらせとしてわざとやっているのだと鈍い理沙も気づかざるを得なかった。

 中学生にもなれば、好きな男子ができたりもする。

 だが、理沙が誰かを好きになると必ず麗奈が邪魔をしてきた。

 傷つける目的なのか、馬鹿にするつもりなのか分からないが、理沙が好きになった男子や特別仲良くなった子はことごとく麗奈に粉をかけられ、そして例外なく彼女を好きになっていた。

 わざとだと気づいたところで、どうすることもできない。

 好きになった男子が麗奈と仲良くなったからと言ってそれに口出す権利など理沙にあるわけがない。

 だから麗奈の振る舞いをとがめることなどなかったが、他の女子たちは以前よりもあからさまに麗奈を嫌った。それは仕方がない。彼女は面倒なことは麗奈を慕う男子たちにやらせて、理沙や女子たちに文句があればそれも男子を経由していってきたりもしていた。

 それなのに、麗奈は「理沙ちゃんと麗奈は親友なの!」と周囲にいってはばからなかった。たいていの人は勝手に麗奈が言っているだけだと分かってくれたが、中には理沙に文句を言ってくる人も少なくなかった。

 中学時代は周囲の人間関係を麗奈にごちゃごちゃかき回され続けた日々だった。しつこい嫌がらせにうんざりして、高校では彼女と距離を置くと決めた。

 麗奈と進学先がかぶらないように、理沙は猛勉強をして県内トップの高校に合格した。理沙の志望校をあの手この手で探ってきた麗奈も、偏差値を上げる努力はしたくなかったのか、普通に制服が可愛い私立に入学を決めていた。


 高校合格と麗奈の進学先を知った時、思わずガッツポーズをしたのを忘れられない。

 努力でつかみ取った自由だ! とこの時ばかりは頑張った自分を自分で褒め称えた。

 だが……高校が分かれたのだから連絡を絶てばそれで縁が切れると思っていた自分はきっと楽観的過ぎたのだろう。

 このあと再び、麗奈に悩まされることになるなんて、高校入学に浮かれていた理沙は想像もしていなかった。


 入学して部活にも入って、たくさん友達ができて、なにもかも順調だった。

 文武両道を謳うこの学校は、皆勉強と部活で忙しく充実していて、他人に意地悪をするような暇な人はいないのかクラスの雰囲気もよく、皆仲良しで楽しい学生生活を送っていた。

 そして二年生になってすぐ、理沙は男友達から告白された。


 男子バレー部に所属する、大沼裕太。


 理沙は女子バレー部に入っていたから、隣のコートを使う男子バレー部の人たちとは関わることが多くて、一年生の時一緒のクラスだった裕太とはすぐに仲良くなった。

 二年でクラスが分かれてしまい、部活で時々挨拶を交わすしか関わりがなくなってしまったと思ったら、彼に呼び出されて告白をされたのだ。

 離れてしまってようやく理沙のことが好きだったんだと気がついて、思い切って気持ちを伝えてみたと顔を真っ赤にしながら言われた時、つられて理沙も湯気が出そうなほど赤面したのを覚えている。

 その時はまだ恋愛感情まで至ってなかったが、好きと言ってくれた気持ちが嬉しくて彼の告白を受け入れた。

 人生初の彼氏。


 二人で話す時間が増えて一緒に過ごすうち、理沙も彼のことが大好きになっていった。周囲の友人たちも二人のことを「可愛いカップル」だと応援してくれて付き合いは順調そのものだった。

 だが、付き合って三カ月目にその幸せな日々が壊されてしまう。


 部活がなかった日、理沙と彼氏は駅前の繁華街で放課後デートを楽しんでいた。

 ファストフードで軽く食べてから、カラオケかゲームセンターのどっちに行くかと話しながら歩いていた時、街中で麗奈にばったりと出会ってしまったのだ。


「わあ! 理沙ちゃん久しぶり! こんなとこで会えるなんて嬉しい~」

「れ、麗奈……」


 高校が分かれて疎遠になったと思っていた麗奈。彼女の学校とは最寄り駅が離れていたため、遭遇するとは思ってもいなかった。

 可愛いと評判の制服を着た麗奈は、中学の頃よりあか抜けて周囲の人がチラチラを見るほど可愛らしかった。

 隣にいた彼氏があからさまに彼女に見とれていた。


「隣にいるのは彼氏サン……かなっ? 初めましてー」


 理沙としては彼氏を紹介したくなかったのだが、無視するわけにもいかずしぶしぶ返事をする。


「そうだけど……麗奈はこんなとこでなにしてるの?」

「理沙の中学ん時の友達? 凄い偶然じゃん」


 彼氏の裕太は理沙の不機嫌さに気付くことなく麗奈に話しかけている。勝手に時間あるならお茶でもしようと言い出して、近くのカフェに行くことになってしまった。


「理沙にこんな可愛い幼馴染がいたなんてなー。びっくりだよ」

「私も親友の理沙ちゃんにこんなカッコいい彼氏がいたなんて知らなかったですよお。うらやましいなあ、私なんてモテないから……」

「えっ麗奈ちゃん彼氏いないの? こんなに可愛いのになんで周りの男はほっておくのかな。高嶺の花すぎるのかな」

「そんなことないですよ。私、男の人ってちょっと怖くて距離置いちゃうんです。でも理沙ちゃんの彼氏さんは優しくて話しやすいです」

「……」


 普段入らないようなちょっと高めのカフェに裕太が行こうと言った時点で嫌な予感はしていた。

 彼氏さんから理沙ちゃんのお話が聞きたい~と言って、麗奈はすかさず裕太の隣に座ってしまった。どっちがカップルか分からない距離感で二人が盛り上がって話をしている。

 向かい側の席で見ていた理沙は、しばらく我慢して耐えていたが彼女そっちのけで麗奈にデレデレして理沙に話しかけもしない彼氏にうんざりして、三十分経ったあたりで限界を迎えて一人で席を立った。


「……私、そろそろ帰る」

「えーせっかく会えたのに理沙ちゃん帰っちゃうの?」


 理沙が帰ると言えば裕太も席を立ってくれるんじゃないかと期待した。

 だが、どうしたんだよーと言う声だけが投げかけられただけで、腰を上げる様子もなく、理沙が店を出て行っても追いかけてこなかった。




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