痛い。全身が痛い。でもその痛みに悶えることも、歯を食いしばることも、泣くこともできない。
文字通りの無力。
いまさら言葉にする必要すらないほど、それはわたしの日常。
灰のように白い肌と髪。透き通るようなとか、雪のようなみたいな美しい言葉を許さない、骨と皮が辛うじて残った、ちいさくて弱い身体。
目は光を通さず、内蔵は病が蝕んでいる。
痛い。
でもなにも感じなくなったら"おわり"だ。
だからこの痛みがずっと続きますようになんて祈りながら、なにもない"この空間"でひたすら生きている。
……そう、この空間。VR空間。無限に広がる狭い世界。
わたしが産まれたのが16年前。その時からわたしは体が弱かった。お医者さん……つまり命のプロが、すぐに死ぬと判断するくらいには弱かった。
でも死ななかった。いつ死んでもおかしくないから、もう死んでなきゃおかしいに変わって、10年。
突然、わたしは光を知った。
幸運なことに、あるいは異常なことに、脳だけはほとんど正常だったわたしは、VRの世界でその時ようやく「産まれた」のだ。
あぁでも、なにも解決はしていない。
VRの中でさえ、わたしは走れば心臓がバクハツするほどの痛みに襲われる。もちろん最悪死ぬ。
全身の痛みだってまだ治っちゃいない。
できるのは触れることの叶わない世界の常識で描かれた絵本を読むことと、最近は文字の練習もできるようになった。「痛くない」と嘘をつけるくらいには、頭もよくなった。
痛みは続く。生まれた時からずっとずっと変わらない。
「やあやあ、お邪魔するよ」
……だれ?
部屋に入ってきたのは……男の人。
この部屋にお母さんとお父さん以外が入ってくることはそんなにない。それに、病院の人でもない……よね。こんなカラフルなお洋服着てないし。
おじさんがわたしの前に座る。わたしを見る目は、見た事がない目だった。それが少し怖かった。
「おじさんはねぇ、ゲームを作ってるんだ。知ってるかい?」
「……うん」
「そりゃあ良かった。話が早くて助かるよ」
助かるらしい。
正直あんまり分かってはない。でも聞いたことはある。映像を見たこともある。なんか戦ったりしてた。
「君はよく知っていると思うけどVRゲームは脳に負担がかかる。特にゲームというのは普段しない動きをしたりもするからね。普通なら頭が疲れる程度で済むけど、そうじゃない子もいる。君みたいにね」
「……えっと、はい」
眠くなってきた……。なんの話だっけ。
イマイチピンときてないわたしの様子を見て、慌てて話を進めてくれる。
「あぁええっと、つまりね……新しくVR機器を作ったから、ゲームを遊んでテストしてほしいんだ」
……。
迷う。はたしてわたしは、
前にも、そんなことを言われた。こんなお仕事みたいな話じゃなかったけど、もっと遊んでもいいんじゃないかって。
でもわたしは、死にたくはなかった。だってまるで、もう頑張らなくていいと言ってるように聞こえたから。
「しにたくないんですけど」
「死なないよ。君でも死なせないためにおじさん達だって頑張ってきたんだし。ほら、外で生きる練習だと思ってさ」
「れんしゅう……」
そう言われるとなんだかやっておくべきな気がする。
何もしないのって、なんだか治るのを諦めてるみたい、だよね。
「……わかった、やる」
「おお!やってくれるかい!そりゃあ良かった!」
外の世界……諦めてたつもりはないけど、ここから出れなくても仕方ないって思ってたかも。VRの中だけでも、まともに動けるようになるならうれしいな。
それにしても……知らない人とお話したから疲れたな……。
「……おやすみ」
「ちょちょ、ちょっと!ちょっと待って!まだ色々説明したいことが──」
なんだかうるさい気がするけど、眠気を優先して横になる。目を閉じたら静かな暗闇の世界。そこでわたしはまた痛みを意識する。この痛みを忘れることはきっと出来ないから、それを生きてると思うことにした。
■■■■
『
プロゲーマーやゲーム実況者勿論、ありとあらゆるゲーマー達が集う世界にその日、少女は飛び込んだ。