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第3話 初めての彼氏と最低な終わり方

 それから裕太からは連絡もなく、それにも腹が立ってあっちが謝ってくるまでは許さない! と憤っていたら、なんとその三日後にあっさりと振られた。


「お前ちょっと自己中すぎ。性格悪い女って俺無理だわ」


 曰く、あの時の態度が悪すぎて軽蔑しただとか、身勝手な性格についていけないなどの理由を並べ立てて、これでもかと罵倒された理沙は声も出ないほど傷ついた。

 いきなりの態度急変に混乱して何も言い返せないまま、初めての彼氏とは終わりを迎えた。


 初めての彼氏に手ひどく振られて、どうしてこんなことに……と落ち込んだ。

 意地を張って連絡をしなかったことを後悔した。

 幼稚な真似をした自分が悪いと反省し、何度も彼に許しを請う連絡を入れた。だがすでに連絡手段は全てブロックされており、学校で話しかけようにも目も合わせてもらえず、どうにか話でもきいてもらえないかと下校途中の彼を捕まえて懇願したが、乱暴に腕を振り払われてさすがに諦めるしかなかった。

 しばらくは自分を責めて落ち込んでいたが、実はただ彼氏は麗奈に心変わりしただけだったと知って衝撃を受ける。

 それが分かったのは麗奈本人からカミングアウトされたからだ。


『ごめんね、理沙ちゃん。裕太君に告白されちゃったの……』

「……は?」


 わざわざ理沙の携帯番号を裕太から聞き出して連絡してきたらしい。

 しかも、もう彼と付き合っていると言われめまいがした。

 たくさんの罵倒する言葉が頭をよぎるが、ここで何を言っても負け犬の遠吠えにしかならない。ガチャ切りして、着信拒否するだけで精いっぱいだった。


 それからも麗奈から定期的に連絡は来ていたが、理沙は全て無視していた。

 実は卒業後も麗奈からは時々メッセージが来ていて、当たり障りなく三回に一回くらいは返事をしていた。だが今回のことで完全に麗奈とは無理だと分かったため、電話もメッセージも麗奈のものは全て着信拒否にしたのだ。

 それで本当に絶縁されたと麗奈も気づいたのだろう。諦めるかと思いきや、なんと彼女は自分の母親に泣きついて、理沙の母に連絡を入れてきた。


「あんた、麗奈ちゃんからの連絡を無視しているって本当? あちらのお母さんが困って相談してきたのよ。喧嘩したんならちゃんと仲直りしなさいよー子どもっぽい真似しないで」

「え、だって……」

「だっても何もないでしょ。電話までかかってきてお母さんすごく恥ずかしかったんだからね」

「い、色々あったの! もう高校生なんだから友達関係でどうこう言われたくない!」

「高校生にもなって子どもみたいなイジメしているからでしょ! これ以上口答えするなら携帯取り上げるからね!」


 携帯没収をちらつかせられては黙るしかない。

 母親は麗奈ことを気に入っていて、以前から彼女と距離を置きたがる娘を何度も責めてくる。

 小学生の頃、麗奈を含めた友達たちが家に遊びに来たことがあり、そのなかで最も礼儀正しく可愛い麗奈のことをものすごく気に入って、また連れてきなさいよなどと言っていた。

 中学で色々あって彼女との付き合いをやめたら、それを知った母からひどく罵倒されたのを覚えている。あんないい子を嫌うなんてお前は最低だなどと言われたことは忘れられない。

 今でも近所で時々麗奈と会うらしく、黙っていてと言っても理沙の情報を彼女に話してしまうから、本当に迷惑していた。

 麗奈と付き合いたくない理由を話してもやはり理解してくれず、いいから仲直りしなさい! と怒鳴られ、仕方なく着信拒否を解除してメッセージを麗奈に送った。


『裕太のことはもうどうでもいいし、怒ってもいない。でも気持ちの整理はついていないから、今は連絡しないでほしい。なんて返したらいいか分からないし、思い出してまた嫌な気持ちになるから、今はそっとしておいてくれないかな?』


 メッセージを送ると、速攻で返事が来た。


『理沙ちゃんがそんなに嫌なら別れる』

「は……?」


 そんなこと望んでないし、ただ放っておいてほしいだけと伝えると、めちゃくちゃしつこく電話とメッセージがきて辟易した。

 定型文のように、そっとしておいてと返事をしていると、その一カ月後に『彼と別れた』というメッセージが来た。


『やっぱり理沙ちゃんに悪くて……悲しいけどお別れしなきゃって思ったの』


 麗奈が飽きっぽいのは昔からだ。中学の時は仲のいい男子をころころ変えていたから、移り気な性格なのだろう。別れたのを人のせいにしないでよと言ってやりたかったが、余計なことは言わずに『あっそう』とだけ返しておいた。

 別れた理由なんてどうでもよかったし、もう関わりたくなかったのでそれ以上何も訊いたりしなかった。

 ところが……。


「ねえ、裕太がめちゃくちゃ理沙の悪口を言いまわっているんだけど……」


 同じバレー部の友達が、裕太のしていることを報告してくれた。


「え、なにそれ。どういう悪口?」

「言いにくいんだけど……理沙に嫌がらせされているって」


 なんと裕太は、麗奈と元カレが別れたのは理沙が嫌がらせをしたせいだと学校で触れ回っているらしい。

 その内容というのが、身に覚えがないどころか何か漫画の読みすぎだろと突っ込みたくなるようなそれはそれはひどいものだった。

 それが本当ならストーカーとして警察に相談しろと言いたくなるような話を聞かされ、教えてくれた子も気まずそうにしている。

 裕太は理沙がひどい嫌がらせをしたせいで麗奈が精神的に追い詰められたから別れざるを得なかったと主張しているようだが、嫌がらせどころか関わりを絶とうとしていたこちらとしては嘘をつくにもほどがあると言いたい。

 まったくの濡れ衣だと教えてくれた友人に否定したが、そもそも全然裕太の言うことを信用していないから大丈夫だと慰めてくれた。

 いきなり彼女の友達に乗り換えた裕太の不誠実さに皆呆れて怒っていたし、振られた後の理沙が一切関わろうとしていなかったのも皆知っている。

 不誠実なうえに元カノの悪口を触れ回るような男のいうことなど誰も耳を貸さず、彼の評判は地に落ちた。

 周囲はドン引きし、裕太は友人たちからも距離を置かれる結果となっただけで終わった。

 気まずくなったのか、彼は部活も辞めてクラスでも浮いた存在になった姿をみて、もう怒る気力もでてこない。

 自分の悪い噂が広まらなかったから、学校生活がつらくなるようなことはなかったけれど、理沙の初めての恋愛はとても苦い思い出となってずっと心に残り続けた。


 その後、親に迷惑かけないでよと言われてから麗奈とは時々連絡を返すだけの付き合いを続けていた。

 時々駅で待ち伏せみたいなこともされたが、友達と一緒の時は声をかけてこないし、ひとりの時でも忙しいと言って振り切るとそれ以上しつこくはしてこない。親からは思い出したように麗奈ことを話題に出されるが、勉強と部活で忙しいと言えば(実際進学校で部活もハードだったため非常に忙しい)母親も文句を言いづらいのか無理に付き合いを続けろとは言わなくなった。

 そうやって麗奈とは微妙な距離を保ちつつ、それでも縁は切れずにずっとつながっているような関係が数年続いていた。


 その縁がまた無駄につながり始めたのは、高校を卒業して大学に進学してからのこと……。


「あっ! 理沙ちゃーん! 会えてよかった!」

「はっ? えっ? れ、麗奈?」


 大学の入学式が終わって帰るところで、麗奈に声をかけられて目玉が飛び出そうなほど驚いた。口がきけないでいる理沙に向かって、麗奈は勝手に腕を組んできてしゃべり続ける。


「理沙ちゃんと同じ大学に来たくて頑張ったの! すごいでしょ! 褒めて褒めて!」

 理沙とは別学部ではあるものの、同じ大学に入学したのだと聞かされ、本人の口からこれからよろしくね! と告げられて、入学式で高揚していた気分が一気にしぼんでいく。




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