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第8話 『どうも、ハイスぺイケメンです!』


 萌絵の提案はこうだ。

 理沙に彼氏ができると必ず麗奈がちょっかいかけに現れるのなら、略奪させるための偽装彼氏を作ればいい。レンタル彼氏とか、ホストとかの人に頼んで略奪されてもらうのだ。

 上手いことまた奪ってやったと、彼女が悦に入っているところで『それはニセモノの彼氏だよー』とネタ晴らしをして、彼女にお灸をすえてやるのはどうだろうというのが萌絵の考えた計画だった。


「ホントなら、DV野郎とか結婚詐欺師とかをあてがってやりたいけど、さすがにそれは理沙にも被害が及びそうだからね。略奪したあとでネタばらしして笑い者にするくらいしかできないだろうけど、偽物つかまされたって知ったらさすがにもうこの先理沙に彼氏ができてもちょっかいかけなくなるんじゃない?」

「……萌絵ちゃんあなた天才でしょ」


 略奪したあとに、騙されやがってばーか! と嘲笑ってやれば、プライドの高い麗奈はさぞかし悔しがるだろう。

 今までやりたい放題されていたのだから、今度はこちらが出し抜いて騙してやる。なんていいアイデアなのかと理沙は萌絵とハイテンションで乾杯した。


「でも、萌絵ちゃん。今大事なことに気づいちゃったんだけど、偽装彼氏のアテがないわ」

「あー、気づいちゃった? まともな人なら偽装彼氏なんて引き受けてくんないだろうし、ちゃんと仕事として引き受けて役目を全うしてくれる人じゃないと意味ないもんね」

「ミイラ取りがミイラになる可能性もあるよね……偽装のつもりが麗奈に惚れたらまじで意味ないもん。レンタル彼氏とか雇うしかないかな……」


 とはいえ、レンタル彼氏なんて本当に実在するのだろうか? よく分からないサイトとかで頼んで詐欺にあうのも怖いし、ホストなどにも伝手はない。早くも計画が頓挫しそうになったところで、ふと萌絵が一人の名を挙げた。


「そういや、この前圭司から電話あってさ。理沙と連絡とりたいって連絡だったんだけど……ちょうどいいしアイツに相談してみない?」

「うわ、懐かしい名前」


 圭司というのは高校時代同じクラスだった友人の一人だ。圭司の苗字が本橋で、入学してすぐ名前順に座った席で前後だったためよく話すようになった。

 とはいえ、クラスの中心人物だった圭司は他に仲の良い友人も多く、理沙とはたまにみんなで遊んだりする程度の付き合いだったので、それほど深い付き合いではない。高校卒業してから若干縁が切れていたような相手に妙な頼み事をするのは気が引けた。


「アイツ、顔が広いじゃん。大学生の時、バイトでホストやってた時期あるから、誰か紹介してもらえるかもよ」

「そうなんだ。大学の時は全然連絡とってなかったからなあ」


 理沙も人間関係でゴタゴタしたせいで、誰とも会わず疎遠にしていた時期があった。そういえば圭司からは定期的に忘年会だの花見だのと集まりの連絡を回してくれていた気がする。人をまとめるのが得意で、統率力がある彼は確かに色々な人脈を持っていそうだった。


「まあ相談するだけしてみよーよ。圭司に連絡してみるね~」

 萌絵はフットワーク軽くさっさと圭司にメッセージを送っていた。まあ紹介はともかく、彼に相談してみたら何かいい案をもらえるかもしれないし、久々に会って飲むだけでもいい。そんなことを考えながらスケジュール帳を見て空いている日を確認していると、萌絵が「アイツ今から来るって」と言い出した。


「なんかちょうど近くにいるから来るって。移動するのもめんどいからここに呼んでいいよね?」

 今から来ると言われちょっと驚いたが、とりあえずお酒を追加注文して彼の到着を待った。


「おー、ずいぶん出来上がってんなあ。あ、俺ウーロン茶で」


 呆れた声で笑いながら圭司が現れた。その姿を見て一瞬ぎょっとする。

 ツイストパーマをかけた髪はグレイアッシュに染められて、高校時代には空いていなかったピアスが両耳にいくつもついている。

 髪色にも驚いたが、ごつい指輪や派手な時計をしていて、とても堅気の会社員には見えない。

 良くてホスト、悪くて裏社会の人間かしらと理沙が驚いていると、それを察した彼が急いで理由を話し始める。


「そんなに引かないでよ。俺、今飲み屋のオーナーやってっから舐められないように派手な見た目にしてんの。親の仕事継ぐために修行中だから、今はこんなかっこだけど別の職種に移ったら真面目な恰好にするし」

「あっ、いや別にいいと思うよ? うちは結構古い体質の会社だから、女子でも明るい髪色とかは注意されるからびっくりしただけ。ごめんね、じろじろ見て」

「圭司はなんの言い訳してんのよ。そんなことはどうでもいいのよ。それより相談があるって言ったでしょ」


 注文した飲み物が届くのを待つことなく、萌絵はさっそく事情を説明し始めた。


 まず、同期の彼氏を再び麗奈に略奪されたばかりであることと、大学時代の彼も同じように麗奈によって破局させられた話をすると、圭司が納得したように大きく頷く。


「その麗奈って女、高校ん時もお前と裕太を別れさせた奴だよな? まだ粘着されてんの? うっわ、こええ~」


 高校時代の彼氏だった裕太は圭司と同じ部活の友人でもあったため、当時何が起きたのか大体知られている。彼氏が理沙の幼馴染に乗り換えたと知った時、彼に怒って説教してくれたのもこの圭司だ。まあ、その説教は彼の耳に届かず、結局彼は圭司とも仲違いして友達を辞めてしまったのだが。


「そうそう。大学ん時はあんま会ってなかったから知らなかっただろうけど、そこでもその女同じことやらかして、だから理沙も絶縁してたのにまた現れてさあ! またまた理沙の彼氏を誘惑して奪っていったのよ! こんなん絶対わざとじゃん? 理沙の彼氏を奪うことに執念燃やしているから、一生付きまとわれるんじゃないって話してて」


「あー、まあその可能性はある。んで、俺に相談ってなによ? ただの愚痴吐きじゃないんだろ?」

「えっとね、圭司の顔の広さを見込んで、彼氏の振りをしてくれる人を紹介してもらえないかなーと思ってさ」

「ん? 振り?」

「要はサ、偽装彼氏を用意しようって話よ」


 訳が分からないといった様子の圭司に、萌絵が先ほど理沙と話し合った計画を説明する。

 彼氏の振りをする上で大切なのは、決して麗奈に靡かないこと。

 彼女を騙せるだけの演技力があること。

 そして計画をうっかり口にしないよう口が堅い人であること。

 ある程度女性慣れしていて上手く麗奈を騙せるようなそんな男性に心当たりはないかと訊ねると、圭司は面白そうに笑いだした。


「あー、なるほど。それはいい考えだな。いーよ、それにぴったりな男を紹介してやる」

「えっ! ホント!?」


 まさかこんなにすぐ紹介できる相手を見繕ってもらえるとは思わず、理沙と萌絵は二人で手を取り合って喜んだ。

 だが理沙と付き合っているという設定が不自然にならないような相手でないと、嘘がばれてしまいそうだし、ある程度魅力的な人でないと麗奈が食いついてこないだろう。


「ね、紹介できるのってどんな人? 麗奈がそっこー奪いたくなるような相手だとありがたいんだけど」

「お? もちろん高スペックのイケメンだっつの。なんたってこの俺だからね」

「「へ?」」





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