それから数年後。
本屋の棚には、「風見隼」の名前がいくつもの背表紙に並ぶようになっていた。
だが、彼の文章はいつも変わらなかった。
優しく、静かで、読んだ人の心をそっと撫でるような文章だった。
ある冬の日。
とある小さな離島の図書館で、少女がその本を手に取った。
──『何もかも忘れるための旅なのに、君に見せたいものばかりだ』
読み終えた少女は、目を潤ませながら言った。
「……この人、本当に誰かを大切に想ってたんだね」
彼女の隣にいた青年が、微笑む。
「うん。たぶん、ずっと忘れたくない誰かがいたんだと思う」
それはもう、時間の向こうにある物語だった。
でも、風はまだ、どこかでページをめくっている。
言葉にならなかった想いは、
きっと今も、風の中で誰かを励まし続けている。
そして、隼人の旅もまだ終わってはいない。
きみのいない景色を、きみと歩く。
そんな旅を、今日もまた──