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EDEN
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秦江湖
現代ファンタジー異能バトル
2025年07月15日
公開日
4.6万字
連載中
この宇宙を創造した「神」はその命を終えようとしていた。 神の命が尽きると、宇宙も命の供給が終わり死滅して、次の世代の新しい神が新しい宇宙を創造する。 その新しい神は地球(エデン)に誕生する。 新しい神を適切に導き、より調和のとれた完璧な宇宙を創るべく任務に就いた大天使ミカエル。 新しい神に「悪魔の宇宙」を創らせるために接触を図る悪魔王ルシファー。 二人はそれぞれ違う目的のために新しい神が産まれるより早く地球へ赴き、人間として生活する。 これが宇宙ができたときから神が定めたルールで会った。 地球でも、近い将来に全ての生物が生存できなくなることが予測されていた。 そのため人類は破滅後の世界でも人間が生存できる「EDENプロジェクト」を進めていた。 世界破滅の日は2029年8月13日。 そして2029年4月。世界的な学者である高原教授の一人娘、17歳の高原マリアの前にミカエルとルシファーが現れる。

第1話 宇宙の光

漆黒の闇が無限に続く大宇宙。

星々のきらめきが届かない宇宙の果てに眩いばかりの光があった。

光は闇の中で燃え上がるように周囲を白色に照らしている。

あまりに強烈な輝きは見る者を焼き尽くしてしまうほどに見える。

それはまさしく闇の中で燦然とく“光”そのものだった。

光の中は灼熱の“光”が嵐のような轟音とともに渦巻いていた。


その音は宇宙のどんな音よりも大きく恐ろしい。

その中心に純白に輝く者がいた。

黄金に輝く髪をなびかせている。

その容姿は地上あらゆる芸術家が心血を注いでも創造しきれない美を湛えていた。

神々しく美しい――

背には純白に輝く白い翼を6枚。

大天使ミカエル。

彼はこの宇宙でそう呼ばれていた。

その周囲をキラキラと光り輝く結晶のような物がただよっている。

結晶はなおも輝くと小さな天使の姿になった。

「ミカエル様、エデンに行かれるのですか?」

ミカエルの周囲をただよう天使が話しかけた。

「ああ。行くよ」

ミカエルは美しい旋律のような声で応えた。

「もう終焉なのですか?」

別の天使が尋ねる。

「ああ」

ミカエルは愛しむような目で自分の周りを漂う結晶をながめながら言った。

終焉という言葉を聞いたときに表情が悲しみに曇る。

「このようなときに主のお側から離れなくてはいけないなんて」

「かわいそう…」

「お留まりにはなれないのですか?」

「私たちはミカエル様と共にいとうございます」

ミカエルは頭をふった。

「主の定められたことだから」

その一言で天使たちは沈黙した。

この宇宙を創造した“主”と呼ばれる存在。

気の遠くなるような悠久の彼方より宇宙に生命の息吹を与えてきた。

だが主は終焉の時を迎えようとしていた。

そのときは刻一刻と迫っている。

もう猶予はなかった。

大天使ミカエルはこの終末のときに地球(エデン)に産まれる新しい“主”に会いに行かねばならない。

そして導き、目覚めさせ、偉大なる力を行使して新しい世界を創造する。

これは宇宙が誕生した時からの定めだった。

主の定めた理。

「私がエデンに行くことを悲しむことはない。これは遥か悠久のときより主が定めしこと」

それを聞いた天使たちは悲しそうな顔をした。

「では行ってくるよ」

ミカエルは自分との別れを惜しむ天使達に微笑を見せると輝く翼を羽ばたかせ、光の嵐の海を泳ぐように下へ下へと飛び立った。

漆黒の空間に輝く光から小さな純白の光が分裂するように飛び出した。



広大な宇宙空間にある全ての命を呑みこむ“深淵”がある。

恐ろしい重力に支配された黒い穴。

全ての光が届かない暗黒の世界。

その“深淵”の底にある赤黒く燃えさかる世界。

それは地獄。


その最下層にある氷の世界で異変が起きた。


氷の世界の中心に亀裂が入り、炎と稲妻が噴き出す。

巨大な炎は天にも突かんばかりに噴き上がり爆発しながら何かの形になっていく。

地獄の空を覆い尽くさんばかりの巨大な6枚の翼を持った恐ろしい炎。

熱風に山は崩れ空は荒れ狂う。

氷の亀裂から噴きあがった炎はやがて縮小して人の形になっていく。

漆黒の髪は逆巻くようにゆらめく。

薄紫色の瞳は傲岸不遜な“闇”。

容姿はミカエルと同等に美しく、黒い炎をまとっている。

その背にはこの世にあらゆる禍をまき散らす漆黒の6枚の翼。

地獄の王、魔王ルシファー。

ルシファーはゆっくりと氷の上に舞い降りると確認するかのように手の平を閉じたり開いたりし始めた。

「ハッ――ッハハハッ!久しぶりに自由になったぜ」

その声は地獄の隅まで響き渡った。

「ルシファー様――!!」

地獄の空から翼をはばたかせながら黒い狼が現れた。

「マルコシアスか」

「はい!ミカエルが地球(エデン)に向かいました」

「やれやれ、相変わらず忠義な野郎だ」

うんざりといったふうにルシファーは頭を振った。

「ルシファー様も急がないと遅れをとります」

「わかってるよ。あのイケ好かねえ奴らの思い通りにはさせねえ。地球(エデン)は毒悪にまみれたまま永遠に汚泥の塊になるんだ。そして俺達悪魔の宇宙が産まれる!」

ルシファーは美しい顔を邪悪な笑みでゆがめると肩をゆすった。

「おまえも一緒に来い」

「えっ!それは!!」

「安心しろよ。ミカエルと闘おうってんじゃねえんだ。まあゲームみてえなもんさ」

「しかし私、あの方苦手なんですよ…」

おずおずとマルコシアスが言う。

「手数は多いほうがいいんだよ。それにこの勝負に負けたら俺達も消えちまうんだぞ。地獄もろともな」

「それはそうですが……ちょっと聞いていいですか?」

「なんだ?」

「もし…その…勝負に負けちゃったら?やっぱ相手があることですし」

「決まってるだろ?そのときは殺す」

呆れたようにルシファーは言う。

「さてと!めんどくせえが新しい“主”に御面会と行くか!行くぞ!」

黒い翼を6枚すべて広げるとルシファーは広大な地獄の空に舞い上がった。

慌てたように黒狼マルコシアスが続く。

赤黒く燃えさかる世界から二つの“闇”が飛び立った。

そして全ての光が届かない暗黒の世界から闇が宇宙に吐き出された。


暗黒から出た“闇”。

光点から出た“光”。

二つは等しく同じ星を目指していた。

青く輝く地球(エデン)を。




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