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さようなら、達也さま
さようなら、達也さま
鋼の意志
現実世界現代ドラマ
2025年07月15日
公開日
5.8万字
連載中
名家・瀬川家に嫁いだ晴子。しかし華やかな日常の裏には、誰も知らない陰謀と愛憎が渦巻いていた。信じていた人たちの裏切り、禁断の関係、そして密かに仕組まれる罠。晴子は愛と憎しみの狭間で何を選ぶのか――

第1話 試着室の悪夢

狭いフィッティングルームの中。


「…あっ、痛い…ああっ…!」婚約者はすぐ外にいるのに、声を上げて助けを呼ぶこともできない。

身体を引き裂かれるような激痛は、初めての時よりもはるかに酷かった。

四方を囲む大きな鏡が、無情にもその姿を映し出している。


彼は冷たく息を吸い込み、

「お人好しの弟に、お前がもう誰かのものだったって教えてやろうか?」

と、皮肉めいた声を投げかけてきた。


「やめて!出て行って!」屈辱にまみれ、思わず叫ぶ。


「出て行く?」彼は鼻で笑った。

「ドアを開けて、弟に見せてやろうか?自分の大切な婚約者が、今どんな姿になってるか…」

「見ろよ、無理やりでも感じてるんだろ?やっぱり根っからの…」彼は嘲りを浮かべる。


悔しさで涙がこぼれ、唇を噛み切りそうになる。

「もうやめて……お願い……早く終わらせて……」

答えはさらに荒々しい仕打ちだった。

「口より、身体の方が正直だな」


彼は冷たく嗤い、私の顔を乱暴に掴んで唇を重ねてくる。

狂気じみたキスの中、血と涙の味が口に広がった。


まさか…今日が人生で一番幸せなはずの日になるなんて、誰が想像できただろう。

婚約者の瀬川拓真と一緒にウェディングドレスの試着に来て、まさかこんな地獄に突き落とされるなんて。


ほんの一時間前までは――


私は純白のウェディングドレスに身を包み、緊張しながら試着室から出てきた。

あんな過去を持つ私が、こんな幸せな瞬間を迎えられるなんて信じられなかった。


外のソファで待っていた拓真が、目を輝かせながら微笑む。

「晴子、本当に綺麗だよ!」


「別に普通じゃん」

低くて艶のある声が響く。その声は私の耳には悪夢のように響いた。まさか、彼…?この声は、絶対に忘れられない。


顔を上げると、鋭い眉と澄んだ瞳を持つ、美しい男がそこにいた。


瀬川達也――どうしてここに?


七年もの間、私はあの悪夢から逃げ続けてきた。

なのにこの瞬間、すべてが水の泡になった。


「兄さん、普通じゃないよ。晴子は俺にとって一番清らかな白百合だ」

拓真は不満げに眉をひそめる。


「白百合、ね」達也はその言葉を面白がるように繰り返し、冷ややかな視線で私を見下ろすと、拓真の肩を軽く叩いた。

「まあ落ち着けよ。俺が言ってるのはドレスのことだ。このままじゃつまらないだろ。俺が晴子に本当に似合うドレスを選んでやるよ。きっと…」

わざと間を置いて続けた。

「驚くぜ?」


次の瞬間、私は達也に腕を掴まれ、控室の奥へと強引に連れて行かれた。


兄弟…?まさか、二人が兄弟だったなんて――


束の間の幸せは音を立てて崩れ去り、私は世界がひっくり返る感覚に襲われた。


「バタン!」更衣室のドアが乱暴に閉められる。

すぐに強い力でドレッサーに押し付けられ、痛みで足元がふらつく。


「ガシャッ!」彼は手元の化粧品をすべて床に払い落とした。


「やめて! いや!」


抵抗する力も残っていなかった。


「痛い……やめて……」


突然の激痛に、涙が止まらない。


まさか、彼がこんなことをするなんて。

しかもすぐ外には、彼の弟がいるというのに!


「白百合?本当に弟は、お前がこういう女だって知ってるのか?」


……


私は目を閉じ、思い出したくない現実から逃げようとした。

永遠に続くかと思われたその拷問が終わったのは、私がもう死んでしまうのではと思った頃だった。


達也はやっと私を解放した。


私は壊れた人形のように、床に投げ出された。


彼は乱れた服を整え、ベルトを締め直す。


そして、またゆっくりと私に近づいてくる。


圧倒的な威圧感に息が詰まり、何かを手に取って身体を隠そうとするが、何も見つからなかった。


「瀬川達也……もうやめて。私たちは、もう終わったはずよ」

声を震わせながら言った。七年も経ったのに、もう二度と会うことはないと思っていたのに。


「終わった?」彼は冷たい笑みを浮かべ、腕を伸ばしてサテンのドレスを手に取った。


また辱められるのかと思ったが、彼は黙って私にそのドレスを着せてくれた。


その手つきは驚くほど優しく、さっきまでの暴力的な彼とはまるで別人だった。

その瞳には、柔らかな光が宿っていて、一瞬だけ私は現実を忘れそうになった。


「よし、これが一番お前に似合う。これから外に出るけど、何を言えばいいか分かってるよな」

彼は私の耳元で低く囁く。背の高い彼が身をかがめ、圧倒的な存在感を見せつけてくる。私にはもう逃げ場はなかった。

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