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第10話 軍服と派閥とグラサン


 カフェテリアで昼食を取ったのちに、唯舞いぶはリアムと共に軍本部地下にあるという軍服管理庫に向かった。

 私服なので少々目立ちはしたが、バングルのおかげで誰にも声を掛けられることもなく地下へと降りる。



 「ミーアさーん! リアム・ラングレンでーす! いますかー?」



 誰もいない受付からリアムが声を掛ければ、少し遠くから「ちょっと待っててー!」という返事が返ってきて、唯舞達はそのまま待つことにした。


 2、3分ほどでガタガタと台車を押す音と一緒に一人の女が現れる。

 あちこち跳ねた髪を無理矢理ひっつめ、ヨレヨレのシャツに軍服を羽織ったジーパン姿。

 軍に所属する人間としてはかなりラフな出で立ちの彼女は、リアムを見るとにこーと破顔した。



 「ごめんごめん、リアム。待たせたね。……彼女がイブちゃん?」

 「はい、そうです。イブさん、こちらが軍服の管理をメインにおこなってくれてるミーアさんです」

 「初めまして。えと……唯舞・水原です」



 ぺこりと唯舞がお辞儀をするとミーアは物珍し気に目を細めつつ、穏やかに微笑む。



 「うん、エドから話は聞いてるよ。アルプトラオムは男ばっかだから、何か困ったことがあったらあたしの所においでね」



 よしよしと受付越しに頭を撫でられ、唯舞は小さく首を傾げた。



 「エド?」

 「あぁごめん。エドヴァルトのことだよ、あの胡散臭いグラサン。あたしはあいつと同期だから、何か変なことされたらすぐ言いにおいで。ソッコーであのグラサン叩き割るから」



 ニッといい笑顔でサムズアップしながらミーアが笑い、同意するようにリアムもうんうんと頷く。



 「大佐は万年彼女募集中の男ですからね。イブさんも気を付けて下さい」

 「は、はぁ……」

 「顔と体だけは一級品なんだけどねぇ。中身がアレじゃなきゃ彼女の一人や二人くらい簡単に出来るでしょうに」

 「階級も大佐なんですけどねぇ……」

 「昔から残念を絵に描いたような男なんだよねー……エドは」



 リアムとミーアが同時に深いため息をつく。

 唯舞はなんとなくエドヴァルトのあの扱いの意味が分かり、それにふさわしい言葉がある気がしてうーむと考えた。



 (見た目は大人、中身は子供、だっけ? ……ん?なんか違う)



 どこかで聞いたことのあるような無いようなフレーズが浮かんだのだが、よくは思い出せなかった。



 「まぁあいつの事はどうでもいいや! イブちゃんの制服だね、ちょっと待ってて」



  パンッと両手を鳴らして、ミーアは切り替えるように後ろに並んだ膨大な量の軍服の中から何着かを引っ張り出す。



 「とりあえずジャケットとシャツとスカートで基本のワンセットね。他がブーツとコートと、帽子……はあんまり使わないかもしれないけど一応渡しておこっかな。黒服の非戦闘員女の子の軍服ってあまりないから、デザインが可愛くなくて申し訳ないんだけど……ま、リメイクしたくなったら私がカスタマイズしてあげるから言ってね?」

 「黒服……ですか?」



 唯舞のその言葉に忘れてたとばかりにリアムが目を開いた。



 「あ、しまった……イブさんにはまだ制服の説明はしてなかった。えっと、軍には白服と黒服という二種類があって、簡単に言えば白服がこの本部及び国内の治安維持、黒服が戦闘区域での実動部隊なんです」

 「こらこらリアム君ー? 黒服と白服は仲悪いんだからちゃんと教えとかないと大変だよ~?」

 「すみません、ついうっかりしてました」



 リアムの様子にミーアがジト目で睨む。

 同じ軍人なのにそんな派閥みたいなことがあるんだろうか? と唯舞は疑問を投げかけた。



 「え、と。白服と黒服で、そんなに仲が悪いんですか?」

 「悪い悪い! もう会ったら笑えるくらいにバッチバチよ」



 ケラケラと他人事のようにミーアは笑う。

 詳しく聞けば、「安全地域にいて命令だけ寄こす白服は何様だ!」という実動部隊の黒服と、「戦うだけしか能がないくせに!」という治安維持部隊の白服、という間柄らしい。



 (あー……なるほど。現場と本部でめちゃめちゃ揉めてるってやつか……)



 確か、あれは……現場の刑事が遠く離れた会議室のお偉方にブチぎれる、映画界屈指の名シーンだったと父も熱く語っていた。

 そういう根幹部分はどこにいても変わらないのだな、と思ったら何だか妙に現実的で。

 その一瞬、ここが異世界だということを忘れそうになって、唯舞はほんの少しだけ困惑してしまった。


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