私とイワヒバは修行をするために一旦カラケイをやめて、VR:WorldというVR機器に必ず入っているソフトで合流した。
せっかく体育館ワールドだし、体操着でも着せるか。ん?2つあるがこれはどう違う……あぁ、ブルマか。いやそんな趣味はないし普通ので。
私は赤ジャージを着てっと……いいぞぉ、テンション上がってきた。
さてと。
「強くなりたいかーーー!!」
「……おー」
半ば無理矢理、イワヒバを修行に連れてきてしまった。フクロウにも静止されたが、このまま放っておくにはイワヒバはあまりにも命を削りすぎている。
本格的に基礎を叩き込んで、消耗しないようにせねばならん。
……いや、その前に聞いておかないとな。
「何故?」
「……??」
「何故、強くなる必要があると思う?」
「……?……!わ、わかんない……!」
だろうな。
聞けばゲーム初心者どころか、人生初心者。とにかくただ生き延びるために生きてきた人生に、思想は生まれない。
「……ぇ、えっと、なんで……?」
「自分で考えろ!なんでもかんでも聞けば教えてくれると思うなよ!!」
「ふえぇ……」
「と、言いたいところだけど目的意識は大事なので今回だけ特別に私がお前に目的を与える」
「ぇ、あ……うん」
普段なら強くなる過程で本人に見つけさせるのだが……まぁ、今回は楽しくゲームできればそれで良いのだしな。そこをハッキリさせておこう。
「イワヒバ、ゲームは楽しいか?」
「う、うんっ…たのしいっ…!」
おぉ、食い付きがいいな。やはりゲームは万人が楽しめる最高のエンタメだ。
「なら、せめてゲームの中でくらい、自由に楽しめた方が良かろう」
「じゆう……」
「どうした?」
自由というワードに引っかかったらしい。難しい言葉ではないはずだが……。勘弁してくれ、子供の扱いには慣れていないんだ。
「……その、いまって自由じゃないのかなって……」
「走ることも出来ん、激しく動けば動悸息切れ、それでしょっちゅう緊急ログアウトしているのが"自由"か?お前は現実のしがらみから解放されねばならん」
「……??むつかしいこと言わないで。ころすぞ」
「言ってないぞ!あと言葉には気をつけろよガキ。私を殺そうなんて100年早い」
「それじゃ、急がないとね」
残念だが急いでも100年は経たないぞ。
ともあれ、なるべく分かりやすく、短い文で説明。あれがこうで、これがああで……で、こう。わかった?
「そっか……言われてみれば自由じゃないのかも……」
「そうだ。せっかくのゲームなのにそれでは楽しくない。目的は「楽しむため」だ。わかったな?」
「ん、わかった」
よし、わかったらしい。
とりあえず、強くなる気があるなら教えがいもあるというものだ。
「ということで、まずは呼吸をどうにかするぞ」
「……えっと、呼吸は……できるよ……?」
「いいや、出来ていない。お前がやっているのは呼吸モドキだ」
「……!?!?!?」
イワヒバが目を丸くする。意外と表情豊かだな。
まぁ、呼吸モドキというのは言い過ぎにしても、VR空間で少し動くだけで息が乱れるというのは普通なら有り得ない。
勿論、激しい戦いを長時間行えば大抵は息が乱れるが、逆に言えば現実と同じ体力ではないということだ。本来脳しか動いていないのだから、当然といえば当然。
「VR空間なら一切疲れずに戦うことができる。常に
「お、おお…!すごそう…!」
良かった、食い付きがいい。呼吸の練習は地味すぎてプロ目指してるとかでもないとやらんからなぁ。大抵はそこまでせずともそれなりに長時間遊べるわけだし、格闘ゲームで多少息が乱れてもそれはそれで楽しさに寄与してるからだ。
「まずは深呼吸からだな」
「しん、呼吸……」
「そう。思いっきり息を吸ってー」
「すぅー……」
「吐いてー」
「ふぅー……」
「もっと吸ってー」
「すぅーーーーーーー……げほっげほっ」
「おおっ…だ、大丈夫かっ?」
むせる程に吸いすぎていたわけでもなさそうに見えたが、やはり生来の身体の悪さが影響しているか。
「……ん、だいじょーぶ」
「そうか……いやまて、大丈夫な顔には見えんぞ」
いつもの無表情に近い顔が、少し苦しそうなだ。微細な変化だが、いつもあまり変化しないからわかりやすい。
「……ちょっと、いたいだけ。すぐなおる」
「いやそれ結構問題だぞ…!?」
深呼吸しただけで痛み……?おいおいウソだろ……。
身体が弱い、といってもまさかそこまでとは。これは少し認識を改めた方がいいな。
「どこが痛む?」
「えっと……ぜ、ぜんぶ……?」
「はぁっ!?」
「ひっ……ご、ごめんなさいっ……」
「あ、いや……怒ってない。大声出してすまなかったな」
ここ数年で1番驚いたかもしれん。思わず大声出して怖がるせてしまった。
えっと、こういう時はなんだ…?頭でも撫でてやればいいのか?
「そういうのはいい……」
「あっ、はい」
頭撫でたら怒られた……。いやほぼ他人みたいな女に撫でられても嫌なのは当然か。
痛みが引いたのか、いつもの無表情に戻りポツポツと話してくれた。
「えっとね、ずっとぜんぶ痛いだけだから、だいじょーぶ」
「それは大丈夫とは言わん」
「えへへ…」
常に痛みが全身を蝕む……なるほど、そりゃあ出血の時の痛みで警告が出るわけだ。アレ結構痛いからなぁ……マッチョに思い切りビンタされたくらいの痛みはある。
「……なあ、その痛みに耐えてまでゲームをする必要はないんだぞ?あくまで遊びにすぎんのだから」
「……わたしも、そう思ってた。生きるのに必要じゃないから」
そうだ。こいつは生きること……生き残ることがまず最優先だ。
どうせあの胡散臭い社長にそそのかされたんだろうが、ここまで苦しんでゲームをしている時点でもはや目論見は失敗している。
「でも……あの世界でいろいろ、がんばってみて……生きるって、そういうこと、なのかなって」
「それは……
「……そうだけど、でも……わたしは、いまはここでしか生きられないから」
ここがわたしの
「そうか。なら、頑張らないとな」
「うんっ…!」
ぽんぽん、と頭に手を乗せてそう言うと今度は拒否されることなくとびきりの笑顔で返してくれた。
まだまだ先は長い。