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第28話 龍の律

 前回のあらすじ!!思ったより苦戦してきたぞ!!


 「クソっ!確かになるべく長引かせろとは言ったけどなんもするなとは言ってない!たすけて!へーーるぷ!」


 やれやれ……とフクロウ&イワヒバと交代する。既にクリアしている牡丹は、フクロウが気づくまでダメージを与えすぎず、しかし何もさせないように立ち回る。


 「……あの人がたたかいにきたら、敵がなにもしなくなったんだけど……なんでぇ?」

 「なんでだろうねぇ。僕もわかんない」


 元々NPCにはザコ敵に至るまで上等なAIを積んではいるが、ボスとなればさらに良いAIを積んでいる。一昔前のゲームのように、何もさせず完封……など本来なら有り得ないはず……なのだが……。なんなんだろうね。


 さて、落ち着いたところで観察する。

 と、いってもボスが何もさせて貰えていないという異常事態を観察しても意味はない。


 「思い出せ……今回の戦闘で何か違和感があったか……!?」


 いや、思い返して見れば違和感だらけだ。あの量の弾幕にしてもそうだが、戦闘中の技にしたって、頻度が多すぎる。


 「というか……リジェネ時間長いような……待てよ……?」


 そう、そしてなによりヒメはずっと・・・祈り続けていた・・・・・・・。その技は祈り続けている限りMPを使い続けるにも関わらず、MP切れでの『龍罰』が起きていない…?


 魔法やアーツでMPを使うと、ビリビリと電流のようなものが周りにまとわりつく。使うほどそれは強くなり、MPが0になると天から雷が直撃し死ぬ。

 だが、今回はそれがない。なぜ…?


 「ようやく気づいたか。マップをよく見てみろ」

 「さっきからマウントがすごいな……マップって言ったって、そんな変なところは……あ!!」


 よく見るとそこは、本来ならエリア外となる『龍の壁』の外。


 「龍罰は龍の呪い的なあれがどうとかで、要するに壁の中だけのルール。つまり……!!魔法が使い放題って、こちょ!?」

 「そういうことだExactly。せっかくなら、なんか面白い魔法でも見せてやれ。時間はいくらでも稼いでやる」


 面白い魔法、と言われてすぐ出せるのがこの男〜!!ただのロリコンではない!

 度重なる考察により既にこのゲームの魔法言語をほぼ解読済み!オリジナルの詠唱はMPが倍かかるため使わないと思っていたが……。


 「おにーさん、やっぱりすごい…!」

 「解読って言っても、ただの暗号みたいなものだからね。材料さえ揃えば……っと、そろそろ準備しないと。モシュネー!チェンジ:装備スロット2」


 装備を入れ替える。

 魔法使い最終試験で手に入れたスキル「精霊自然言語」とは、すなわちMP2倍のデメリットを無視して詠唱を自由に作ることが出来るスキルだ。

 これだけでスキルオーブのスロットを3つも消費する上に、仕様上、やはりMPの消費は多くなるので専用の装備を用意していた。


 さて、詠唱を自由記述すると言っても魔法言語で言わなくてはならない。ただ音を入れ替えた暗号程度のものだが、だからこそ長い分を作るのは難しい。できるだけシンプルに、かつ効果的な魔法を。


 「『龍罰をこの地に』」


 龍罰は決して、プレイヤーだけが気にしなくてはいけないものではない。NPCやモンスターに至るまで、そのルールからは逃れられない。


 牡丹が距離を取り、全員がその大盾の後ろに隠れた瞬間、これまで何もさせて貰えなかった鬱憤を晴らすように血の弾幕が飛び交う。

 その5秒後、MPが尽き、龍罰の落雷により『戦士たちの血』が討伐された。



 ■■■■■■■■

 ・『戦士たちの血』を討伐しました

 ・スターオーブを入手しました

 ・スキルオーブ「命の呼吸」を入手しました

 ・NPC『赤の巫女 フレイ』の力が解放されました

 ■■■■■■■■




 「ぉ、おわっ、た……?」

 「おつかれ。疲れちゃった?」

 「ん……ちょっと、痛い」

 「え、だ、大丈夫!?具合は!?」


 ちょっとどころではないはずだ。

 牡丹やフクロウはこのくらいの痛みであれば、他のゲームでも時々経験していて慣れている。出血の時の痛みは耐えられないほどではないが、人によって戦意喪失する。

 ヒメの回復によってデスしなかったが、避けることなく戦ってたせいでイワヒバは何度も出血していた。普段から全身に痛みを抱えてるイワヒバにとって、この痛みはそう簡単に我慢できる痛みのはずがなかった。


 ふと、フクロウが視線を別の方向へと向けると、目を見開いた後真剣な表情でイワヒバに迫る。


 「……イワヒバちゃん。警告、でてるね?」

 「な、なんで知って……」


 戦闘中は余裕がなかったが、イワヒバの配信から来た視聴者たちがフクロウの配信のチャットに「身体への異常が検知された」という警告が来ていると、大勢がコメントで知らせてきてくれていた。


 「……無理しちゃダメだよって散々言ってきたと思うんだけど」

 「……強制ログアウトじゃ、ないし。その、戦ってる最中だったから……突然きえたら、メイワクかもって……」

 「そんなこと思うはずないじゃないか。いいかい?とにかく警告が出たらすぐにログアウトすること」

 「……うん」


 既に警告も消えていて、今回は大事には至らなかったようだ。


 「おい」

 「あ、牡丹さん。すいませんすぐに──」

 「そいつ借りるぞ」

 「へ?」


 そいつ、と指差す先にはイワヒバ。


 「私が面倒を見てやると言っているんだ。もう少しこのゲームを楽しめるようにな」

 「何をする気です?」

 「一言で言えばそうだな……修行だ」


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