狭いフィッティングルームの中。
「…あっ、痛い…ああっ…!」婚約者はすぐ外にいるのに、声を上げて助けを呼ぶこともできない。
身体を引き裂かれるような激痛は、初めての時よりもはるかに酷かった。
四方を囲む大きな鏡が、無情にもその姿を映し出している。
彼は冷たく息を吸い込み、
「お人好しの弟に、お前がもう誰かのものだったって教えてやろうか?」
と、皮肉めいた声を投げかけてきた。
「やめて!出て行って!」屈辱にまみれ、思わず叫ぶ。
「出て行く?」彼は鼻で笑った。
「ドアを開けて、弟に見せてやろうか?自分の大切な婚約者が、今どんな姿になってるか…」
「見ろよ、無理やりでも感じてるんだろ?やっぱり根っからの…」彼は嘲りを浮かべる。
悔しさで涙がこぼれ、唇を噛み切りそうになる。
「もうやめて……お願い……早く終わらせて……」
答えはさらに荒々しい仕打ちだった。
「口より、身体の方が正直だな」
彼は冷たく嗤い、私の顔を乱暴に掴んで唇を重ねてくる。
狂気じみたキスの中、血と涙の味が口に広がった。
まさか…今日が人生で一番幸せなはずの日になるなんて、誰が想像できただろう。
婚約者の瀬川拓真と一緒にウェディングドレスの試着に来て、まさかこんな地獄に突き落とされるなんて。
ほんの一時間前までは――
私は純白のウェディングドレスに身を包み、緊張しながら試着室から出てきた。
あんな過去を持つ私が、こんな幸せな瞬間を迎えられるなんて信じられなかった。
外のソファで待っていた拓真が、目を輝かせながら微笑む。
「晴子、本当に綺麗だよ!」
「別に普通じゃん」
低くて艶のある声が響く。その声は私の耳には悪夢のように響いた。まさか、彼…?この声は、絶対に忘れられない。
顔を上げると、鋭い眉と澄んだ瞳を持つ、美しい男がそこにいた。
瀬川達也――どうしてここに?
七年もの間、私はあの悪夢から逃げ続けてきた。
なのにこの瞬間、すべてが水の泡になった。
「兄さん、普通じゃないよ。晴子は俺にとって一番清らかな白百合だ」
拓真は不満げに眉をひそめる。
「白百合、ね」達也はその言葉を面白がるように繰り返し、冷ややかな視線で私を見下ろすと、拓真の肩を軽く叩いた。
「まあ落ち着けよ。俺が言ってるのはドレスのことだ。このままじゃつまらないだろ。俺が晴子に本当に似合うドレスを選んでやるよ。きっと…」
わざと間を置いて続けた。
「驚くぜ?」
次の瞬間、私は達也に腕を掴まれ、控室の奥へと強引に連れて行かれた。
兄弟…?まさか、二人が兄弟だったなんて――
束の間の幸せは音を立てて崩れ去り、私は世界がひっくり返る感覚に襲われた。
「バタン!」更衣室のドアが乱暴に閉められる。
すぐに強い力でドレッサーに押し付けられ、痛みで足元がふらつく。
「ガシャッ!」彼は手元の化粧品をすべて床に払い落とした。
「やめて! いや!」
抵抗する力も残っていなかった。
「痛い……やめて……」
突然の激痛に、涙が止まらない。
まさか、彼がこんなことをするなんて。
しかもすぐ外には、彼の弟がいるというのに!
「白百合?本当に弟は、お前がこういう女だって知ってるのか?」
……
私は目を閉じ、思い出したくない現実から逃げようとした。
永遠に続くかと思われたその拷問が終わったのは、私がもう死んでしまうのではと思った頃だった。
達也はやっと私を解放した。
私は壊れた人形のように、床に投げ出された。
彼は乱れた服を整え、ベルトを締め直す。
そして、またゆっくりと私に近づいてくる。
圧倒的な威圧感に息が詰まり、何かを手に取って身体を隠そうとするが、何も見つからなかった。
「瀬川達也……もうやめて。私たちは、もう終わったはずよ」
声を震わせながら言った。七年も経ったのに、もう二度と会うことはないと思っていたのに。
「終わった?」彼は冷たい笑みを浮かべ、腕を伸ばしてサテンのドレスを手に取った。
また辱められるのかと思ったが、彼は黙って私にそのドレスを着せてくれた。
その手つきは驚くほど優しく、さっきまでの暴力的な彼とはまるで別人だった。
その瞳には、柔らかな光が宿っていて、一瞬だけ私は現実を忘れそうになった。
「よし、これが一番お前に似合う。これから外に出るけど、何を言えばいいか分かってるよな」
彼は私の耳元で低く囁く。背の高い彼が身をかがめ、圧倒的な存在感を見せつけてくる。私にはもう逃げ場はなかった。