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第2話 最強と最弱

『カラケイ』事前プレイ初日、企画は盛り上がり、普段はただのゲーマーでしかない者もその日ばかりは配信をし、それすら同時接続者数が100人を超えるなど盛況であった。


【キタキタ】

【結構派手にやってるけどどうなん?】

【まだわからんけど難しそう】

【とりあえず牡丹のでも見とけ(URL)】


その中でも異質な動画が1つ。否、異質な者が1人、と言った方が良いだろう。

赤い髪を靡かせ、無駄に無駄のない動きでチュートリアル最後のボス戦の扉を開く。


『次元の門番』

名前とHPバーが表示される。


4,5mはある巨体、鋼鉄の鎧の様な身体、頭は包帯で覆われていて薄暗さもあり不気味なボスだ。


さて、チュートリアルボス、といってもこの企画、全国から有数のゲーマーが集まっているので、それなりに「ゲームに慣れている人向け」の難易度だ。基本的に「一度は死ぬ」ように設計されていると考えていい。


巨人の手が振り下ろされる。しかしそこに彼女はいない。

まるで最初から分かっていたかのように、ほんの数センチ動いて回避していたのだ。その腕を剣で叩きつけ、反動でジャンプ。巨人の頭に蹴りを入れる。


スパァン!!


空中で回転による充分な「溜め」をおこなった蹴りは、巨人をダウン──膝を着かせるには充分な威力だった。さらに無駄に無駄のない動きで巨人の首を切る。


ゴト……という音がすることもなく落ちる首の断面をよく見れば、中は空洞だったのがわかる。そして巨人の首に刺さった剣を一気に引き抜く!

巨人のHPが一気に0になり、その身体が消える。


ここで動画は終わっている。切り抜きの動画時間は1分にも満たず、初見とは思えないスーパープレイはしかし、彼女にとって当たり前であった。


『竜胆牡丹』、人類最強のプロゲーマー。

彼女が競技シーンに現れてから5年。

格闘ゲーム、FPS、パズルゲーム、RTAなど、あらゆるジャンルのゲームに現れては全ての大会で優勝し続け、未だ無敗・・・・

いつしか彼女は、「人力TAS」と呼ばれるようになった。


【お前らこれみろ(URL)】

【なんこれこわ】

【誰やねん】

【いいから見ろって、ヤバいから】


はじまりから数時間ほど経った頃、1件の動画が話題になった。

タイトルもサムネイルもなく、運営が付けたと思われるタグでどうにか『カラケイ』関連の動画だとわかるほどだ。


『それ』は白かった。白くて、細くて、小さかった。

『それ』が『人である』と認識するのに時間がかかるほど、あまりに不気味だった。


プレイヤーネームは「イワヒバ」。

病的に白い肌、白い髪。VRでロリアバターは珍しくないとはいえ、恐らく下限の100cm程度であろう小さすぎる身長。もうほとんどのプレイヤーが先に進んでいる中、まだチュートリアルボスに苦戦しているようだ。


【こわ】

【こんな小さいと操作しずらいやろ】

【もう骨と皮だけやん。随分凝ったキャラメイクするなぁ】

【病弱ロリええやん。センスある】


現実の彼女の身体・・・・・・・・ほどではないが、不気味なほど細いアバターになっている。恐らく、アバター作成をせずに自分の身体をスキャンしてそのまま使ってしまったのだろう。


フラフラとボス部屋に入る。

巨人が腕を振り上げると、イワヒバは武器を構え、ゆったりとした動きでどうにか受け流す。完全に受け流せるわけもなく、怯みモーションが入ってしまう。当然反撃はできず、そんなことを繰り返していたら壁際に追い詰められて死んでしまった。


だが不気味なのはここからだ。

リスポーンしたイワヒバは、ノータイム・・・・・でボス部屋に入る。どれだけの時間、どれだけの回数死んだかはわからないが、相当死んでいるはず。人間、失敗をした時は何かしらのリアクションがあるものだ。萎える、イライラする、息を整える、反省をする、あるいは少し休憩をする。失敗すれば感情の振り幅は大きくなり、失敗に慣れると今度は疲れてくるものだ。

しかし彼女はそのどれでもない。ただひたすらに挑み続ける。勿論上手くいかない。すぐに死ぬ。


【ずっとこの調子なんだよ。なんなら最初の方はもっと酷かった】

【あんまゲームに慣れてない感じある】

【そんなやつこの企画に居ないだろ】

【上手いやつばっかではないとはいえ、これはもうゲーム自体やったことないレベル】

【もしかしてこれじゃね?(URL)】


添付されたURLには『新型VR機器「プレイスターズ2」(PS2)の健康・安全面のテストについて』という文面があった。

VR機器のこれまで以上に脳や身体への負担を減らしたという説明、そしてそれを証明するテストプレイヤーを1人今回の事前プレイに送り込んだといった内容が書かれている。


【そういや話題になってたけどこの子か】

【プロフィール書いてあるけどえぐいわ。病気と障害の満漢全席やんけ】

【人生エアプはちょっと煽れんわ…】

【流石になんか救済措置あっていいんじゃないか】


ただ愚直に挑み続ける彼女の姿は、もはや痛々しさすらあった。配信開始から既に4時間、死んだ回数は100はゆうに超えている。他のプレイヤーなら長くとも1時間もかからない。流石に何か救済があっても良いのでは……と矛先は運営へと向かう。


【ダメだわコメント見てないっぽい】

【とりあえずお問い合わせはしといた】

【お前ら!いつ気づいてもいいように応援コメント連投しとくぞ!】

【よっしゃ!俺は拡散してくる】

【ほなワイも…】


次々とイワヒバの配信に人が集まる。10人、100人、1000人と増えていき、コメントの流れも早くなる。

そして……


「……ん?」


通算134回目。だんだんと上手くはなってきた頃。

またまた扉に手を掛けたとき、動きが止まる。なにやらウインドウを操作して……通知がきたようだ。


「……なに?ん?はいしん?」


流石に運営から連絡が来たようだ。ほんの少しの間、その後、ポンと手を叩く。配信をしていたことを忘れていたようだ。

しばらくウインドウの操作に手間取るイワヒバが映る。


「えっと……おーい、みえてるー…?」


カメラやコメント欄を可視化して、カメラに覗き込む。コメントの流れが一気に早くなる。


「おぉ……こんなにたくさん。みんな、ごめんね?きづかなくって」


たどたどしく話し始める。喋ること自体に慣れていない子供のように、ゆっくりと、一言ずつ。


「じこしょーかい。えっと……まず、名前だよね。なまえは……そう、イワヒバ。イワヒバって名前なんだ。16さいだよ。えっと、それでね──」


イワヒバは自分のことを少しずつ喋る。

自分の病気のこと、ずっと病院にいてVR空間から出られないこと、今自由に動けることがとても幸せであること。


「んーと……もうわたしのことはいいや。それより今はあれを倒さないとね。どーすればいい?」


【まずキャラメイク】

【身長もうちょい伸ばした方がやりやすいね】

【140は欲しい】

【いや120あればいいだろ】

【あと見た目ももうちょいかわいくしようぜ】

【ロリのままにしようとはするのなお前ら】


「んーと……120がちょうどいいかな。あとは…ちょっと肉付きを良く?えっと…あ、このへんね。これをちょっと上げて……こんな感じー?どう?ん?肌の色?あぁ、確かにその辺も……え?変えなくていい?もーどっちー?ふんふん……好きにっていわれてもなぁ。これかわいい?……かわいいか!じゃあこれで!」


(画像)


【うおおおおおお!!】

【かわいい!かわいい!】

【いけるぞ!つぎは勝てる!】

【これは勝ったな】

【風呂食ってくる】

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