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第8話 きみのいない景色を、きみと歩く

それから数年後。

本屋の棚には、「風見隼」の名前がいくつもの背表紙に並ぶようになっていた。

だが、彼の文章はいつも変わらなかった。

優しく、静かで、読んだ人の心をそっと撫でるような文章だった。


ある冬の日。

とある小さな離島の図書館で、少女がその本を手に取った。


──『何もかも忘れるための旅なのに、君に見せたいものばかりだ』


読み終えた少女は、目を潤ませながら言った。


「……この人、本当に誰かを大切に想ってたんだね」


彼女の隣にいた青年が、微笑む。


「うん。たぶん、ずっと忘れたくない誰かがいたんだと思う」


それはもう、時間の向こうにある物語だった。

でも、風はまだ、どこかでページをめくっている。


言葉にならなかった想いは、

きっと今も、風の中で誰かを励まし続けている。


そして、隼人の旅もまだ終わってはいない。


きみのいない景色を、きみと歩く。


そんな旅を、今日もまた──

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